[標準化動向]

802.1/802.3の標準化動向(11):40Gbps/100Gbpsイーサネット(IEEE 802.3ba)の標準化が前進

=シングルモード光ファイバ10km向け40Gbps方式を採択、ドラフト仕様1.1発行=
2009/01/06
(火)
SmartGridニューズレター編集部

IEEE 802.3 WG(イーサネット)の802.3baタスクフォースにおいて進められている次世代高速化イーサネット(40Gbpsおよび100Gbpsイーサネット)の標準化審議の進展についてレポートする。

本稿においては、本WBB Forumサイトの連載「802.1/802.3の標準化動向(10):〈802.3ba〉40/100Gbpsイーサネットの標準化動向(その3)」※1において紹介した標準化の進展とベースライン方式採択のアップデートを報告する。

※1:http://sgforum.impress.co.jp/article/1080

≪1≫802.3baの標準化進展状況

〔1〕ほぼ目標スケジュール通りに進展

図1に、最新の802.3ba(40Gbps/100Gbpsイーサネット)標準化の目標スケジュールを示す。


図1 802.3ba標準化目標スケジュール(2008年3月採択)(クリックで拡大)

〔引用:http://www.ieee802.org/3/ba/public/nov08/agenda_01_1108.pdf


この目標スケジュールでは、2008年9月に最初のドラフト(ドラフト1.0)が発行され、9月の中間会合において802.1baタスクフォース(小委員会)のレビュー(評価)を行うことになっていたが、実際の標準化の進展は、次の通りである。

(1)シングルモード光ファイバ10km向けの40Gbps方式のベースライン(基本)方式の採択が遅れ、2008年8月末にこの方式を除く部分を盛り込んだドラフト0.9が発行された。
(2)2008年9月に、韓国のソウルにおいて開催された中間会合において、ドラフト0.9のレビューが行われた。併せて、懸案であったシングルモード光ファイバ10km向けの40Gbps方式のベースライン方式の選定が行われ、4波多重方式(後述)が採択された。
(3)2008年10月に上記40Gbpsベースライン方式を盛り込んだドラフト1.0が発行された。
(4)2008年11月にアメリカのダラスにおいて開催された802委員会総会においてドラフト1.0のレビューが行われ、翌2008年12月初旬にはレビュー結果を反映させたドラフト1.1が発行された。

シングルモード光ファイバ10km向けの40Gbps方式の採択を巡って、若干の遅れはあったものの、802.3ba標準化はほぼ目標スケジュール通りに進展している。

〔2〕2010年中頃に標準化を完了

今後のスケジュールは、次の通りである。

(1)年明けの2009年1月には「Last Feature」、すなわち新規機能の提案が締め切られる。
(2)2009年3月にドラフト2.0の発行、2009年7月には「Last Technical Change」、すなわち仕様確定が行われる。
(3)2009年11月に、ドラフト3.0が発行される。
(4)その後は修正に限定されたドラフト改訂が行われ、2010年中頃には標準化完了。

ドラフト1.0発行から約1年半での標準化完了は、802.3ae「10ギガビットイーサネット」の例(2000年9月ドラフト1.0発行、2002年8月標準発行)に照らしても、ほぼ順当なスケジュールと考えられる。


表1 802.3ba 40Gbps/100Gbpsイーサネットの物理インタフェース(クリックで拡大)

注:40Gbps/100Gbpsイーサネットの伝送方式(物理インタフェース)の方式命名ルール(例:40GBASE-KR4等の意味)については前回の連載(下記URL)参照
http://sgforum.impress.co.jp/article/1080


≪2≫シングルモード光ファイバ10km向け40Gbps伝送方式:40GBASE-LR4

〔1〕最終的に残ったのは3つの方式

前回の「802.1/802.3の標準化動向(10):〈802.3ba〉40/100Gbpsイーサネットの標準化動向(その3)」においてレポートしたように、40Gbpsイーサネットのシングルモード光ファイバ10km向け方式については、複数方式が提案され、どの方式を採択するかを巡って、議論が行われてきた。

最終的に残ったのは、次の3方式である。

(1)10Gbps × 4波多重(CWDM)方式
(2)20Gbps × 2波多重(CWDM)方式
(3)40Gbps × 1波シリアル方式

このうち、4波多重方式と1波シリアル方式の2方式が主な候補として議論されてきた。

4波多重方式は、10Gbpsイーサネットの普及により低コスト化してきた10Gbps光部品技術を活用して、比較的短期間で開発、製品化できる点がメリットである。一方の1波シリアル方式は、40Gbpsの光部品やシリアル伝送部品など、現時点では10Gbpsに比べて非常に高価な部品を使用する必要があるものの、4波方式に比べて部品数が少なくて済むため、将来的にはより廉価に製品化できる可能性が高いと主張されてきた。

〔2〕4波多重方式「40GBASE-LR4」の採択とその理由

何回かの会合にわたる白熱した議論の末、2008年9月の中間会合において次の理由などから4波多重方式(40GBASE-LR4)が採択された。

(1)40Gbpsの市場の立ち上がりは早いと予想されるので、10Gbps光部品を活用して比較的短期間で製品化できる4波多重方式が有利。
(2)1波多重方式の光送受信器(トランシーバ)が、将来的に抜本的なコスト低減できるか疑問が残る一方、4波多重方式については標準化完了当初から10Gbpsの4~6倍のコストで製品化できる見込みが高い。

