[新春特別レポート]

デマンドレスポンスへの取り組みと価格弾性、HEMS機能─後編─

─NEDOの米国ニューメキシコ州のマイクログリッド─
2013/02/01
(金)

NEDO(独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構)は、2012年5月に完成した同州アルバカーキ市実証サイト(スマートビル)に続いて、ロスアラモス郡実証サイトを同年9月に完成させ、本格的なマイクログリッドの実証実験を開始している。前編(2013年1 月号)では、ロスアラモス郡実証サイトに設置した最新の「スマートハウス」実証実験の内容を中心に紹介した。後編では、電力市場における価格弾性の重要性やデマンドレスポンスへの取り組み、求められるHEMS 機能などを含めて紹介する。

価格弾性とデマンドレスポンスへの取り組み

スマートハウスにおいて重要となるデマンドレスポンスについては現在、実証モデルの詳細を検討中である。日本IBMと協力して東芝がスマートメーターを設置し、μ-EMSから制御信号を出すトライアルなどを行っている。

デマンドレスポンスの実験の枠組みに関しては、専門家注1の協力を得て、「価格弾性」(Price Elasticity)に関する研究を開始している。価格弾性とは、経済学的用語で、例えば「電力料金がいくら高くなると、電力の消費がどれだけ減るか」という、需要と供給の市場(マーケット)メカニズムを意味している。

電力の取引は、この需要側の価格と供給側の価格が合意されたところでバランスして決まるという考え方である。

すなわち、電力の価格が高くなると需要家が電力を買わなくなるので、それによって価格の上昇が抑えられる。逆に価格が安くなると、多くの人が電力を買うようになるので、価格の下落が抑えられるというのがマーケットメカニズムの意味である。

米国では、10年ほど前からこのような電力市場のマーケットメカニズムが話題になっていて、DOE(United States Department of Energy、米国エネルギー省)には、すでに価格弾性の評価方法のマニュアルも整備されている(図1)。

図1 米国エネルギー省が策定したスマートグリッド社会実証実験のガイドライン

図1  米国エネルギー省が策定したスマートグリッド社会実証実験のガイドライン

〔出所 http://www.wired.com/images_blogs/threatlevel/2009/10/proposal-requirements-for-smart-grid-grants.pdf

デマンドレスポンスという場合は、このような価格メカニズムを基本にしているが、日本ではあまり知られないで語られていることが多い。米国では、電力の自由化の過程で起こったピークの価格高騰(プライススパイク)の発生から、このような電力市場における価格弾性の重要性が真剣に検討され、スマートメーターが導入された経緯がある。

このように、価格弾性があるかないかということは、マーケットで取引できるかどうかという非常に重要なファクターなのである。例えば新エネルギー(太陽光発電の電力等)の場合は価格弾性がまったくないため、そのままでは電力取引には使えない。そのため、蓄電池などに貯めて電力の在庫をもたせるようにする必要性が出てくる。

例えば、農産物を例にとるとわかりやすい。農産物は秋にしか収穫できないため、そのままでは安定した農産物のマーケットは成立しないが、例えば穀物倉庫をつくり、そこから在庫を取り崩してマーケットに回す仕組みになっているため、マーケットメカニズムが出せるようになっている。

新エネルギーもこれと似た要素があって、風が吹くと風力が発電するが、風が吹かないと発電されないので、顧客が電気が欲しいといっても、それに対応できない。このため、電力として流通させるためには、風力や太陽光発電などの新エネルギーの近傍に配置した蓄電池に電力をストックし、需要に応じて電力を流すという形をとる必要がある。このように、取り扱う商品に価格弾性があるかないかということは、市場の成立においては非常に重要なファクターなのである。

デマンドレスポンスと日米の動き

〔1〕日本の場合:注目される北九州のプロジェクト

現在話題となっているOpenADR標準規格のような話は、あくまでもデマンドレスポンスをする人たちがデータをやり取りする方法、あるいは、あらかじめ「どのような電力料金を設定すべきか」を標準化しようとする動きである。すなわち、電力情報の交換について共通化を目指す話である。価格弾性に基づくマーケットメカニズムの問題は、それと違って、電力市場だけでなく一般的なもう少し本質的な問題である。

なお、日本では、けいはんな学研都市、横浜市、豊田市、北九州市の4地域の社会実証実験のうち「けいはんな学研都市」「横浜市」「豊田市」の3カ所は、実証参加者が電力会社から電気を買って実験しているので、実証事業側で直接電気料金を操作できない。このため、クーポン制度というような間接的な形でデマンドレスポンスを実証することとなっている。

しかし、北九州市の実証実験の場合は、電力会社(九州電力)の系統とは独立した系統となっており、新日鉄住金八幡製鉄所の発電プラント(東田コジェネ)から直接電力の供給を受けている。このため自由に電力料金が設定できるので、かなり本格的なデマンドレスポンスの実証試験ができる環境となっている。

2012年11月29日、北九州市では「北九州市における変動型CPP社会実証 ─2012年度夏期評価結果─」として国内初の本格的なダイナミックプライシング(変動型電気料金)社会実験の評価結果を公表した注2(図2)。

すなわち、北九州市のプロジェクトが最も厳密に、デマンドレスポンスの実証実験が行われている環境なのである。

図2 北九州市が公表した2012年度夏期の月間別支出分析

図2  北九州市が公表した2012年度夏期の月間別支出分析

〔出所 http://www.city.kitakyushu.lg.jp/files/000128666.pdf

〔2〕ロスアラモスサイトの場合:柔軟な環境での実験

一方、ロスアラモスサイトの場合は、北九州市と異なり、基本的には電力会社から電力を買っている。しかし、ロスアラモスの場合は、ロスアラモス郡が電力会社を経営しているため、その電力料金の規制権はロスアラモス郡議会(いわゆる町議会)がもっている。

このような環境のため、実験参加者に損害を与えないように配慮し郡議会の許諾を得られれば、電力会社のサービスのなかに、比較的自由に、デマンドレスポンスなども含んだいろいろなメニューを組み込んで試験ができるのである。


▼ 注1
京都大学の依田 高典(いだ たかのり)教授。

▼ 注2
http://www.city.kitakyushu.lg.jp/files/000128666.pdf

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