[特集]

【特集】次世代IT革命:動き出したスマートグリッド(3):グーグルの取り組み

2009/09/04
(金)
SmartGridニューズレター編集部

情報コミュニケーション技術関連メディア事業を手掛ける株式会社インプレスR&D(代表取締役社長:井芹昌信)は、次世代IT革命とも呼ばれる「スマートグリッド」(インテリジェント化した送電網)にフォーカスしたコンファレンスを2009年7月30日(木)、東京国際フォーラム(東京有楽町)にて開催した。経済産業省、三菱重工、VPEC、グーグル、シスコシステムズ、ベタープレイスなどで、先進的に活躍中の講師陣による充実した講演とあって、参加者は200名を超えて大きく盛り上がった。コンファレンスのタイトルは「スマートグリッドとITが切り開く未来=急速に進むスマートグリッドの海外最新動向と、ITによる新しい家電、住宅、自動車、そしてエネルギーシステムの近未来ビジネス=」。ここでは、その講演の中から本WBB Forumの読者に身近な講演のテーマをいくつかピックアップし、スマートグリッドの全体像をとらえます(本文文責:WBB Forum編集部)。
(プログラムと講師陣 http://www.impressrd.jp/smartgrid/program.php

200名を超えた参加者で大きく盛り上がったスマートグリッド・コンファレンス会場
200名を超えた参加者で大きく盛り上がったスマートグリッド・コンファレンス会場

 

『グーグルのスマートグリッドへの期待』
=オバマ政権のグリーン・ニューディール政策に取組む理由=
村上 憲郎氏(グーグル株式会社 名誉会長)

インターネット上の情報検索サービスを提供する国際的企業「グーグル(Google)」は、また、ユーチューブ(YouTube)という動画共有サービスも提供しています。ユーチューブには、ユーザーから大量の動画コンテンツのアップロードが続いており、そのデータセンター(サーバ群の集合)へのトラフィック量は、現在も急速な増大を続けています。このような状況を背景に、グーグルという企業がなぜオバマ政権のグリーン・ニューディール政策や、エネルギー問題に関連する「スマートグリッド」などに積極的に取り組んでいるのか、についてお話しします。さらにグーグルが、エネルギー問題について具体的にどのような提案を行っているのか、などを中心に紹介しましょう。

≪1≫いろいろな情報検索サービスを提供するグーグル

グーグルは、「インターネット上にある世界中のあらゆる情報を整理して、その情報に世界中の皆様がアクセスして使えるようにする」情報検索サービスをビジネスとしています。

伊藤 慎介氏(経済産業省 商務情報政策局 情報経済課 課長補佐)
村上 憲郎氏
(グーグル株式会社
名誉会長)

 

「世界中のあらゆる情報を整理する」とは、簡単に言えば、情報の索引(インデックス)を作るということです。つまり書籍(本)の例でいうと、巻末にある五十音順(あるいはアルファベット順)に並べられた用語(キーワード)をとっかかりにして、その用語が本の何ページと何ページに出ているかを示すのが、索引(インデックス)ということなのです。

グーグルが提供しているサービスは、まさにこの書籍のインデックスと同じように、世界中のあらゆる情報のインデックスを作っているのです。すなわち、このインデックスを皆様方に提示することによって、そのインデックスから皆さんが知りたい、あるいは見たい情報やコンテンツにたどり着いていただけることになります。この場合特徴的なのは、このサービスを、皆様に基本的には無料で提供していることです。

よく誤解されるのですが、一般に情報それ自体(あるいはコンテンツそれ自体)には無料のものもありますし有料のものもありますが、それら(情報やコンテンツ)をすべて無料にしようということではございません。グーグルとしては、情報が有料・無料にかかわらず、それらの情報のインデックスを提供し、そのインデックスによって皆様方が求めている情報にたどり着けるようにするお手伝いをすることであり、そのサービス自身は無料でご提供しています。