表2に、今回採択された4波多重方式の概略仕様を示す。


表2 シングルモード光ファイバ10km向け40Gbps伝送方式(40GBASE-LR4)概略仕様案(クリックで拡大)

* OMA:Optical Modulation Amplitude、光変調振幅
** TDP:Transmitter and Dispersion Penalty、トランスミッタ分散ペナルティ


〔3〕40GBASE-LR4の採択の重要な意味

シングルモード光ファイバ10km向け40Gbps伝送方式の採択は、40Gbps/100Gbpsイーサネットの市場展開の上で、極めて重要な意味をもつ。

データ・センター内の100m以下の接続用途に制限されてきた40Gbpsイーサネットの用途が拡張され、大規模データ・センター内のスイッチ間接続(幹線接続)や、さらにはデータ・センター内のスイッチと広域網向け光伝送装置との接続にも応用可能となる。

シスコ社の予想〔参考文献(5)参照〕によると、40Gbps/100Gbpsイーサネットの標準化が完了する2010年の100Gbps光トランシーバのコストは、10Gbps光トランシーバの40~50倍のコストになる。一方、40Gbps光トランシーバのコストは、出始めにもかかわらず、10Gbps光トランシーバの5~10倍のコストと予想されている。すなわち、ビット当たりのコストに換算すると、100Gbpsイーサネットは40Gbpsイーサネットの2~4倍になる。このことから、よりコストパフォーマンスの良い40Gbpsイーサネットは、100Gbpsイーサネットよりも早い段階から本格的な普及が始まることになるであろう。

また、このような動きに呼応して、通信事業者向けの通信規格を審議するITU-T※2において、40Gbpsイーサネットのデータを光伝送規格OTU3※3のペイロードに収容して長距離伝送するための符号化変換方式(1024B/1027B Transcoding)がドラフト化されている〔参考文献(11)(12)参照〕。

※2 ITU-T:International Telecommunication Union Telecommunication Standardization Sector、国際電気通信連合 電気通信標準化部門
※3 OTU3:Optical Channel Transport Unit 3

≪3≫その他

マルチモード光ファイバ向け方式(40GBASE-SR4、100GBASE-SR10)において、伝送距離を100mよりも長くするための検討が行われていたが、参加者から十分な関心が得られなかったことから、検討を継続しないこととなった。これにより、マルチモード光ファイバ向けの40G/100Gbpsイーサネットの最大伝送距離は100mにて確定となった。


参考文献

(1)改訂版10ギガビットEthernet教科書、石田・瀬戸、2005/4、インプレス、 http://internet.impress.co.jp/books/2092/

(2)“IEEE P802.3ba 40Gb/s and 100Gb/s Ethernet Task Force Agenda and General Information”, John D’Ambrosia(Force10 Networks), 2008/11, http://www.ieee802.org/3/ba/public/nov08/agenda_01_1108.pdf

(3)“Unapproved Minutes IEEE P802.3ba Task Force Sept 16 - 19, 2008 Seoul, South Korea”, Steve Trowbridge, 2008/9, http://www.ieee802.org/3/ba/public/sep08/minutes_01_0908_unapproved.pdf

(4)“IEEE Std 802.3ae-2002 -Amendment:Media Access Control(MAC) Parameters, Physical Layers, and Management Parameters for 10 Gb/s Operation”, 2002/8/30

(5)“Data Center end users for 40G/100G and market dynamics for 40G/100G on SMF”, Adam Carter(Cisco Systems), 2008/2, http://www.ieee802.org/3/ba/public/AdHoc/40GSMF/carter_40_01_0208.pdf

(6)“40G SMF Ad-Hoc Summary”, Alessandro Barbieri(Cisco Systems), 2008/3, http://www.ieee802.org/3/ba/public/AdHoc/40GSMF/barbieri_40_02_0308.pdf

(7)“40GbE SMF for Carrier Applications”, Jesse Simsarian and Terrance Rosadiuk(Alcatel-Lucent), 2008/3, http://www.ieee802.org/3/ba/public/AdHoc/40GSMF/simsarian_40_01_0308.pdf

(8)“40GBASE-LR4 Specification Proposal”, Chris Cole(Finisar), Hirotaka Oomori (Sumitomo), 2008/9, http://www.ieee802.org/3/ba/public/sep08/cole_01_0908.pdf

(9)“40GbE SMF recommendations”, Mark Nowell(Cisco Systems) et.al, 2008/9, http://www.ieee802.org/3/ba/public/sep08/nowell_01_0908.pdf

(10)“40GbE Market:Timing and Opportunity”, Alessandro Barbieri(Cisco Systems), 2008/9, http://www.ieee802.org/3/ba/public/sep08/barbieri_01_0908.pdf

(11)“40GbE MTTFPA when using transcoding”, Steve Trowbridge(Alcatel-Lucent) & Osamu Ishida(NTT), 2008/5, http://www.ieee802.org/3/ba/public/mar08/trowbridge_01_0308.pdf

(12)“Liaison in response to IEEE liaison on providing appropriate support for OTN”, ITU-T Rapporteur Q11/15, 2008/9, http://www.ieee802.org/3/minutes/nov08/1108_ITU_SG15_to_802_3_LS02.pdf

 
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