[欧州の風力発電最前線]

欧州の風力発電最前線 ― 第6回 日本のスマートグリッドがガラパゴス技術にならないために ―

2015/08/01
(土)
安田 陽 関西大学 システム理工学部 准教授

前回(第5回)までに、日本の蓄電池の再生可能エネルギーの応用が変動成分の除去にのみ偏っており、国際動向を十分キャッチせずに狭い島国の中で独自路線の開発を行っているのではないか、という問題提起を行い、蓄電池開発を巡る国内外の情報ギャップをデータとエビデンスで明らかにした。
本稿(第6回)では、同じく国際動向から乖離(かいり)の懸念がある「スマートグリッド」に関して論考する。ここでも国内外の情報ギャップが存在する。例えば、海外のスマートグリッドに関する文献では非常によく登場するキーワードが日本語の文献ではほとんど見られない。その代表的な例が、(1)電力市場、(2)系統柔軟性、(3)広域送電網である。本稿では、これらのミッシングリンクを追いながら、グローバル市場における日本のスマートグリッド開発の立ち位置を確認する。

海外で語られていること、日本で語られていないこと

 「スマートグリッドはさまざまな定義があり、国や研究者によってその意味するところはまちまちである」という表現は、スマートグリッドを紹介するうえでほとんど枕詞のように使われている注1。スマートグリッドの基本理念や背景となる設計思想は世界各地域で大きく異なり、日本でも日本独自の「スマートグリッド」が開発されている。世界中でそれぞれ「独自」のスマートグリッド開発が百花繚乱だが、重要なのは、この「独自性」を狭い地域のなかでしか通用しない特殊システムで満足するのではなく、他国から見ても魅力的に映り世界市場で勝ち残れるか、ということである。

 筆者は、再生可能エネルギー(以下、再エネ)導入や系統設計・運用の国際比較研究を行う立場から、必然的に国内外のスマートグリッド関係の論文や報告書に目を通すことが多い。特に、先に英文の情報を仕入れ、あとから日本の動向について改めて日本語で調べ直すということを繰り返しているうちに、海外の文献では非常によく登場するキーワードが日本語の文献ではほとんど見られない、ということに気がついた。その代表的なキーワードが、

  1. 電力市場
  2. 系統柔軟性
  3. 広域送電網

である。

 これらのキーワードは特段スマートグリッドに関わらず、今日の電力系統、とりわけ再エネが大量導入されつつある欧州や北米の電力系統を議論するうえで、避けては通れないものであり、実際に国際会議などでは盛んに登場する用語である。しかし、いくつかの先見的な論文を除いて、日本のスマートグリッド関連の書籍や報告書でこの用語を見ることはほとんどない。

 本稿では、スマートグリッドを縦糸に、再エネを横糸にして、この3つのキーワードから成るミッシングリンクを追いながら、スマートグリッドの分野での国内外の情報ギャップを論考していく。


▼ 注1
例えば、国際電気標準会議(IEC)では、「ネットワークユーザーやステークホルダの挙動や行動を統合したり持続可能・経済的な電力を安定に供給したりするための、情報の授受と制御技術、分散型コンピューティング、センサーとアクチュエータの組合せを利用した電力システム」(筆者仮訳)と定義されている(IEC 60050 “International Electrotechnical Vocabulary”, http://www.electropedia.org)。
また、米国電気電子学会(IEEE)では「スマートグリッドは、電気エネルギーの生産と配送と消費において情報通信技術(ICT)の利用を拡大させるという特徴をもつ次世代電力システムである」(http://smartgrid.ieee.org/ieee-smart-grid)と定義されている。

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