[スペシャルインタビュー]

NTTファシリティーズのスマートグリッド戦略を聞く!(3:最終回):世界27種類の太陽電池パネルを実証実験

2010/05/13
(木)
SmartGridニューズレター編集部

連結売上10兆4000億円を超え、従業員数約20万人(2009年3月)を誇るNTTグループは、全国の通信ビルをはじめ、オフィスビル、研究所、病院等、数多くの建物を所有している。これらの建物や全国20万システムもの電力、空調などの設備を合わせて、日本最大とも言われるファシリティを管理・運用している「(株)NTTファシリティーズ」が、いよいよ電力の効率的利用やクリーンエネルギーを目指して、本格的にスマートグリッドの取り組みを開始した。ここでは、(株)NTTファシリティーズの代表取締役副社長 池辺裕昭(いけべひろあき)氏に、同社のスマートグリッドの取り組みの現状から、今後の展開をお聞きした(文中敬称略)。今回(第3回:最終回)は、具体的なNTTファシリティーズのスマートグリッドへの取り組みをお聞きした(文中敬称略)。

NTTファシリティーズのスマートグリッド戦略を聞く!(3)

≪1≫2003年から取り組んできたNTTファシリティーズ

■ ところで、御社(NTTファシリティーズ)はいつ頃からスマートグリッドに取り組んでこられましたか。

池辺裕昭氏(NTTファシリティーズ 代表取締役副社長)
池辺裕昭氏
(NTTファシリティーズ
 代表取締役副社長)

 

池辺 当社がスマートグリッドに関連した技術に最初に取り組んだのは、2003年~2007年に実施しましたNEDOの委託研究の愛知万博(2005年3月~9月)、および中部臨空都市におけるマイクログリッド・システム実証研究です。マイクログリッドとは、小電力網とも言われて、地域的な分散型の太陽光発電システムや風力発電等を含む新エネルギー・システムのことです。愛知万博の会場の中にいろいろな分散電源を設置しましたが、太陽光などの自然エネルギーは天候に左右され、かなり変動がありますので、それを電力貯蔵システム(蓄電池)や分散電源間でうまく供給調整を行うという実験です。これはとてもうまく制御でき、技術を確立することができました。

■ ずいぶん早い時期から取り組んでおられたのですね。

池辺 そうですね。並行して、2004年~2007年の間に、同じくNEDOの委託研究の品質別電力供給システム実証研究にも取り組みました。図10に示すように、仙台市の施設、東北福祉大学で、電力系統の異常時においても電力供給を継続できるようにする新電力ネットワークである、品質別電力供給システムの実証研究を行いました。


図10 NEDO品質別電力供給システム実証研究(クリックで拡大)

図10 NEDO品質別電力供給システム実証研究


池辺裕昭氏(NTTファシリティーズ 代表取締役副社長)
池辺裕昭氏
(NTTファシリティーズ
 代表取締役副社長)

 

品質別というのは、電気エネルギーの供給の仕方において、需要家(ユーザー)から見たときの信頼性(すなわち品質)の種別を複数にしたということです。信頼性が高い場合は、それなりに丁寧な仕組みで電力を供給する必要があり、コストがかかるわけです。しかし、多少電力の供給が止まってもいい、そこそこ使えればいいということであれば、コストは安くなるわけです。このような実験を東北福祉大のキャンパスと仙台市の施設で、図10の下側に示すように、高品質のA、高品質のB1、高品質のB2、高品質のB3、直流というように信頼性(品質種別)をそれぞれ定義して、各品質別に給電するという実証実験を行ったわけです。

■ この実験の特徴的なところは?

池辺 この実証研究は、現状、ユーザーが各々無停電電源装置(UPS)を用いて行っている電力品質の向上化(高品質化)対策を、ガスエンジン、燃料電池、太陽光発電などの分散型電源を設置したエネルギーセンターというところに集約し、様々な品質の電力を集中給電するシステムの実現性を検証するものでした。

8ヶ月に渡る長期フィールド試験のほか、実際の配電系統で発生し得る種々の事象(瞬時電圧低下、位相跳躍等)を人工的に発生させる試験器を用いて、様々な事象が発生した場合でも、様々な品質の電力を安定に供給できることを確認しました。多品質の電力は、東北福祉大学エリアと、隣接した仙台高校や水道局のある広いエリアに供給しました。図11に、東北福祉大学エリアにある、エネルギーセンターの外観を示します。


図11 東北福祉大学エリアにあるエネルギーセンターの外観(クリックで拡大)

図11 東北福祉大学エリアにあるエネルギーセンターの外観



≪2≫世界の27種類の太陽電池パネルでメガソーラーを実証実験中!

