[展示会]

【Embedded Technology 2009特別レポート】Androidが変える最新の組込みシステム

=OESFが初のフレームワーク「EM1」をリリースへ=
2009/12/14
(月)
SmartGridニューズレター編集部

世界最大級の専門技術展&カンファレンス 組込み総合技術展「Embedded Technology2009」(主催:社団法人 組込みシステム技術協会)が、2009年11月18日から20日の3日間、横浜市のパシフィコ横浜で開催された(来場者総数:22,117人)。
同会場で初日(11月18日)のトップに行われたOESF代表理事 三浦 雅孝氏によるスペシャルセッション「Androidが変える組込みシステム」の講演は、早朝にもかかわらず会場は満席(400名)の盛況ぶりであり、Androidが変える組込み技術への関心の高さうかがえた。ここでは、OESFのワーキンググループ(WG)の活動や、WGの成果としてリリースされたOESF Embedded Master(EM)というフレームワークの概要を含めた講演内容をレポートする(OESF:Open Embedded Software Foundation)。

【Embedded Technology 2009特別レポート】Androidが変える最新の組込みシステム
講演するOESF代表理事 三浦 雅孝氏(写真右上)と満席の会場風景

≪1≫iPhoneとAndroidはどこが違うか?

OESF(Open Embedded Software Foundation)は、Androidを組込みシステムのプラットフォームとして、携帯電話以外のさまざまな機器やシステムに対して、共通フレームワークやプラットフォームを参加会員各社で共同開発し、その普及を促進することを目的に活動しています(注1)

(注1)OESF(Open Embedded Software Foundation)は、2009年3月に、国内23社のメンバーで本格的に活動を開始し、2009年11月で7か月を迎えた。活動内容は、Androidを組込みシステムでどのように使っていくか共同開発である。また、会員は、US、台湾、中国、韓国、インドの会社も参加し52社となり、組込みシステムの標準化に向けて活動している。


そこで、Androidが今後どのように展開していくか? これからの組込みシステムはどのようにすべきか? などを考えてみましょう。

まず、Androidと言うと多くの人々は、iPhoneとの比較を思い浮かべると思いますので、最初に写真1を見ながら、iPhoneが与えた3つのインパクトを説明します。


写真1 iPhoneの3つのインパクト(クリックで拡大)

写真1 iPhoneの3つのインパクト


〔1〕iPhoneの3つのインパクト

iPhoneが市場に与えたイノベーションやインパクトは大きく、次のとおり、携帯電話のあり方を大きく変えました。

(1)キャリアの壁を打破

iPhoneの携帯電話は世界60か国以上で販売されていますが、どのキャリア(移動通信事業者)でも共通のiPhoneを販売することができます。

(2)新たなAP(アプリケーション)流通市場を開く

iPhoneのアプリケーションをどこからでもダウンロードできる「AppStore」という新たなアプリケーションの流通市場を開きました。例えば、一人のエンジニアが作ったアプリケーションを、全世界中に向けた巨大な市場で販売できるようになりました(注2)

(注2)AppStoreは、ユーザー、1人あたり月に10本程度のアプリケーションをダウンロードする。例えば、1人のエンジニアが作ったフィンガーピアノというアプリケーションは世界中から月に10万本ダウンロードされ、例えば開発者に月に約2000万円キャッシュバックされるというような巨大な市場ができあがった。


(3)クラウドと直結したサービス

クラウドと直結しているサービス(Moble.me)が提供されています。すなわち、常にネットワークにつながっている、という新しいサービスの展開が行われているため、例えばiPhoneでスケジュールをアップデートするとそのまま連動してパソコンのスケジュールもアップデートされるのです。

以上のことは、iPhoneがもたらしている非常に大きなインパクトなのです。

〔2〕Androidの5つのインパクト

次にAndroidの5つのインパクトを見てみましょう(写真2)。

写真2 Androidの5つのインパクト(クリックで拡大)

写真2 Androidの5つのインパクト


(1)キャリアの壁を打破

すでに、10数種類のAndroidフォンが世界中で発売されています。

(2)新たなアプリケーションの流通市場

Android Market(アプリケーションの流通市場)がスタートして1年未満ですが、すでに16,000本のアプリケーションが登録され、新しいアプリケーションの流通市場を作っています(Android Market)(注3)

