[特別レポート]

欧州最大「オーストリアのバイオマス発電」の実態と関連技術 ― バイオマス発電事業で成功したギュッシングとウィーン ―

2015/08/01
(土)
SmartGridニューズレター編集部

木くず(チップ注1)や間伐材(森林育成のために間引いた木材)、可燃性ごみなどの生物資源を有効に活用して発電する「バイオマス発電」は、日本でも再生可能エネルギーの1つとして2012年にFIT(電力固定価格買取制度)が開始され、多くの計画がでてきている。木質バイオマスを利用したエネルギー効率は、発電の場合は2割程度、熱利用の場合には8割以上と言われ、エネルギーをいかに効率よく使うかが重要なポイントである。
オーストリアやドイツでは、これら木質バイオマスの利用について、例えば地産地消型の熱利用や、水分の多いチップを高温で燃やすガス化ボイラー技術などの開発が進み、そのノウハウが蓄積されている。
ここでは、オーストリアにおけるギュッシング注2(Güssing)と首都ウィーン(Wien)のバイオマス発電所の事例を見ながら、バイオマス利用の実態と日本における課題を考察する。なお、本記事は、電現ソリューション株式会社 取締役 岡村 久和(おかむら ひさかず)氏への取材をもとにレポートする。

世界でも先端を行くオーストリアのバイオマス関連技術

 オーストリア(正式名称:オーストリア共和国)は、ドイツ、スイス、イタリアの隣りに位置し(図1)、首都ウィーンは、北緯でいうと、ほぼ北海道の稚内と同じである。人口は約843万人(2013年)、面積は約8万3,900㎡で、日本の約1/5、北海道より少し大きい。地形は大きくアルプス山脈、パンノニア低地の一部、ウィーン盆地、ボヘミア高地に分けられ、図2のようにバイオマス発電所が数多く(計436箇所)存在している。

 世界で最も進んでいると言われるオーストリアのバイオマス関連技術は、木質バイオマス関連の展示会「Energiespamesse」(省エネルギー展:2015年2月17日〜3月1日、出展者数880社、来場者数9万8,600名)の規模の大きさからも伺える。

図1 オーストリア・ウィーン(Wien)とギュッシング(Güssing)の位置関係

図1 オーストリア・ウィーン(Wien)とギュッシング(Güssing)の位置関係

図2 オーストリア国内のバイオマス発電所の分布図

図2 オーストリア国内のバイオマス発電所の分布図

〔出所 http://tkm.sebe2013.eu/index.php/Transnational_Economic_and_Logistical_Environmenthttp://tkm.sebe2013.eu/index.php/File:TEF_5-12.JPG

 同展示会は、全体で大きく産業用木質バイオマス関連、一般住宅用木質バイオマス関連、産業用木質バイオマス関連、住宅省エネ設備機器関連に分かれ、この中で産業用木質バイオマス関連の展示内容は、主に次の3つに分かれている。

(1)チップ関連:木材の粉砕機〔チッパー(Chipper)〕

 チッパーとは、森林において、トラクターの駆動装置を接続したり独自のエンジンでチップを作る機器(写真1)のことである。小型のものから超大型まであり、多くの企業で製品化され、その価格は日本円にして10万円程度〜数千万円までさまざまである。

写真1 ヘルツ(Herz)社注3のチッパー

写真1 ヘルツ(Herz)社注3のチッパー

〔出所 https://www.youtube.com/watch?v=rBH22tU0Gyc

(2)ボイラー

  • 家庭用ボイラーとストーブオーストリアでは家庭暖房に関して、木材を燃料に温水や蒸気を供給するもの、木材を燃焼し直接熱を得るものの展示が多い。日本でも北海道などでは家庭用ボイラーや地域配管供給暖房が行われている。
  • 産業用ボイラー

 主に、地域暖房や産業用熱供給の目的で使われるボイラーである。各社が実機を展示。スナッパー(Spanner)社やヘルツ(Herz)社などの大手企業も多いが、ほとんど日本に輸入されていない。

(3)その他関連機器

 チッパーやボイラーの刃や部品関連の機器の展示が多いが、そのほか、コンテナ式のバイオマス発電装置格納機器など展示されていた。

 これはチップのサイロ(格納場所)や木材粉砕機(チッパー)、ボイラーなどを総長40フィート(約12メートル)の大きさのコンテナに収めてしまう仕組みである。木材供給所からの移動も可能になるため、用地制限も緩和される。これは、現在日本でも普及しているコンテナ式データセンターのバイオマス発電所版ともいえる。


▼ 注1
チップ:木材を機械で小さく切り刻んだもの。

▼ 注2
「グッシング」とも発音される。

▼ 注3
ヘルツ(Herz)社:正式名はHERZ Armaturen社(オーストリア)。1896年に設立(創業118年)。従業員は単独1,700名(連結3,000名)。熱と設置導入産業機器を生産。2014年に大型産業用のバイオマス・ボイラーメーカーのBinder社(オーストリア)を買収統合している。

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