[特集]

ビッグデータ/クラウド時代のデータセンターの直流給電システム

― 第2世代へ向かうHVDC 12V方式と標準化の最新動向 ―
2013/12/01
(日)

NTTデータ先端技術株式会社は、本格的なビッグデータ/クラウド時代を迎えて、データセンターを効率の良い直流給電で運用できるようにするため、「HVDC注1 12V方式」を開発。すでに、日本初の直流給電方式でサービスの提供を介したさくらインターネット・石狩データセンターに導入され、いよいよ直流電力による給電方式が本格化しようとしている。「HVDC 12V 方式とは何か?」「どのような特徴をもっているのか?」。直流給電方式の第2世代に向かうHVDC 12V方式を見ながら、グーグルやマイクロソフト、フェースブックなどの動向や標準化動向についても解説する。なお、本記事は、NTTデータ先端技術株式会社 代表取締役 三宅 功氏への取材をもとにまとめたものである。

直流給電システム「HVDC 12V方式」開発の背景

NTTデータの子会社であるNTTデータ先端技術は、大規模かつミッションクリティカルなITシステム基盤をオープン系システムで構築するビジネスを展開している。

一方、図1に示すように、NTTデータにおけるHVDC(高圧直流電源)の実用化は2004年にNTTデータの子会社として設立されたNTTデータ・イーエックステクノにより開始された。同社は、NTTデータのファシリティビジネス分野で蓄積した電力系特許を生かし、省エネルギー機器の企画・開発をはじめとする環境・省エネルギービジネスを展開。

図1 NTTデータ先端技術におけるHDVC(高電圧直流給電)開発の歴史

図1 NTTデータ先端技術におけるHDVC(高電圧直流給電)開発の歴史

さらに、よりIT基盤システム構築ビジネスとのシナジーを図ることを目的に同社は、2009年には、NTTデータ先端技術に統合され、同時に、東京・三鷹にあるデータセンターにてHVDC実証試験を開始した。また、2011年にHVDC 12V方式の直流電源供給システムの開発をスタートさせ、実証実験などを経て2013年3月にサービスインした、日本初の直流給電による「さくらインターネット・石狩データセンター」にHVDC 12Vシステムが導入され、注目を集めている。

最近は、サーバやストレージ、ネットワークなどのオープン化が進んでいるため、例えば、昔のようにメインフレーム1社が、すべてプラットフォーム(基盤)を提供できる時代ではなくなってきている。したがって複数のルータやサーバ・ベンダ、すなわちマルチベンダの製品をすべて組み合わせて動作させなければならない。そのため、マルチベンダ環境で容易に構築できるプラットフォームの最適化という技術が非常に重要になってきた。

また、クラウドサービスの拡大やディザスタリカバリー注2の需要増加などを受け、IT基盤システムをデータセンターに集約する動きが急拡大している。これは、顧客が必要とするIT基盤システムを統合して集中管理することにより、オペレーションやエネルギーマネージメントを最適化することを狙ったものである。とくにディザスタリカバリーは2011年3月11日の東日本大震災以降、ビジネス継続性の観点より関心が高まっている。

ここでは、その主役となる、データセンターのエネルギーマネージメントの切り札になると考えらるHVDC 12Vシステムを中心に解説する。

3回の変換を1回の変換に削減し20%の節電を実現

〔1〕なぜHVDC 12V方式が

注目されるのか

まず、なぜ直流給電を実現するHVDC 12V方式が注目されるのか、そのメリットを整理しておこう。

HVDC 12Vとは、‘High-Voltage Direct Current’すなわち高電圧直流(340〜380V)によって、データセンターのサーバラック(サーバの格納棚)にサーバやストレージの動作電圧である12Vの直流を給電し、効率よく動作させる方式である。

そのメリットは、図2に示すように、

  1. メリット1:電力の変換回数の削減などによって20%程度の省エネが実現できること
  2. メリット2:停電時などに切り替えのない高信頼性のあるバッテリー接続の実現
  3. メリット3:感電・地絡対策によって安全性を確保
  4. メリット4:再生可能エネルギー(太陽光発電など)と親和性がよい

などの特徴を備えている。

図2 HVDCの4つのメリット

図2 HVDCの4つのメリット

〔2〕HVDC 12V方式の動作原理

なぜ直流が優れているのか、その動作原理を具体的に整理したのが図3である。

図3 データセンターの電力改革

図3 データセンターの電力改革

図3の上部は、従来からの一般的な交流(AC)主体のデータセンターの構成である。この構造は、左側から高圧の6000Vの商用AC電源が入ってくるが、次の整流器(Rectifier)で1回、UPS(非常用電源)部で直流に変換している。その理由は、バックアップ用の電源を確保するためにUPSの下に接続されたバッテリーに直流化して流し込んで充電するからである。このようにバッテリーに充電しながら運用しているが、その後、STS注3やPDU注4を通って、AC100VやAC200Vの交流に変換される。さらに、右側のサーバラックに送電され、そこでさらに交流-直流変換(AC-DC変換。DC12V)が行われている。本誌2013年11月号でも紹介したように、実際には図3の上部に示すように、

AC6000V➡①AC-DC変換(DC100V/200V)➡②DC-AC変換(AC100V/200V)

と2回の変換が行われている。さらに、ACラックでAC100V/200Vで受電した交流電力を、

③AC-DC変換(DC12V)

という3回目の変換(直流12Vに変換)を行い、サーバなどの装置の直前に配置するPOL(Point of Load、負荷端のコンバータ)から、CPUやメモリ、ハードディスク(HDD)などに直流電源(DC12V)が供給される。

このように、3回も変換していては冗長すぎて、変換のたびに電力の使用効率が下がってしまう。そこで図3の下部のように、NTTデータ先端技術が開発した高電圧直流給電(HVDC)システムを導入することによって、1回の変換で済むようになった。そのため、図3に示すように、従来システムが70〜80%の利用効率であったのに対して、10〜20%程度電力量を削減でき、新しいHVDCシステムでは90%まで電力の利用効率を向上させることができた。

使用電圧は、図3下部の整流器(直流変換)部で高圧のDC200〜400V、DC12VサーバラックセンターまではDC340V程度で送電される。このとき、図3下部の集中電力供給部でDC340VからDC12Vに降圧され、DC12Vサーバラックへ送電される。

高圧にするための配電用ケーブルは、電圧がDC340Vと高圧のためAC100V/200Vに比べてかなり細くでき、かつ変換回数が少なくなるので、電力の利用効率が高くなり、同時にコスト削減にもつながっている。

図4は、HVDCのユニット構成と各装置のベンダ名を示したものであり、基本的に、

  1. HVDCシステム(NTTデータファシリティーズ、日本無線、今後製造メーカーは追加)
  2. サーバラックシステム〔IBMのXECHNO Power(ゼクノパワー)〕

の2つのシステムで構成されている。なお、パススルーBOX(サーバの12V対応電源モジュール)と集中電源は村田製作所、バスバーシステム(サーバラック内12V配電システム)は篠原電機が納入している。

図4 HDVCのユニット構成と各装置のベンダ名

図4 HDVCのユニット構成と各装置のベンダ名


▼ 注1
HVDC:High-Voltage Direct Current、高電圧直流。

▼ 注2
ディザスタリカバリー:Disaster Recovery。災害などで被害を受けたシステムの復旧。

▼ 注3
STS:Static Transfer Switch、静止型切り替えスイッチ。

▼ 注4
PDU:Power Distribution Unit、サーバラックへの配電用電源コンセント。

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