しかし、そのサービスを具体的に支えるためには、かなり最先端の技術を必要としますので、企業として何らかの財政的基盤が重要となります。そこで、図1に示すように、グーグルでは、それを100%広告収入で支えていきたいと考えています。現在、97%~98%が広告収入でまかなわれてきています。


図1 グーグルのミッションと広告収入(クリックで拡大)

図1 グーグルのミッションと広告収入


グーグルのコンテンツ検索は、当然ながらウェブ上のどこに情報があるかということを、皆様方にインデックスとして抽出し、提示されます。最近は、図2に示すように、ニュース、ブック(書籍)、スカラ-(学術論文)、Google MAP/Google Earthのような地理的な情報(この場合はインデックスが住所であったり、移動経路であったりする)のように、コンテンツの幅を広げてきています。ただし、どの場合においてもグーグル自身はコンテンツを一切所有していません。例えば、Google MAPでは日本の地図が出たりしますが、これは(株)ゼンリンさんのコンテンツを使用させていただいているのです。


図2 グーグルのコンテンツ検索(クリックで拡大)

図2 グーグルのコンテンツ検索


≪2≫サービスのプラットフォームはクラウドコンピューティングへ

このように、現在、グーグルはいろいろなサービスを提供していますが、いずれも情報を検索するために、インデックスをつくって「その情報のありか」にたどり着いていただくというサービスです。それを、以前は手作りの従来型のコンピュータ・システムで処理していたのですが、最近では新しいコンピューティング・スタイルに発展してきています。具体的には、インターネットの向こう側の雲(クラウド)のかなたに、ユーザーから要求される処理を行う多彩なサーバ群(データセンター)が設置される「クラウドコンピューティング」(図3)という形でのサービス・プラットフォームの展開になってきています。

このとき、サーバ群(データセンター)が物理的にどこに存在しているかどうかということは、それほど大事なことではありません。皆さん方が携帯やパソコンを使用して、そのクラウドにアクセスするといろいろな処理を素早くしてくれることが大事なのです。


図3 クラウドコンピューティング・サービスのイメージ(クリックで拡大)

図3 クラウドコンピューティング・サービスのイメージ


ここで、現在、当社のサービスで、今どのような問題が起こっているかを分かりやすい身近な例でお話しをしますと、例えば私たちのサービスにユーチューブ(YouTube)という、動画共有サービスのサイトがありますが、このサイトでは、現在、1分ごとにだいたい20時間分以上の動画コンテンツのアップロードが続いています(図4)。しかも、最近は高画質なハイビジョン映像による大容量のコンテンツをお預かりすることも多くなってきています。すると、クラウドの先にあるデータセンター(サーバー群を格納)は、当然ながら巨大なシステムならざるを得ない状況を迎えているのです。


図4 グーグルの世界最大の動画共有サイト:YouTubeのトラフィックの増加(クリックで拡大)

図4 グーグルの世界最大の動画共有サイト:YouTubeのトラフィックの増加


≪3≫グリーン・ニューディールにコミットする理由

〔1〕最近のデータセンターの現状

そこで、グーグルがグリーン・ニューディール政策にコミットする理由の背景の1つとして、図5に示すように、無限増殖に近い膨大なトラフィックの増加に対応した、巨大なデータセンターを持ち続けざるを得ないという宿命に落ちいっている、という状況があるのです。これは、すぐさまどうということではありませんが、先行きのことを考えると、これは大問題なのです。最近のデータセンターの様子は、図6に示すようになっていますが、データセンターの中は、まさに標準のコンテナー(格納庫)の中に、サーバを山積みにして運営されているのです。


図5 グーグルがグリーン・ニューディールにコミットする理由(クリックで拡大)

図5 グーグルがグリーン・ニューディールにコミットする理由



図6 最近のデータセンター内部の様子(クリックで拡大)