(注3)Androidマーケットは、ユーザー、1人あたり月に9本程度のアプリケーションをダウンロードし、有料コンテンツが10%を占める。


(3)クラウド・サービス

iPhoneと同じように、Google Appsと連携して、Androidフォン上で自分のスケジュールを変更すれば、パソコン上のスケジュールが更新できます。これらは、クラウド(ネットワーク)につながったサービスとして提供されています。

また、モトローラのDroid(Android 2.0を搭載した携帯電話)では、Googleマップを使ってAndroidフォンをカーナビに変身させることができます。常にGoogleマップとコネクションして、道路を走行する。まさしく、クラウドのなせる技となっています。

上記の3点は、iPhoneと共通していますが、これに加えて、Androidがもたらした新しい大きなインパクトは、次の2点にあります。

(4)ハードウェアの壁を克服

キャリア(通信事業者)への依存性だけでなく、ハードウェアへの依存性もなくしました。iPhoneはアップルのみが販売しますが、Androidフォンは、レノボやデルなど、世界のさまざまな会社(ベンダー)が、携帯電話の市場に参入しています。

(5)オープンソースの採用

Androidは、すべてがオープンソースとなっています。しかも、Apache License Version 2.0というライセンス体系に基づいてライセンスされています。

例えば、AndroidにApache License Version 2.0のライセンスが採用されていない場合は、GPSアプリケーションの開発でAndroidを使う場合、GPS用に変更したAndroidのソースコードは公開しなくてはいけません。しかし、AndroidにApache License Version 2.0のライセンスが採用されている場合は、Androidのソースコードを変更しても、その部分を公開する義務がないのです。すべてのソースコードを自由に使うことができるのです。

ここが、Androidがもたらした新たなイノベーションです。

Androidフォンは、すでにT-mobileをはじめ、HTC、サムスン、モトローラ、NTTドコモなどのキャリアやベンダーから販売されています(写真3)

写真3 世界で発売されているAndroidフォンの例(クリックで拡大)

写真3 世界で発売されているAndroidフォンの例


また、デルやレノボなど、これまで携帯電話を出していなかったパソコンメーカーでも、簡単に携帯電話市場に参入できるようになったことも大きなイノベーションとなっています(注4)

(注4)中国市場では、チャイナモバイル(中国移動)を中心に、OMC(Open Mobile Community)で、Androidをベースとした携帯電話プラットフォームを展開している。チャイナモバイルの携帯電話ユーザー数は5億5千万人だが、日本のキャリア1社では多くても5~6千万人である。中国は日本の10倍の市場がある。そこに例えば、見た目まったくiPhoneで中身はAndroidの携帯電話のAフォンが、中国で販売されようとしている。



≪2≫携帯市場への新規参入を容易にしたAndroid

〔1〕パソコン・ベンダーが容易に携帯電話市場に進出

これまで、無名の会社が携帯電話市場に参入するには設備投資だけでも少なくとも1億円必要でしたが、Androidの場合は非常に簡単に携帯電話市場に参入できるようになったのです。

すなわち、オープンソースを背景に、携帯端末に必要な3G関連のモジュールが簡単に手に入るようになり、また、ある程度の市場規模があるため、誰でもビジネスできる状況を迎えているのです。これはまさしく、一部の大手企業が支配する自動車業界の構造と同じで、例えばビッグ3が衰退した状況とよく似ているのです。

電気自動車時代を迎えて、現在、自動車業界で求められる技術は、板金加工でエンジンを作ることではないのです。高性能樹脂でシャーシを作り、一番重要な技術として電池が注目されるようになり、さらにそれを支えるのはIT技術なのです。このため、いままでとまったく違ったプレーヤーが、今後の自動車車産業を支えていくのです。

これと同じように、PCベンダーが携帯電話市場に進出して新しいサービスを作ってビジネスしていくというように、新規に参入できる市場が大きく開かれてきたのです。これは、非常に大きな革命なのです。

〔2〕重要な2つのポイント:「標準化」と「差別化」

今日注目されている組込みシステムの場合は、いかに標準化していくか、そしていかに開かれた大きな市場を作っていくか、ここが重要なところであり、その可能性は大きいものがあります(写真4)。すなわち、標準化が非常に大事であること、そのうえにさまざまなサービスを組み合わせ、優れたユーザーインターフェイスや新しいデバイスで差別化していくことが重要なのです。

