[欧州の風力発電最前線]

欧州の風力発電最前線 ―第7回 (最終回) 将来のスーパーグリッドを支える風力発電―

2015/09/01
(火)
安田 陽 関西大学 システム理工学部 准教授

本連載の筆者担当回(第4回〜)は、蓄電池やスマートグリッドといった日本でも流行のキーワードを取り上げながら、一貫して風力発電に関する国内外の情報ギャップの存在を紹介してきた。本連載の最終回はその締め括りとして、同じく国内外の情報ギャップが大きいスーパーグリッド(と、やはりここでも重要な地位をしめる風力発電の関係)について考察する。

スーパーグリッドとは何か

〔1〕そもそも何のためのスーパーグリッドか

 スマートグリッドと同様、「スーパーグリッド」(supergrid)というものが何を指すかは人によってイメージがそれぞれであるが、この用語が世界でどのような文脈で語られているかをまず把握しなければならない。

 例えば、再生可能エネルギー(以下、再エネ)の系統連系に関する問題を論じたある書籍では、スーパーグリッドに関して1章分を割いており、そのなかで「スーパーグリッドもしくは大規模送電網という概念は大西洋の両岸で議論が活発になってきており、世界的な二酸化炭素削減のなかで将来の再エネの大量導入に関する大胆な政策によって主役に躍り出てきている」(筆者私訳)と、再エネの大量導入との関連が明示的に指摘されている注1

 また、「フレンズ・オブ・ザ・スーパーグリッド」という団体では、スーパーグリッドに関して次のような興味深い解説を行っている(訳文は筆者私訳)注2

  1. スーパーグリッドにより、将来の発電所を送電に便利な場所ではなく、必要とされる天然資源が最適になるような場所に建設することができる。
  2. スーパーグリッドにより、既存の交流送電網を拡張しながら、国を超えて低炭素電力を送電することができる。
  3. スーパーグリッドは、送電時のメンテナンスコストや供給支障を削減することができるスマートグリッド技術を包含する。
  4. スーパーグリッドは、電力系統の利用のなかで輸送用や熱需要のシェアが増加せざるを得ない状況で、電力系統において2020〜2050年までの二酸化炭素削減目標を達成するために不可欠なものとなる。
  5. スーパーグリッドによって系統容量が拡大し、同時に(少なくとも)現在と同等の電力安定供給が維持される。

 同資料では、「欧州の温室効果ガス削減およびエネルギー安全保障の目標達成という観点からのスーパーグリッド」という記述や、さらには「それ(スーパーグリッド)は、クリーンなエネルギーミックス(その多くが洋上風力発電による)に基づく欧州の将来を示している」という表現も登場する。

 このように、スーパーグリッドは低炭素電力や再エネ、より具体的に言えば風力発電と密接に関わりがあり、両者はあたかも車の両輪のように相補関係にあると言える。特にフレンズ・オブ・ザ・スーパーグリッドには、欧州の名だたる重電メーカーや送電系統事業者(TSO)ばかりでなく従来型発電所を所有する発電会社も多数参加しており、このような電力インフラを代表する民間団体がここまで明示的に低炭素電力や洋上風力発電に言及するということは、欧州における再エネの趨勢を象徴していると言えよう。

〔2〕スーパーグリッドとスマートグリッド

 スーパーグリッドとスマートグリッドは必然的に相関性がある。なぜならば、連載第6回でも議論した通り、本来の「スマートグリッド」の概念は送電系統の広域運用も含まれるからである。スーパーグリッドとスマートグリッドの関係を的確に表している図として、再びフレンズ・オブ・ザ・スーパーグリッドの資料からわかりやすい概念図を図1に提示する。

図1 スーパーグリッドとスマートグリッド概念の例

図1 スーパーグリッドとスマートグリッド概念の例

〔出所 Friends of the Supergrid WG2, “Roadmap to the Supergrid Technology”, Mar.2014. 図中文は著者翻訳〕

 日本でもマイクログリッドやスマートグリッドは盛んに議論されており、図1の左側方向を指向する形でさまざまな研究開発が進んでいるのは、連載第6回でも指摘した通りである。反面、図1の右側方向、すなわち広域の電力系統をまたぐAC/DC(交流/直流)送電網を指向したプロジェクトについては、日本版スマートグリッドが現状の種々の制度的な制約のためか、小規模なエリアに小さくまとまる傾向があるためか、日本ではほとんど議論の俎上に上っていない。

 「スーパーグリッド」という言葉自体のイメージが壮大でありすぎるせいか、多くの日本人にとってはどうしても「遠い将来の実現可能性がまだ低い構想」と捉えられがちである。実際、世界各地でさまざまに提案され計画が進行しているプロジェクトの多くは明示的に「スーパーグリッド」の名前を冠しているわけではないため、単純に「スーパーグリッド」(supergrid)というキーワードで機械的に検索したとしても、あまり核心的な情報は得られない。したがって、現在進んでいるプロジェクトの動向を的確に把握し、実際にその技術開発トレンドを多角的に調査する必要がある。本稿では、以下に、欧州のスーパーグリッド構想について概観する。


▼ 注1
Boas Moselle et al,“HARNESSING RENEWABLE ENERGY IN ELECTRIC POWER SYSTEMS”, RFF Press, Sep.2010.

▼ 注2
Friends of the Supergrid WG2, “Roadmap to the Supergrid Technology”, Jun.2014.
http://www.friendsofthesupergrid.eu/wp-content/uploads/2014/06/WG2_Supergrid-Technological-Roadmap_20140622_final.pdf

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