[ニュースで学ぶSmartGrid最新事情]

ニュースで学ぶSG最新事情-[第1回]“電力小売マーケット”are go!

2015/10~12月分---プレスリリース情報から読み解く
2016/01/15
(金)
中山洋一(なかやま よういち) テクニカルライター

本連載では、直近(数カ月分)の各社プレスリリースをリソースとして、現在のスマートグリッド市場の動勢について製品/サービス動向を中心に短信レポートしていく。

「小売電気事業者」の事前登録がスタート、電力小売市場への期待大!

 2016年4月1日から電力の小売全面自由化が実現するのを受けて、経済産業省では2015年8月3日から、小売電気事業を営む組織に対して、事前登録の申請受付を開始した。そして、2015年10月8日、40の組織に対して小売電気事業者の事前登録を行ったと発表、その結果をWeb上で「登録小売電気事業者一覧」として公開を始めた。経産省ではその後も申請受付した組織が審査に合格すれば、順次その組織を小売電気事業者一覧に追加表示しており、2015年12月28日現在、その登録数は順調に増え続け119社に達している。

 一方、事前登録が完了した事業者からは、電力小売サービス関連のプレスリリースが徐々に届くようになってきた。その中で、特に目を引くプレスリリースが「東京ガスグループの小売市場参入」である。同グループでは東京ガスの供給エリアを中心とした関東圏で4月から低圧電力の販売を開始することにしているが、契約申込みについては一足早く2016年1月より受け付けを開始する。販売体制としては、東京ガスライフバル/エネスタ/エネフィットなどの東京ガスグループ(関東圏に200以上の店舗がある)による販売に加えて、住宅/建築/設備や通信/情報サービスの事業者、都市ガス事業者、LPG事業者など、これまで付き合いのあった事業者とパートナーシップを結んで販売チャネルを広げていく方針だ。同グループの特徴的なサービスメニューとしては、エネルギー(電気およびガス)と光回線をセットにしたサービスを用意している。また、各種サービスを使用した場合にポイントが貯まる仕組みも導入すると伝えている。

最初はセット販売から。サービス料金の比較サイトもまもなく登場!

 サービス開始当初は電力とその他のサービス(ガス、水道、通信サービスなど)を組み合わせたセット販売が注目サービスになりそうだが、次第に各社独自のきめ細かいサービスメニューが提供されるようになるだろう。例えば中部電力株式会社は、2015年12月15日から家庭向けWeb会員サービスの「カテエネポイント」と名古屋鉄道株式会社のミュースターポイントとの連携を開始すると発表している。中部電力はポイント交換できる新たな提携先として、ミュースターポイントに加えて遠州鉄道株式会社の「えんてつポイント」、静岡鉄道株式会社の「LuLuCaポイント」、名古屋市交通局の「マナカチャージ券」との連携を行うことをすでに発表しており、中部地域に密着して事業を展開している各鉄道会社との幅広いポイント交換を可能にしている。

 また、株式会社エネットでは、利用者の「電気使用量」「電気料金」などをWeb上で 情報提供するサービスの充実を図っていて、効果的な節電目標や節電対策の検討ができるようにしている。具体的には設定したしきい値を超過した場合、指定の宛先(メール・FAX)へ通知したり、毎月の電気使用量が確定した時点で「電気使用量のお知らせ」を指定の宛先に自動送付したり(図1)、過去年度あるいは契約中の他施設との比較を行ったりするなど、これらの機能を利用することで今まで気づかなかった節電のヒントが見えるようになるという。

図1 エネットのお知らせ機能

図1 エネットのお知らせ機能

出所:エネットWebサイトより。http://www.ennet.co.jp/about/info.html

 参考までに、「登録小売電気事業者一覧」に掲載されている事業者のホームページから各社のサービスメニューをチェックしてみたが、本稿執筆時点では、まだ大半の事業者は具体的なサービスメニューの紹介を行っていない。従って、実際にどのようなメニューを利用できるようになるかはまだ未知数だが、資源エネルギー庁では図2に示すサービス料金プランの提供が行われると予測している。

図2 サービス料金プランのイメージ

図2 サービス料金プランのイメージ

出所:経済産業省 エネルギー庁 Webサイトより抜粋。
http://www.enecho.meti.go.jp/category/electricity_and_gas/energy_system_reform/pdf/plan_image.pdf

電気事業者の区分も変わる!