写真4 組込みシステムに求められること(クリックで拡大)

写真4 組込みシステムに求められること


これまでの組込みシステムは、開発(ハードウェアを含めて)から販売まで1社で提供して、そのうえで第三者はアプリケーションを展開することすらできなかった。何かしたい場合は、それを作ったベンダーに依頼するしかなかったのです。

今後は、そうではなく、標準を作成し、そのうえにいかにサービスを作るか、あるいはいかに差別化したデバイスを展開していくかが重要になっていくのです。

〔3〕いかに『ECOSystem』を構築するか

さらに、業界に関連する複数の企業が協調し業界全体で市場を拡大・発展させていこうという「エコシステム」をいかに作るか、が重要です。

Androidの最初の端末が発売されてまだ1年ですが、来年(2010年)の3月頃までには、全世界で30~40機種のAndroidフォンが発売される見込みとなっています。


≪3≫組込みシステムのソフト開発費の現状とAndroid

現在、いかに早くものを作り、いかに安くそれを全世界にいかに提供するかということが求められています。

例えば、Androidの長所はほとんどのアプリケーションがJavaでコーディング(ソフトウェアの開発)できる点です。Javaのコーディングは非常に早く、いままでのCやC++でのコーディングと比べると生産性が10倍を超える環境を提供できるのです。

〔1〕ソフト開発プロジェクト費用の内訳

IPA(Information-Technology Promotion Agency、情報処理振興事業協会)が公表した資料(写真5)によると、組込みシステムの開発費構成は、ソフトウェアの開発費が6割を占めています。そのため、いかにソフトウェアの開発費を減らすかが課題となっています。組込みシステムOSのロイヤリティ(特許料)も、Androidを使えば不要になるのです。例えば、19,800円の端末発売し、OSに5,000円のロイヤリティを支払うとほとんど利益がなくなってしまいます。このようなことも含めて、ソフトウェア開発費が大きくなってきているのです。

写真5 組込みソフトウェア開発費の構成(クリックで拡大)

写真5 組込みソフトウェア開発費の構成


〔2〕組込みシステム・ソフトの全行数(新規開発と既存の合計)

現状の組込みシステムを見る(写真6)と、平均280万行のソフトウェアを構築しており、膨大な行数となっています。一方、Androidは約2300万行と桁違いの大きさであるため、1社で開発できるレベルではありません。そのため、Androidのように市場に出ているオープンなものをいかにうまく使い、いかに早くものを出していくか、サービスも含めて新しいビジネスモデルをどのように構築するか、などということがこれから重要になってくるのです。

写真6 組込みソフトウェア開発費の行数の状況(クリックで拡大)

写真6 組込みソフトウェア開発費の行数の状況


〔3〕プログラミング言語の使用比率

また、組込みシステムの開発現場でのプログラミング言語の使用比率(写真7)は、CとC++でほぼ9割を占めており、Javaは1%にすぎないのです。リアルタイム制御では、CとC++が必要となりますが、ユーザーインターフェイスでは、Javaで生産性を上げるということが、これからのキーワードとなってきます。

写真7 組込みソフトウェア開発におけるプログラミング言語の使用比率(クリックで拡大)

写真7 組込みソフトウェア開発におけるプログラミング言語の使用比率


≪4≫なぜAndroidが良いのか

〔1〕アプリケーションのフレームワーク

ここで、なぜ、Androidか良いのか(写真8)と言うと、アプリケーションのフレームワークが整備されている点が重要です。AndroidのベースはLinux OSであり、そのうえにさまざまなライブラリーやフレームワークがそろっている構造となっています。

写真8 なぜAndroidが良いのか(クリックで拡大)

写真8 なぜAndroidが良いのか


例えば、OHA(注5)からディストリビューション(配布)されるAndroidのソースコード上で、電話をかけるアプリケーションなどを簡単に書くことができます。

(注5)OHA:Open Handset Alliance、携帯電話における共通のソフトウェア基盤「Android」の開発・普及を推進する業界団体


〔2〕JAVAによるアプリケーション開発

Androidは標準のフレームワークが整っており、API(Application Program Interface)が提供され、DalvikというJavaのインタープリタが搭載されています。次のバージョンのDalvikでは、JIT(Just In Time)コンパイラの搭載により高速化されることで、アプリケーション開発者にとって、Javaのスピードで困ることのない生産性の高い開発環境が提供されます。