図6 最近のデータセンター内部の様子


今後、システム運営上のコストを抑えるには、さらに効率のよいコンピューティング技術で運営していかざるを得ない、という次の課題に直面しているのです。私どもの現在のデータセンターは基本的に自作しているのですが、ハードウェア・コストの面で言うと、前出の図5に示すように、ムーアの法則(注1)の恩恵を受けて、不十分ながらもハードウェア・コストはある程度、抑えられるのです。

〔2〕制御不能な電力コストの問題

しかし、ここへきて大変なことは、電力コストの問題なのです。当然のことながら電力は外部から買っていますので、データセンターを作る際には、その周囲や地域の電力事情に余裕のあるところを調査・検討しながらデータセンターを作っていますが、いずれにしても電力コストの負担は大変になってきているのです。これは、私どもにとっては制御不能なコスト要因になっているのです。

(注1) ムーアの法則(Moore's Law):インテルの創業者の1人であるムーア博士(Gordon E. Moore)が提唱した、「半導体の性能および集積度は約18カ月でコストパフォーマンスが2倍になる」という法則。

≪4≫データセンターのPUEは目標値を下回る「1.16」を達成したが

そうは言いつつも、データセンター自身の電力の効率的な運営(改善)については回路設計の改善をはじめ冷却システムの改良に至るまで、やれるだけのことはやってきています。図7は、米国のデータセンターの省電力化を目指す「グリーングリッド」(The Green Grid)という業界団体が決めたエネルギー(電力)効率を表す指標「PUE」(Power Usage Effectiveness)です。

〔The Green GridのURL:http://members.thegreengrid.org/japanese/home


図7 PUE(データセンターの電力効率を示す指標の一つ)の定義と最近のトレンド(クリックで拡大)

図7 PUE(データセンターの電力効率を示す指標の一つ)の定義と最近のトレンド


このPUEは、

PUE=〔データセンター全体の消費電力〕÷〔データセンター内のIT機器の消費電力〕

という式で表されますので、PUEが小さいほどデータセンターのエネルギー効率がよいことが分かります。

理想的には、

〔データセンター全体の消費電力=データセンター内のIT機器の消費電力〕

すなわちPUE=1.0と言うのが理想状態なのですが、現在一般に言われているのは、2.0をやっと切った、1.8とか1.9ところが平均的なデータセンターではないかと言われています。

目標としては、グリーングリッドに参加しているデータセンターを運営している企業は「1.2」くらいに持っていこうというのが米国の目安になっています。

私どもは2009年の第1四半期(1月~3月)で、すでに「1.2」を下回る約1.16を達成してきています。すなわち企業努力としてとりあえず2011年の目標値をクリアしてきており、やるべきことかなりやってきているのです。最終的には外から供給されている電力料金を低減させることですが、現状では、場合によっては、化石燃料がバレル当たり35ドルが70ドルへ、さらに240ドルまでに高騰するなど、乱高下する不安定な状況ともなります。この化石燃料の価格は当然、電力料金に跳ね返ってきますが、このような不安定な状況に依存していては、10年、20年というようなスタンスで考えると今のビジネスモデルを維持していけなくなってくるのではないかと、危惧せざるを得ないのです。どうしても、低廉で安定的な価格帯の電力の供給を社会的に要請せざるを得ないのです。

≪5≫本社オフィスで、ソーラーパネルを敷き詰めて実証実験を開始

〔1〕グーグル本社オフィスの電力の1/3を太陽電池で供給

それ(PUEの改善)だけでは、自分たちの使命を果たしていないということで、私たちなりに、何か少し実証実験的なことをもやってみようということなりました。そこで、図8(右上がオフィス全体)に示すように、カリフォルニア州のサンフランシスコ郊外のマウンテンビュー市(シリコンバレー)にある、グーグル本社オフィスの1/5位の面積を使ってソーラーパネル(太陽電池)を敷き詰めて、オフィスのピーク電力需要の1/3をソーラーパネルでまかなうなど、私たちなりの実証として取り組んでいます。


図8 グーグル本社の再生可能エネルギーへの取り組み(クリックで拡大)

