[特集]

中国の最新インターネット事情(3):中国ISPのインターネットの歴史と現状

2008/11/20
(木)
陶 一智

中国では、急速な経済成長を背景に、すでに携帯電話利用者は5億人を超え、さらにインターネット利用者数は、2008年6月末で2億5千300万人に達しています。これは、2億1千500万の米国を超えて、世界第1位の数字です。この連載では、中国のインターネットの歴史や特徴、社会に与える影響など、最新の情報に焦点を当てます。
連載第3回目の今回は、中国のインターネット・サービス・プロバイダ(ISP)について紹介します。

北京オリンピック開催記念連載! 第3回

≪1≫中国のインターネット・サービス・プロバイダ(ISP)の現状

日本と同様に、中国にも多くのISPが存在します。中国では、1996年2月14日の国務院令第195号“コンピュータ通信ネットワークの国際接続に関する管理暫定規定”に基づく2種類のISPがあります。一つは、IN(Interconnection Networks)と呼ばれる種別で、国際接続も持つバークボーン・ネットワークです。この国際接続については、MII(Ministry of Information Industry)が管理する国際ゲートウェイを通ることが義務付けられています。もう1種類は、AN(Access Networks)で、これは、加入者へ直接サービスを提供するISPのことです。国際接続については、INのサービスを通じて提供することが義務付けられています。現在、INは表1に示す数社であり、この配下でサービスを提供するANの数は数百を超えるものと見られています。


表1 主要バックボーン・ネットワークISP名(クリックで拡大)


図1に、国際接続を持つANの接続イメージを示します。海外のインターネットへ接続している回線の総容量は急激に増大しており、2008年には、ほぼ500Gbpsに達しています。年成長率を見ると58.1%にも達しています。この様子を図2に示します。


図1 バックボーンISPの海外接続形態(www.meti.go.jp/report/downloadfiles/gokin11j.pdfより引用)(クリックで拡大)



図2 国際接続回線の総容量(中国互聯網信息中心の2008年6月データより作成)(クリックで拡大)


INのネットワークのほとんどは、国内ではISPのバックボーン、各省の地域ネットワーク、加入者のキャンパス・ネットワークという3階層のネットワーク構造を持っています。その例として、アカデミック・ネットワークのCERNETの場合を図3に示します。


図3 主要ISPの階層構造例(CERNET)(クリックで拡大)


具体的なイメージをもっていただくため、バックボーンの構造を代表的なアカデミック・ネットワークのCERNETの場合(図4)と国内最大の商用ネットワークであるCHINANETの場合(図5)で示します。


図4 CERNETのバックボーン(http://www.nrc.tsinghua.edu.cn/7_english/Situation1.htmより引用)
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図5 CHINANETのバックボーン(出典BIIグループwww.meti.go.jp/report/downloadfiles/gokin11j.pdfより引用)
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≪2≫アクセス・ネットワークとISPの現状

現在、中国のインターネット接続方法には、

(1)ADSLや光ファイバーなどのブロードバンド
(2)ISDNや電話回線などのダイヤルアップで接続する有線のナローバンド
(3)携帯電話会社の無線カードを使用した無線ナローバンド

の3種類があります。アパートやオフィスビルなどでは、自由にプロバイダを選ぶことはできず、建物全体で特定のプロバイダ(例えば、中国網通、中国電信、中国鉄通、中国聯通、中国移動、中国電信など)に加入していることがあります。例えば、ビルまでは光ファイバーが引かれており(これをFTTB=Fiber To The Buildingと呼びます)、ビル内にルータとハブが設置されていて、これを各階までイーサネットで引く形になります。このような場合、建物の管理者に言えば申し込み手続きをしてくれます。

そのような設備が設置されていない場合には、個人で近くの電話会社の営業所などに申し込みに行きます。このため、加入するプロバイダはその電話会社が運用しているものとなります。表2に、通信会社と提供しているアクセス・ネットワーク種別をまとめておきます(なお、中国衛通を除き、他の会社はIP電話のサービスも提供しています)。


表2 通信会社の提供するアクセス・ネットワークのサービス(クリックで拡大)


個人の場合、月額1000円から3000円程度の利用料がかかります。北京で中国電信のADSLサービスを利用する場合の例を表3に示しておきます。速度は512kbpsの場合です。この他に1Mbpsや2Mbpsのメニューもあります。また、メールやウィルス・チェックまで付いたパッケージもあります。


表3 512kbpsのADSLサービス料金表(クリックで拡大)


写真3は、町で見かけたISPの広告の写真です。加入するとアンチ・ウィルス・ソフトが無料となり、電話の月額固定料金も無料となり、電話の通話料も無料で、友達同士の通話料も無料と大変魅力的な内容となっています。