〔3〕Linuxベース

AndroidはLinuxベースであるため、Linuxのさまざまライブラリーやソースコードなど、これまでのリソースをすべて利用することができます。

〔4〕オープンソース

Androidは、一部グーグルのサービスに直結している部分以外は、すべてオープンソースで提供されています。

〔5〕期待される携帯電話市場

Androidで期待される携帯電話市場では、数億台のAndroidフォンが出てきたとき、そのうえに構築されるアプリケーションはかなり大きな数が予想されます。また、Android上で開発されたアプリケーションが、そのまま組込みシステムに応用できるため、非常に良いサイクルを作ることができます。

〔6〕世界標準のプラットフォーム

Androidは、すでに、明らかに世界標準のプラットフォームとなっています。1つのソフトウェアを開発すれば、それは、世界中のAndroidを搭載した携帯電話や組込みシステム〔例:STB(Set Top Box)やIP電話機〕で同じアプリケーションを作動させることができるのです。

ソフトウェアの開発は、1台のマシンに対しても、100万台のマシンに対してでも開発工数は同じです。そこで、ガラパゴスといわれてきた日本市場だけをターゲットにするのではなく、いかに大きな世界市場を対象とするかが重要となります。

Androidは、世界標準プラットフォームを構築し、その上でアプリケーションを提供し、クラウドにつながっていく、というような環境をもたらしてくれます。このため、組込みシステムのあり方が従来とは大きく変わってきますし、今後、おそらく携帯電話も含めてすべての端末がクラウドにつながっていくことになるでしょう(写真9)

写真9 クラウド端末―新たなる市場とサービス(クリックで拡大)

写真9 クラウド端末―新たなる市場とサービス


また、これまでのような、テンキーや転送機能、保留機能などのユーザーインターフェイスを持つ伝統的なビジネスフォンにAndroidを搭載すると、ビジネスフォンでメールチェックやアプリケーションを作動することができるようになります(注6)

(注6)ET2009会場のOESFのブースでは、ピザの注文を受けたお店において、Googleマップを利用して配送ルートまで含めて、直接プリントアウトできるピザのオーダーエントリーのデモが行われていた。


さらに、パソコンや、デジタルリビングに設置されるSTBやデジタルフォトフレームなどがAndroidのプラットフォームで相互接続されて、クラウド・サービスにつながっていくことになります。また、プラットフォームが世界共通であれば、開発した1つのアプリケーションを世界中の端末に配信でき、巨大なビジネスが構成されるのではないかと考えています。


≪5≫OESFが提供する「EM」(Embedded Master)の機能と位置づけ

前述したように、AndroidはLinuxのカーネルを基礎とし、非常に豊富なライブラリーが展開されています。ここで重要な点は、DalvikというJavaのインタープリタが搭載されていて、ほとんどのアプリケーションやフレームワークが、Dalvik上で非常に簡単に構築できるようになっている点です。そこで、OESFでは「EM」(Embedded Master)というフレーム構築しています。次に、この「EM」についてお話しましょう(写真10)

写真10 OESF Embedded Masterのフレームワーク(クリックで拡大)

写真10 OESF Embedded Masterのフレームワーク


〔1〕OESF Embedded Masterとは

現在、OHAから提供されるフレームワークの場合は、携帯電話に特化しています。このフレームワークには、標準化されたAPIが組み込まれていて、さまざまなアプリケーションが自由に開発できる環境となっています。

一方、OESFでは52社のメンバーが共同して、OHAが提供するオープンソースの世界を、デジタルリビングも含めて広く展開できるように、あらゆる組込みシステムのための共通フレームワークの構築を共同で行っています。

このフレームワークは、「OESF Embedded Master(EM)」として、表1に示すように2009年11月にメンバー公開、2010年2月に一般公開を予定しています。