■ 現在行われているスマートグリッドの実証実験はありますか。

池辺 図12に示す、山梨県北杜市におけるメガソーラーの実証実験は、2006年度~2010年度の期間で、現在も行われています。


図12 山梨県北杜市におけるメガソーラーの実験システム(クリックで拡大)

図12 山梨県北杜市におけるメガソーラーの実験システム


池辺裕昭氏(NTTファシリティーズ 代表取締役副社長)
池辺裕昭氏
(NTTファシリティーズ
 代表取締役副社長)

 

ここでは、日本を含め世界(北米、欧州、アジアなど)のメーカーから購入した、27種類の太陽電池パネルで構成した「メガソーラー」施設(約2MWの大規模電力供給用太陽光発電システム)を構築して実証実験を行っています。具体的には、各太陽電池パネルを同一の自然条件下で使用した場合の発電効率などの評価、商用の電力系統と連系する場合に要求される、電圧変動抑制制御や瞬低(瞬時電圧低下)対策などの安定化技術を実験しています。約2MWの太陽電池パネルの面積は、サッカーグラウンドで8面ぐらいの広さです。

■ 各太陽電池パネルの特性データはあるのですか。

池辺 そのデータに関しては、みなさんとても高い関心をお持ちですが、うまく把握することができました。また、太陽電池パネルを組立設置する架台も工夫し、自然にやさしい工法も開発し、雷対策なども行っています。また、太陽電池で発電された約400Vの直流電圧(DC)は、図12に示すパワーコンディショナ(直流を交流に変える変換装置)で、400Vの交流電圧に変換し、トランスで6万6,000ボルト(66kV)の特別高圧に昇圧され、商用の電力系統と連系させています。本実証実験は、世界各国から見学者も多く国際的にも注目されています。

その他、経産省のスマートハウス実証プロジェクトとして、マンション向け電力提供サービスにおいて多様なお客様(ユーザー)を対象に、使用電力量の「見える化」およびインセンティブ付与によるピークシフト検証を実施し、省エネ効果・省CO2効果の実証実験なども行っています。さらに、東京工業大学との共同プロジェクトや、米国のニューメキシコ州における日米スマートグリッドの実証実験も展開しています。

このように、今までいろいろなプロジェクトに当社も参加してきましたので、そこで得たいろいろな知見をNTTグループ全体で、ITとエネルギーを組み合わせたスマートグリッドを検討していきたいと思っています。


≪3≫NGNでエネルギーをマネジメントする時代へ

■ NTTファシリティーズとしての今後の取り組みは?

池辺 スマートグリッドというのは、図13に示すように、これまで別々に考えられてきたITとエネルギーを融合・連携させ、新しい発想やアイデアによってエネルギーを効率的に利用できるシステム「次世代電力網」を作り、CO2の排出を少なくする国際的な取り組みだと思っています。


図13 スマートグリッドにおけるITとエネルギーの関係(クリックで拡大)

図13 スマートグリッドにおけるITとエネルギーの関係


すなわち、スマートグリッドとは、

(1)「Energy for IT」(ITのために使用するエネルギーを削減すること)

(2)「IT for Energy」(ITでスマートにエネルギーを制御すること)

をうまく組み合わせて、どう実現するかということなのです。「スマート」というのは、イコール「IT」ということです。すなわち、スマートグリッドとは、ITをいかにエネルギー分野でうまく使いこなすかということなのです。

■ エネルギーを制御するITとして、いろいろなネットワークが注目されていますが。

池辺 そうですね。エネルギーを制御するには信頼性が要求されます。現在、NTTでは、電気通信ネットワークとして信頼性の高いNGN(次世代ネットワーク)を実現していますので、このNGNを適用し、エネルギーをうまくマネジメントする時代がやってきたのではないかと思います。これから、スマートグリッドをめぐって、国際的な協力や連携がいっそう深まっていくと思いますが、当社の持っている経験やノウハウが、CO2排出の抑制や地球温暖化防止のうえでお役に立てるよう努力していきたいと思います。

■ ご多忙のところ貴重なお話をありがとうございました。

(終わり)

バックナンバー

<NTTファシリティーズのスマートグリッド戦略を聞く!>

第1回:NTTファシリティーズのスマートグリッドへの取り組み

第2回:重要なエネルギー利用状況の「見える化」

第3回(最終回):世界27種類の太陽電池パネルを実証実験


プロフィール

池辺裕昭(いけべひろあき)氏(NEDO主任研究員)

池辺裕昭(いけべひろあき)氏

現職:
(株)NTTファシリティーズの代表取締役副社長

【略歴】
1973年  九州大学 工学部 電気工学科 卒業
 同年  日本電信電話公社入社
1985年  NTTネットワーク事業本部 担当部長
1992年  NTTファシリティーズ サービス推進部 担当部長
1997年  NTTファシリティーズ 首都圏支店 副支店長
2001年  NTTファシリティーズ 取締役 営業本部副本部長
     データセンター環境構築本部長
     雷害リスク低減コンソーシアム幹事長
2004年  NTTファシリティーズ 常務取締役 営業本部副本部長
2006年  NTTファシリティーズ 常務取締役 事業開発部長
2009年  NTTファシリティーズ 代表取締役副社長


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