図8 グーグル本社の再生可能エネルギーへの取り組み


〔2〕グーグルは「クリーン・エネルギー2030」を提案

さらに米国の場合は石炭火力が結構多いのですが、これに代えて実際に再生可能エネルギー(RE:Renewable Energy、太陽光や風力などの自然エネルギー)を使用しようすると、今はコストが高いわけです。私たちとしては、再生可能エネルギーを「Cheaper than Coal」、つまり石炭火力より安くできないかと言うことで、太陽光発電、風力発電、地熱発電の3方向から石炭火力よりも安い再生可能エネルギーを、そのような技術開発をされている企業さんと協力しながら、取り組んでいるところです。

さらに、米国の社会に対しては、2030年にはこんな形に米国合衆国のエネルギーの発電システムの分布にしませんか、ということで化石燃料への依存度を低減するグーグルの「クリーン・エネルギー2030」(Clean Energy 2030)を提案しています(図9表1)。

http://knol.google.com/k/jeffery-greenblatt/clean-energy-2030/15x31uzlqeo5n/1#


図9 クリーン・エネルギー2030:化石燃料への依存度を低減するグーグルの提案(クリックで拡大)

図9 クリーン・エネルギー2030:化石燃料への依存度を低減するグーグルの提案


表1 クリーン・エネルギー2030:グーグルの提案(図7参照)
発電の方式 発電能力〔GW:ギガワット〕
図7の黄色い部分:効率化による電力削減分
1 バイオマス/他の発電 23
2 地熱発電 80
3 太陽光発電 250
4 風力発電 380
5 天然ガス発電 290
6 石油発電 0
7 石炭発電 0
8 水力発電 78
9 原子力発電 115


≪6≫スマートグリッドはグーグル自身に必要とする方向性

このように、再生可能エネルギーを本格的に利用していくとなると、スマートグリッドに取り組んでいくことが重要になってくるため、グーグルとしてはその推進に積極的に協力しています。しかし、私どもは電力系統の部分では、直接的にお手伝いできる立場にありません。そこで、IT企業であるグーグルが得意とする、消費者よりのコミュニティ・グリッドと言うかマイクログリッド(注2)の部分で、つまりスマートメーター(第1回参照)のところでの情報のやりとりの部分の実証実験などに参加しています。

(注2) マイクログリッド(コミュニティ・グリッド):消費者の地元付近でいろいろな再生可能エネルギー(自然エネルギー:太陽光、風力、地熱等)を組み合わせ、IT技術によって制御し、安定した電力供給を行うシステムのこと。スマートグリッドをより消費者よりに表現した用語。

このようなスマートグリッドの情報系の部分(すなわちコミュニティの部分)は、インターネットの延長線上の技術でもあるのですが、米国の場合は欧州ほど進んでいないのが現状です。このため、インターネットをスマートグリッドの情報系として使用することに関して積極的に協力していきたいと考えています。

これはグーグル自身が必要とする方向性でもあります。よくグリーンとかいうよう話になると、「企業のイメージを上げるため」というような感じを持たれるところがあると思うのですが、グーグルの場合はまったくそうではございません。「スマートグリッド」は、企業の基本的な方向に直接影響を与えると思っていますので、前述しましたように、せめてコミュニティ・グリッドの部分である、各家庭のスマートメーターのようなところから、協力していきたいと考えています。

(グーグルの部分終わり:引き続き、次回へつづく)

バックナンバー

【特集】次世代IT革命:動き出したスマートグリッド

第1回:『海外のスマートグリッド事情と我が国産業への影響』(その1) 伊藤 慎介氏(経済産業省)

第2回:『海外のスマートグリッド事情と我が国産業への影響』(その2) 伊藤 慎介氏(経済産業省)

第3回:『グーグルのスマートグリッドへの期待』 村上 憲郎氏(グーグル)

第4回:『シスコのインテリジェント・スマートグリッド戦略』 堤 浩幸氏(シスコ)

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