表1 OESF Embedded Master(EM)の公開予定
  Embedded Master1(EM1) Embedded Master2(EM2)
Base Release Android1.6 Android2.0
メンバー公開 2009年11月 2010年3月
一般公開 2010年2月 2010年7月


〔2〕OESF Embedded Masterの機能

また、OESF Embedded Masterは、表2のような機能を搭載しています。


表2 OESF Embedded Masterの機能
  機能 内容
1 IP Phone Extension SIP/RTPスタック、NGNスタック
2 Digital TV Extension 地デジ放送、CATVの視聴、BML、EPG番組予約
3 Multimedia Extension ハイビジョン動画コンテンツの再生など
4 DLNA Extension DLNA/UPnPスタック
5 BlueTooth Extension Bluetooth拡張対応、HID・SPP・OBEX機能など
6 Remote Control Extension 赤外線・Bluetoothリモコンでの操作
7 Pointing Device Extension マウスやポインタ・カーソル対応
8 Network Manager Extension 優先LAN対応、IPv6、ネットワーク設定API
9 User Interface Extension 大画面向けのGUI作成APIなど
10 SDK for Embedded Devices アプリケーション開発用SDK
11 Lightweight Android 組込み用最少構成Android

SIP:Session Initiation Protocol、セッション開始プロトコル
RTP:Real-time Transport Protocol、リアルタイム転送プロトコル
DLNA:Digital Living Network Alliance、家電やモバイル、パソコンなどの相互接続性を実現させるための標準化団体
UPnP:Universal Plug and Play、家庭内のパソコンや家電機器を相互接続し、相互に機能を提供しあう技術仕様
HID:Human Interface Devices、ヒューマン・インタフェース・デバイス
SPP:Serial Port Profile、シリアル・ポート・プロファイル
OBEX:OBject EXchange Protocol、オブジェクト交換プロトコル


〔3〕OESF Embedded Masterの位置づけ

前述したOESF Embedded Master(OESF EM)は、

①「Window 7」に対する「Chrome OS」
②「Windows Mobileに対する「Android」
③「Windows Embedded」に対する「OESF EM」

というような位置づけであり、組込みシステムのためのAndroidディストリビューション、すなわち世界標準をめざすディストリビューションとして、Androidのアプリケーションとサービスの普及・促進をめざしています。また今後、出来上がった製品に対して試験と認定の実施を予定しおり、具体的には台湾で認定センターの設立を進めているところです。

現在、OESFでは、写真11に示すような、いろいろなAndroidデバイスや、STB(Set Top Box)のようなAndroidの組込み機器の開発が進められています。


写真11 OESFで開発されている組込みAndroid機器の例(クリックで拡大)
写真11-1 OESFで開発されている組込みAndroid機器の例
写真11-2 OESFで開発されている組込みAndroid機器の例
写真11-3 OESFで開発されている組込みAndroid機器の例
写真11-4 OESFで開発されている組込みAndroid機器の例


≪6≫世界標準のリードを目指すOESFの活動

OESFは、Androidに関するテクノロジーの共有と、有効利用を促進するために、現在、52社でベンダーを超えた共通の開発プロジェクトを行っています(表3)。また、若い技術者の育成やマーケットへの啓蒙活動や東アジア経済圏への展開や世界標準のリードをめざしています。さらに、次のような業種や機器を対象にAndroidによる組込みシステムのフレームワークとプラットフォームの共同開発、普及、促進をめざしています。


表3 OESF活動対象の業界と機器
業界 機器
STB関連業界  CATV向けSTB
ホテル、KIOSK端末向けSTB
VoIP関連業界   固定IP電話(ビジネスフォン)
インターフォン
FAXなどの情報通信機器
家電業界     デジタルTV
DVR
情報家電
カラオケ
デジタルフォトフレーム
モバイル関連業界  カーナビ
携帯端末
計測/制御関連  デジタルサイネージュ
ヘルスケア商品


〔1〕拠点とワーキンググループ

具体的なOESFの活動拠点は、日本に本部を置き、韓国、上海、台北に拠点を持ち、国内だけでなく全世界で活動しています。さらに、インターネットでコンファレンスを行い各種の仕様の作成を、表4に示す各ワーキンググループで行っています。


