[特集]

高速化する東京電力のスマートグリッド料金システム ―前編―

― 従来の35倍以上の処理速度で、2015年7月から稼働へ ―
2014/01/01
(水)

東京電力におけるスマートグリッドの構築に向けて、スマートメーターの納入業者、通信システム/運用管理システム業者が決定。いよいよ具体的なシステムの歴史的な構築が開始され、新しいサービスへ大きな期待が集まっている。ここでは、スマートメーターシステムを構成する「MDMS」(メーターデータ管理システム)と「CIS」(営業料金システム)の接続部位におけるバッチ処理(アプリケーション層)の高速化に向けた取り組みを解説する。高速化を実現したこの新しい「営業料金システム」は、スマートグリッドへの対応の1つとして「ユニケージ開発手法」を採用し、従来のJava 方式に比べコスト安でかつ35 倍もの驚異的な高速化を実現している。前編では、スマートメーターシステムの全体像と「ユニケージ開発手法」を中心に解説する。なお本記事は、東京電力の関連会社である(株)テプコシステムズ 電力システム本部 新サービス推進グループ マネージャ多田 弘樹氏と同営業システムグループ マネージャ 松尾 賢一氏への取材をもとにまとめたものである。

本格化する東京電力の「スマートメーターシステム」の構築

東京電力では、2013年5月からスマートグリッドの中核的技術の1つである「スマートメーターシステム」の構築を開始している。

このスマートメーターシステムの仕様策定や調達は、図1に示すように、

  • 領域①:スマートメーター計器製造(2014年度分:3社)
  • 領域②:通信システム構築(委託先:東芝)
  • 領域③:運用管理システム構築(MDMS、委託先:NTTデータ)

の3領域に分けて実施されており、2014年度分のスマートメーター(領域①)の調達分(入札対象品目:60A、数量:約114万台)については、GE富士電機メーター(株)、東光東芝メーターシステムズ(株)、三菱電機(株)の3社が2013年11月14日に決定。すでに2013年5月1日に決定している、領域②:通信システム(東芝)、領域③:運用管理システム(NTTデータ)とともに、業者の選定がすべて終わり、目下、スマートメーターシステムの構築が開始されているところである。

図1 スマートメーターシステムの全体像と今回の解説の対象箇所

図1 スマートメーターシステムの全体像と今回の解説の対象箇所

東京電力の場合、スマートメーターは2014年4月から一般家庭に導入されるが、スマートメーターシステムとしての本格的な稼働は、運用管理システム(MDMSシステム)が完成する2015年7月を目標としている。

今回、紹介する東京電力の「営業料金システム」(CIS)は、図1に示す領域①の各家庭のスマートメーターから領域③のMDMSに到着した一般家庭からの30分値注3のデータを、CISに取り込んで加工・処理する、電気料金計算の心臓部分の解説である。このCISは、東京電力の関連会社である(株)テプコシステムズ(表1)によって開発・構築・保守されている。

 

表1 株式会社テプコシステムズのプロフィール

ここではとくに、今後、導入・設置される予定の総計2,700万台のスマートメーターから収集される膨大なビッグデータ(30分値のデータ)を高速に処理する、CISの部分を中心に解説する。図1右にそれらを示す。

この東京電力(テプコシステムズ)が、一般家庭や企業の電気料金などのデータを運用・管理するCISは、大型コンピュータ(メインフレーム)上で、それらのデータを処理するために、大規模なバッチ処理注4方式が採用されている。

一方、分散処理型のサーバ系システムには仮想化など技術標準注5の適用が推進されているが、開発から長い時間が経過した現在の東京電力のCISは、メインフレームの電気契約マスター注6を用いての大規模なバッチ処理が、まだまだ多く存在している状況である。

ユニケージ開発手法による高速処理化と運用コストの削減

そこで、新しいスマートメーターシステムの導入を目前に控えた、テプコシステムズの

「CISのWeb化開発プロジェクト」では、従来のメインフレームではなく、UNIXサーバ上において、大量データのバッチ処理の高速化を実現するために、“ユニケージ開発手法”(2013年9月号参照)についての試行的な適用が実施された。

ユニケージ開発手法とは、UNIXベースのUNIXの機能を有効活用し、目的のシステムを短期間、かつ低コストで開発することが可能な開発手法である。この新しい開発手法を導入することによって、CISの大幅な処理スピードの向上や運用コストの削減などの合理化が可能となることが判明した。

前述したように、「ユニケージ開発手法」とは、UNIXの考え方に忠実なシステム開発手法であり、バッチ処理(一括処理)の考え方を基本にして、M2Mデータなどのビッグデータを高速に処理する方法である。UNIXでは、小さな道具(=コマンド:命令)を組み合わせてテキストファイルを順次加工する、という点が基本的な仕組みである。

この「ユニケージ開発手法」は、東京・西新橋にあるユニバーサル・シェル・プログラミング研究所(USP研究所注7)によって開発された、リアルタイムにビッグデータを処理するソフトウェアである。


▼ 注1
MDMS:Meter Data Management System、メーターデータ管理システム。一般家庭に設置されたスマートメーターから電力使用量の情報などを収集し管理するシステム。

▼ 注2
CIS:Customer Information System、顧客情報システム。顧客業務の効率化を実現する情報システム。東京電力では「営業料金システム」に相当する。

▼ 注3
30分値:刻々と変わる家庭等で使用した電力使用量を、電力メーター(例:スマートメーター)によって30分単位の指示数として計量した積算値。順方向(スマートメーターから出ていく)と逆方向(スマートメーターに入ってくる)を考えると、計測回数はその倍の96回/日となる。30分値は、経済産業省「スマートメーター制度検討会」で決定された。

▼ 注4
バッチ処理:顧客からの電力使用量の情報などのデータを一定期間収集し、それを一括して処理する方式。

▼ 注5
技術標準:東京電力のシステムで適用するIT技術(アーキテクチャ、製品パッケージ、開発言語など)の指針。

▼ 注6
電気契約マスター:メインフレームのデータベースにおいて、処理に必要なデータをまとめたファイルのこと。顧客情報や使用量、請求情報が、このファイルに格納される。

▼ 注7
USP:Universal Shell Programming研究所、2005年2月設立。http://www.usp-lab.com/information.html

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