 利用者(一般の消費者)は、2016年4月から電力の小売全面自由化がスタートすることを覚えておいてほしいが、これと同時に電気事業者の区分が変わることも理解しておきたい。従来の制度では、電気に関しては地域ごとの10の電力会社が「一般電気事業者」として認可を受けて事業活動を行ってきたが、2016年4月からは、事業者は発電・送配電・小売の3つに区分されることになった(図3)。

図3 エネルギーシステム改革

図3 エネルギーシステム改革

出所:経済産業省 エネルギー庁 Webサイトより抜粋。
http://www.enecho.meti.go.jp/category/electricity_and_gas/energy_system_reform/pdf/plan_image.pdf

 もう少し詳しく説明すると、電力の小売を行うには電力会社や新電力も「小売電気事業者」として登録する必要があり、大手電力会社の小売事業部門と新規参入した小売電気事業者とが競合しながら成長する新しいエネルギー市場がまもなくスタートする。

 なお、今回取り上げた内容は、2015年6月17日に「改正電気事業法」が成立したことを受けて動き出したもので、一般家庭、企業を含めたすべての電気利用者が、自由にサービスを選べるようになることで、企業のビジネスチャンス、イノベーションを生み出すことにつながっていくと期待されている。

10電力会社の託送料金が確定、小売各社はサービス料金メニュー作成に着手

 平成27年の締め括りは、やっぱり経済産業省のニュースリリースから。12月18日、電力会社10社から申請書が提出されていた託送料金申請に対し、経産省は指示通り修正が行われているとして、これらをすべて認可したと発表した。

 託送料金は、小売電気事業者が電力会社から自分たちの顧客のところまで電力を届けるために利用する送配電ネットワーク(電線)に対する使用料のこと。通常、小売電気事業者は自前で電柱を立てて電線を引き回すことはせず、電力会社所有の電線を借りてビジネスを行うのが一般的なスタイル。従って、託送料金が決まらないと自分たちのサービス料金が決まらない。これで2016年4月からスタートする各社の家庭向けサービス料金が次第に明らかになっていくはずだ。

 ちなみに、電力会社の託送料金は各社マチマチであり、同じではない。比較的安いのは北陸電力、高いのは沖縄電力で、東京電力や関西電力は低めに設定されている。
 

◎Profile

中山洋一(なかやま よういち) 
 テクニカルライター

アイワ(現ソニー)、技術雑誌「インターフェイス」編集部などを経て独立。「インターネットユーザーズガイド」(オライリージャパン)を皮切りに技術翻訳や「キーマンズネット」(リクルート、アイティメディア)などのICT情報サイト向け取材記事を多数手がけてきた。現在は、技術・マーケティング解説だけでなく、優れた技術系リーダーの自叙伝制作サポートを手掛けるなど幅広く活動中。


 

関連記事
新刊情報
5G NR(新無線方式)と5Gコアを徹底解説! 本書は2018年9月に出版された『5G教科書』の続編です。5G NR(新無線方式)や5GC(コア・ネットワーク)などの5G技術とネットワークの進化、5...
攻撃者視点によるハッキング体験! 本書は、IoT機器の開発者や品質保証の担当者が、攻撃者の視点に立ってセキュリティ検証を実践するための手法を、事例とともに詳細に解説したものです。実際のサンプル機器に...
本書は、ブロックチェーン技術の電力・エネルギー分野での応用に焦点を当て、その基本的な概念から、世界と日本の応用事例(実証も含む)、法規制や標準化、ビジネスモデルまで、他書では解説されていないアプリケー...