表4 OESFの各ワーキング・グループの活動内容
  ワーキンググループ名 活動内容
1 STBワーキンググループ デジタルTV、IPTV、Network(DLNA、HDMI、RF4CE)などのSTBを対象とし、そのフレームワークの検討と開発を行う。STBにおける標準化、さらに、STB向けフレームワークのパッケージ化ディストリビューションをめざす。
2 Consumer Electronicsワーキンググループ デジタルフォトフレーム、TV、カメラなどに代表されるコンシューマー向けのフレームワークの検討と開発を行う。情報家電はAndroidの活用が最も期待されている分野の1つであり、HDクラスのマルチメディア対応やネットワーク機能など家電分野で追加や拡充が必要な機能の標準化およびその普及をめざす。
3 VoIPワーキンググループ Androidアプリケーションから、自由に音声や画像通話が行える標準的APIを提供する。SIPスタック、NGNスタック、各種CODECおよびその周辺環境の整備や統合を行い、フレームワークの提供をめざす。
4 Network& Securityワーキンググループ IPv6、VPN、SNMP、QoS、DRMなどのネットワークおよびセキュリティーに関する共通要素や共通コンポーネントの標準化、およびその開発を主体として行う。他のワーキンググループとの共通要素なども多く含まれ、他のワーキンググループとの密接な連携をめざす。
5 System Coreワーキンググループ 目的に応じたAndroidのポーティング、デバイスドライバの提供、開発プラットフォームとしてのハードウェアの開発や提供を行う。
6 Application&Serviceワーキンググループ Android上のアプリケーション、およびサービスの調査と研究から、アプリケーションやサービスの観点から必要とされる共通コンポーネントやフレームワークの標準化や開発を行う。携帯電話以外向けに開発されたAndroidアプルケーションの流通スキームの検討や構築をめざす。
7 Marketing&Educationワーキンググループ セミナーや展示会などのイベントの企画や運営、外部イベントへの参加を含めたマーケティング活動を事務局と一体となり展開する。また、独自にトレーニングコースの開発を行い、フランチャイズによるAndroidトレーニングコースの提供をめざす。
8 Distributionワーキンググループ OESF Embedded Master(EM)のDistributionパッケージの仕様策定、構築、公開を行う。各ワーキンググループの成果を集約し、組み込み機器向けのAndroid Distributionとして、オープンソースで全世界に公開をめざす。
9 IP-Communicationsワーキンググループ IP環境において、音声通話、インスタントメッセージやプレゼンスなどのマルチメディア通信環境のベースとなるフレームワークを構築する。Androidアプリケーションから、TV電話、チャット、プレゼンス、TV会議などの高度なマルチメディア通信サービスへのアクセスメソッドの標準化をめざす。
10 Test & Certificationワーキンググループ AndroidおよびOESF Embedded Master(EM)を搭載した製品を開発し、市場に出荷する際の品質テストや一定の品質をクリアしているかの認定を実施するための認定基準、テストケース開発などを行う。それの技術基準をベースに実際の認定試験サービス業務をめざす。

HDMI:High-Definition Multimedia Interface、家電やAV機器用のデジタル映像・音声入出力インタフェース規格
RF4CE:Radio Frequency for Consumer Electronics、RF4CEコンソーシアムとZigBeeアライアンスによって策定された無線リモコン(RFリモコン)の規格
CODEC:Coder/Decoder、符号化/復号器


〔2〕OESFの今後の計画

OESFの今後の計画として、19億人の人口を持つ中国や東南アジアを中心に展開し、その後東ヨーロッパへ拡大していく予定です。

さらに、まず、共通フレームワークである「EM1」(Embedded Master1)を2009年2月に一般公開を予定しています。また、Academic Collaboration Program〔先端研究の促進(愛媛大学、早稲田大学が参加)〕やAndroid技術者の育成のため認定トレーニングコースの充実やマーケットプレイスの構築の標準化を進めていく予定です。

新しい発想を持って、現在ある技術をAndroidに載せ替えるのではなく、まったく新しいサービスや概念にトライしていきます。

最後に、これからの新しい展開と、そこにある大きな革命を、Android組込みシステムが牽引すると思っています。ぜひ、皆さんと一緒に、単にOSではない、新たなサービスであったり、ビジネス・モデルとなっていくAndroidを大いに盛り上げていきたい。

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