[市場動向]

AMI分野のプレイヤー動向とPG&Eのケーススタディ

2013/02/01
(金)

2013年の年明け間もない1月3日、AMI(スマートメーターネットワーク基盤)関連の買収ニュースが飛び込んできた。AMI やMDM(メーターデータ管理)関連のソリューションを提供するAclara Technologies(アクララ・テクノロジーズ、以下Aclara)が、携帯電話網を使ってAMI の通信部分のソリューションを提供しているMetrum Technologies(メトラム・テクノロジーズ、以下Metrum)を買収すると発表した。このように、最近のスマートグリッド関連の企業動向を見ていると、AMI の通信部分のソリューションを巡る動きが活発になり始めている。

AMIと3つの通信方式

AMI(Advanced Metering Infrastructure)とは、需要家の部分(図1ではスマートハウス)で生成されたデータが、スマートメーター、コンセントレータを経て、電力会社にあるMDMS(Meter Data Management System)にまで至る通信ネットワーク基盤のことを指す(図1)。

この中でもFAN(Field Area Network)と呼ばれるスマートメーターからコンセントレータまでの通信部分が、今回のテーマである。この部分で利用される通信方式にはさまざまなものがある。例えば、東京電力が2012年3月21日に発表した「スマートメーター通信機能 基本仕様」の中では、次の3つの通信方式を検討していると公表している。

図1 AMIの基本構成例

図1  AMIの基本構成例

〔出所:『インプレスSmartGridニューズレター』2012年11月号、17ページ、図3を一部修正〕

  1. 無線マルチホップ方式:比較的低出力の無線を用い、他の無線端末経由でバケツリレーのようにデータを伝送する方式。
  2. 1:N無線方式:比較的高出力の携帯電話網を用い、基地局と無線端末との間で直接データを伝送する方式。
  3. PLC(Power Line Communications)方式:電力線(配電線)を通信回線として利用する方式。

このうちどの通信方式を利用するのかは、地域や採用する電力会社の判断によって変わってくる。すでにAMIの導入を進めている電力会社の状況を見ると、米国では主に無線マルチホップ方式を、欧州では主にPLC方式を採用する傾向がある。

米国におけるAMIプレイヤー動向と「1:N無線方式(携帯電話網)」への注目

図2 米国におけるAMIの市場シェア(2012年第2四半期時点)

図2  米国におけるAMIの市場シェア(2012年第2四半期時点)

〔出所:North American AMI/AMR Markets Projected to Shrink Into 2013 : Greentech Media(http://www.greentechmedia.com/articles/read/north-american-ami-amr-markets-projected-to-shrink-into-2013)を元に著者作成〕

AMIは、スマートグリッド導入においてもっとも重要な部分である。そのためこの分野には、比較的規模の大きい限られた数の企業が参入している傾向がある。AMI市場のシェアを見てみると(図2)、スマートメーターメーカーでもあるItron(アイトロン)が市場の約3割、Landis+Gyr(ランディスギア)が市場の約2割を占めている。Landis+Gyrと同じシェアをもつのがSilver Spring Networks(シルバースプリングネットワークス)である。冒頭でも紹介したAclaraは6%の市場シェアとなっている。

これらの企業は、さまざまな特性をもつ地域において、スマートメーターからのデータを確実に電力会社側まで届けるためにさまざまな取り組みを行っている。電力を利用している家庭は、分譲住宅が密集している住宅街や高層マンションが建ち並ぶ地域、家と家の間が離れている郊外や、家が点在する山間地域など、さまざまな地域に及んでいる。このように地域特性が異なれば、そこで用いるべき通信方式も異なってくる。したがって、AMIソリューションを提供する企業は、それぞれの地域特性に応じた通信方式を用いて、スマートメーターのデータを確実に伝送するための取り組みを行っている。

そのような背景を踏まえると、冒頭で紹介したAclaraが、携帯電話網を使ったAMIソリューションを提供しているMetrumを買収した意図もよくわかる。Aclaraは、これまでに無線マルチホップ方式とPLC方式を用いたソリューションを提供しており、ペンシルバニア州を中心に140万の顧客を持つPPL Electric Utilitiesなど500社以上の企業に採用されていると言われている。一方、買収されたMetrumは350社以上の企業で採用されている。Aclaraの今回の買収の目的はクライアント企業を増やすことだけではない。Metrumを買収することで、携帯電話網を使ったソリューション、先ほどの東京電力の分類で言えば1:N無線方式を自社のソリューションメニューとして追加することができるのである。

同じような動きを他の競合企業も行っている。もっとも大きな動きとしては、図2で市場シェア第1位となっているItronによるSmartSync(スマートシンク)の買収がある。SmartSyncは、携帯電話網を利用したAMIソリューションを提供していた企業だが、2012年5月にItronが1億ドル(約87億円;1ドル87円換算)で買収している。また、Landis+Gyrと並ぶ市場シェア第2位のSilver Spring Networksは、無線マルチホップ方式によるAMIソリューションを強みとしていたが、2012年1月には携帯電話網を用いたGen4という新技術を発表している。

このように、各社とも携帯電話網を自社のソリューションメニューとして取り込んでいる背景には、スマートメーター用に使われる携帯電話網の料金が下がってきた点や、無線マルチホップ方式と比較して導入が容易である点などがある。ただし、すでに導入されている世界におけるAMIでの採用状況を見ると、2009年の実績では無線マルチホップ方式とPLC方式をあわせて約8割となっており、携帯電話網の採用は1割に満たない。今後の予測値を見ても、引き続き無線マルチホップとPLCが主であり、携帯電話網は2015年でやっと1割を超える程度だとされている。


▼ 注1
正確には、Aclara Technologiesの親会社であるESCO TechnologiesがMetrum Technologiesの資産と研究開発センターを買収。なお買収額は非公開。
http://www.aclaratech.com/PressReleases/Metrum%20Acquisition%20Announcement%201-3-13.pdf

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