写真3 町で見かけたISPの広告


最近、ISDNや電話回線でのダイヤルアップの利用者は減少していますが、ADSLや光ファイバーなどのブロードバンドの利用者数が増加しており、その結果、ブロードバンドでの接続数は2.14億人を達成しました。また、携帯電話のインターネット利用者数は7,305万人を達成し、ブロードバンド並んで増加傾向にあります。図6に2008年の調査結果を示します。www.cnnic.cn の調査によると、2007年には、ブロードバンドを利用している人が全体の75.6%、ダイヤルアップを使用している人が19.5%、そして携帯電話やカードでアクセスしている人が34.3%でした。2008年の調査結果(図6)では、ブロードバンドを利用している人は2007年の調査よりも5100万人増加して、前年度の75.6%から84.7%に増加しています。図6にはダイアルアップを利用者の統計が示してありませんが、これは、2008年のwww.cnnic.cnの調査自体で当該項目がなくなっているからです。なお、以上の統計では、複数手段を利用している人もいるため、調査結果の合計は100%になっていません。


図6 アクセス方法(クリックで拡大)


一方、どのような機器を使用してインターネットをアクセスしているのかを調査した結果を図7に示します。これによると、2007年と比較してデスクトップは減少して87%程度に、ラップトップは30.9%、そして携帯電話からのアクセスは増加して28.9%になっています。携帯電話からのアクセスしている人の数を見ると前年度の調査から2265万人増えて7305万人となっており、45%も増加しています。


図7 利用している機器(クリックで拡大)


【コラム】

インターネットでよく使われる中国語
 

表 インターネットでよく使われる中国語(クリックで拡大)


 

【コラム】

中国聯通と中国網通の合併

2008年10月15日、中国の通信事業者大手の中国聯通(チャイナ・ユニコム)と中国網通(チャイナ・ネットコム)が株式交換の形で合併し、新しい企業が誕生しました。合併に伴い、社名は「中国聯合網絡通信有限公司」に変更されました。聯通の聯の字は、日本の当用漢字では連と書き、発音はどちらも“れん”であり、意味も同じです。また、網絡とはネットワークのことです。以下に、それぞれの会社のバックグラウンドを紹介しておきます。

〔1〕中国聯通(チャイナ・ユニコム)
1994年7月に設立され、95年には世界で最も普及しているGSM(Global System for Mobile Communications)方式で携帯電話サービスを開始した携帯電話事業者です。1999年2月には、組織変更を行い、増資して資本金を163億元とし、主要株主数も14に増加しました。また、2000年6月に、ニューヨークと香港の証券取引市場に上場しました。なお、米国クアルコム社が開発したCDMA(Code Division Multiple Access)方式の携帯電話サービスも2002年から提供しています。今回の合併に伴い、このCDMA方式の事業は中国通信に移管されました。

〔2〕中国網通(チャイナ・ネットコム)
複雑な歴史をたどってきたインターネットや固定電話などの通信事業者です。まず、2000年に、国営通信会社であった(旧)中国電信が、固定通信事業の(新)中国電信と携帯電話事業を担当する中国移動に分割されました。2002年には、この(新)中国電信を南北に2分割し、北部を中国網通が、南部を(新新)中国電信が担当する政策が決定され、中国網通のほうは2003年11月に設立されました。そして、2004年11月には、ニューヨークと香港の証券取引市場への上場を果たしています。2008年8月現在の顧客規模は、ADSLや光ファイバなどのブロードバンド回線の契約数が約2880万、固定電話の契約者数が約1億、その他の契約が1.37億となっています。
合併によって、「中国聯合網絡通信有限公司」は、携帯電話の契約者数が1.3億、固定電話の契約者数が1億2千万、ブロードバンドの契約者数が2880万に達する巨大な通信会社になりました。また、従業員数も通信事業者中で最も多い50万人となっています。そのうち、15万人は旧聯通の従業員、35万人は旧網通の従業員です。
2008年には中国聯通と中国網通の合併だけではなく、中国通信企業の合併が相次ぎました。これを表1図1に示しておきます。


表1 中国通信企業の合併前と合併後の状況(クリックで拡大)


図1 中国通信企業の合併前と合併後の組織(クリックで拡大)


参考サイト
中国電信 http://www.chinatelecom.com.cn/
中国聯通 http://www.chinaunicom.com.cn/
中国移動 http://www.chinamobile.com/

プロフィール

陶一智(とう・いちち)

7年前に来日し、2006年に法政大学ビジネススクールにおいてMBA(経営学修士号)を取得。
現在、株式会社TERMONYのインターネットビジネス事業部代表として、女性のためのウィッグ販売サイトhttp://www.igennki.comのオペレーションを行っている。

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