[プロダクト]

OpenADRをベースにしたAutoGrid社の「DROMS」とデマンドレスポンス・ビジネス戦略

2013/07/01
(月)
SmartGridニューズレター編集部

スマートグリッド環境で、電力の需要と供給の最適なバランスを制御する「デマンドレスポンス」(DR)に関するOpenADR(Automated Demand Response)の標準化が進展してきたところから、急速にビジネスが広がろうとしている。ここでは、米国の新進のベンチャー企業であるオートグリッドシステムズ(AutoGrid Systems、2011年設立。以下「AutoGrid」)が開発した「DROMS」を中心に、地域セールスマネージャのケリー・クルパタ(Kelly Krpata)氏にOpenADR社のビジネス戦略をお聞きした。

AutoGridのプロフィールと「DROMS」

米国カリフォルニア・パロアルトに設立(2011年)されたAutoGridは現在の従業員数が30名のスタートアップ企業である。同社は、膨大なビッグデータの解析や、電力エネルギー関連の需要側管理を行う、ソフトウェアプラットフォーム「DROMS」(ドゥロムス、Demand Response Optimization and Management System、デマンドレスポンス最適化・管理システム)を開発し、市場への提供を開始した。同社のシステムは、SEP 1.x/2.0のみならずOpenADRなどの標準に対応できることが優位点になっている。

この新しいDROMSは、既存の発電所の環境で、電力の需給をソフトウェアで管理することによって、新しく発電所を建設しなくても電力を生み出す「バーチャルプラント」(VPP:Virtual Power Plant、仮想発電所)の実現を目指している。

これは日本では、「ネガワット」(Nega Watt Power)とも言われている。ネガワットとは「負(Negative、ネガティブ)の電力(Watt、ワット)」(すなわち「省電力」)を意味する「NegaとWatt」の合成語である。これは、電力会社が需要家の協力を得て、デマンドレスポンス(DR)を使用して電力を節約することによって「節電された電力分」を発電したことと同等にみなす」考え方である注1

電力産業におけるビッグデータの例

〔1〕ビッグデータの内容

最初に、OpenADRをベースにした電力情報(ビッグデータ)の解析について述べるが、ここで、このビッグデータの内容をさらに具体的に見てみよう。図1の上部の表には、あるビルにおけるメーターの数と、メーターから送出される、

図1 電力産業におけるビッグデータの例

図1  電力産業におけるビッグデータの例

〔出所 AutoGridプレゼンテーション資料より、2013年5月14日〕

① 15分間隔のデータ量(1年分)

② 1分間隔のデータ量(1年分)

③ 1秒間隔のデータ量(1年分)

が示されている。ここで例えば、図1の上段の表に示すように、1万個のスマートメーターから、次のようなデータ量になる。

(1)15分間隔でデータを読み取る場合は、毎年32.61GB(ギガバイト)のデータ量となる。ここでのメーターのリードデータ(読み取りデータ)のサイズは、約91バイトであり、このデータに基づいて、計算をしている。

(2)1分間隔(15分間隔の15倍のデータ)では毎年その15倍の489GB(=32.61GB×15分)のデータ量となる。

(3)1秒間隔でデータを読み取る場合は、1分間のデータが489GBであるから、489GB×60秒=29,340GB、つまり29.34TB(テラバイト)となる。

このとき100万戸のスマートメーターから取得されるデータ量は、

11.2PB(=11.2ペタバイト=11.2×1015バイト)

と、1万個のスマートメーターのときの100倍(11.2PB÷114.6TB=11200×TB÷114.6TB≒98倍)の大容量のデータとなることがわかる。

〔2〕スタンフォード大学敷地内にあるY2E2ビルの場合

また、より具体的に、図1の下部に示すスタンフォード大学の敷地内にあるY2E2ビル注2の電力使用のデータの大きさの例を見てみよう。

図1に示すY2E2ビルでは、1年間に2600測定ポイントを「1分間隔」でデータの読み取りを行っているが、その1年間の総データ量は次の通りとなる。

124GB(=91B(実測値)×60分×24時間×365日×2600ポイント)

このY2E2ビルが仮に1000棟あり、かつ「1秒間隔」でデータを読み取るとなると、

7.4PB(=7.4ペタバイト=7.4×1015バイト=124GB×1,000棟×60秒)

となり、このデータ量は、図1の右下に示す全アメリカの図書館などのデータに匹敵する大きさの、ビッグデータとなる。


▼ 注1
10kW節電したら、10kWの発電所を建設したことと同等とみなす、という考え方である。

▼ 注2
Y2E2:Jerry Yang and Akiko Yamazaki Environment and Energy Building、スタンフォード大学の卒業生であるYahoo!の共同創業者であるジェリー・ヤン(Jerry Yang)氏とその妻(日系人)のAkiko Yamazaki氏の夫婦名が付いたビルで、2007年にスタンフォード大学キャンパスに建設された。環境・エネルギー関係の研究を行っている。

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