[特別レポート]

「製造業」「エネルギー産業」から「スマートシティ」まで加速するIoT革命 ≪後編≫― IoTシステム(IIS)を構築する心臓部となるIIRAとは何か ―

2016/08/03
(水)
SmartGridニューズレター編集部

後編では、前編で紹介したIICが目指している、IIS(Industrial Internet System、インダストリアル・インターネット・システム)を構築するうえで、キー(心臓部)となるIIRA(Industrial Internet Reference Architecture、インダストリアル・インターネット参照アーキテクチャ)を基本にして、どのようにシステムを実現するかについて解説する。
IIRAとは何か、IoTシステムと企業情報システムの違いは何か。IIRAの具体的な事例として、ロボットの予防保全を挙げ、IIS開発におけるフェージング・アプローチ(後述)などについて解説する。
なお、本レポートは、日本IBM 技術理事 グローバル・エレクトロニクス・インダストリー CTO 山本 宏(やまもと ひろし)氏による講演、「IIRAの実際のIoTソリューションへの適合性」注1におけるIoTシステムの開発・構築を中心にレポートする。

IISを構築する基本となるIIRA

〔1〕IoTシステムへの適用と3つの側面

 IIRAを製造現場のIoTソリューションに適用する際、どのようなメリットがあるのだろうか。ケーススタディを挙げて、次の3つの側面を中心に紹介する。

(1)IoTデザイン・チャレンジ

(2)IIRAハイライト

(3)IIRAのIoTシステムへの適合性

 第1に、IoTシステムは、これまで企業が経験してきた企業情報処理システムとは異なり、多くのセンサーや製造装置などを相互接続し運用するシステムであるため、システムを設計するうえで新たな挑戦的な取り組み(デザイン・チャレンジ)が必要となる。

 第2に、IICで策定された参照アーキテクチャ「IIRA」注2の注目すべき点(ハイライト)はどこなのか。この参照アーキテクチャ(IIRA)は、IISを構築するうえで、その仕様書だけでは不十分なため、目的とするシステムを構築するひな形(テストベッド)を作るためのガイドラインである。

 第3に、IIRAを実際のIoTシステム(IIS)にどのように適合させるかが重要である。

〔2〕IoTはCPSによって実現される

 現在、広く普及しているIoTとは、一般に「モノのインターネット」と訳されることがあるが、最近では、広く「モノ(Things)」だけでなく「ヒト(People)」や「サービス(Service)」なども含めて語られるようになり、IoT(後述するIoPやIoSを含む)は、CPS(Cyber Physical System、サイバー・フィジカル・システム注3)によって実現されるソリューションと言われるようになってきた。

〔3〕Industrie 4.0とIICのCPS

 次に、このCPSの具体的な例を見てみる。

 図1は、ドイツの「Industrie 4.0」と米国の「IIC」のCPSのコンセプトを比較したものである。

図1 IoTとCPSの関係(左図はIndustrie 4.0の場合、右図はIICの場合)

図1 IoTとCPSの関係(左図はIndustrie 4.0の場合、右図はIICの場合)

出所 図左 akatech他:“Recommndations for implementing the Strategic Initiative Industrie 4.0” 図右 「Framework for Cyber-Physical Systems Release 1.0」May 2016、https://s3.amazonaws.com/nist-sgcps/cpspwg/files/pwgglobal/CPS_PWG_Framework_for_Cyber_Physical_Systems_Release_1_0Final.pdf

 図1の左は、ドイツ科学技術アカデミー(acatech、アカテック注4)によって策定されたCPSプラットフォームの構成図である注5

 Industrie 4.0では、CPS=IoT+IoP+IoSというように、3つを統合して実現するプラットフォーム(基盤)であると解説されている。

 ここで重要なことは、CPSプラットフォームとは、IoTやIoP、IoSが個々に動作するのではなく、これらが統合され、コラボレーション(協調)してCPSを実現していることである。

〔4〕NISTのCPS

 また、図1右に示すCPS=Loopback System(ループバック・システム、自分が発した信号が自分自身に戻ってくるシステム)は、米国のNIST(米国国立標準技術研究所)のCPS PWG(CPS Public Working Group)が策定している、CPSリリース1.0におけるCPSのコンセプト・モデルである注6

 図1の右を解説すると次のようになる。

(1)基本となるデバイス(device)では、サイバー部分とフィジカル部分が連携して、ループバック(物理的状態 ⇒分析 ⇒決定 ⇒アクション)をつくる

(2)デバイス(device)とシステム(system)の相互連携や、デバイスと人(human)の相互連携が行われる

(3)デバイスとシステム・オブ・システムとの相互連携が行われる

 ここで、ループバックを実現するうえで、双方向の矢印が重要になるが、これは人間でいうと血管を流れる血液に相当する。CPSの場合は、血液ではなくデータが流れるが、そのようなデータを供給しているものがIoTであり、IoPであり、あるいはIoSである、というように考えると非常にわかりやすい。


▼ 注1
‘The Value of the Industrial Internet Reference Architecture (IIRA)’, Hirosh Yamamoto, IBM

▼ 注2
IIRA:Industrial Internet Reference Architecture Version 1.7、2015年6月4日、http://www.iiconsortium.org/IIRA-1-7-ajs.pdf

▼ 注3
CPSとは、①実際に設置・導入されたネットワークなどに接続された多様なセンサーや製造装置など(フィジカル空間)からデータを収集し、②インターネット上のサイバー空間(クラウド)でビッグデータ処理やAI技術などを駆使して分析や情報化を行い、産業システム(IIS)の生産性の向上や新しいビジネス・モデルを創出していく、システムのことである。

▼ 注4
acatech:National Academyof Science and Engineering、ドイツ科学技術アカデミー。ドイツの科学技術界の利益を代表する独立した非営利団体として2008年に発足

▼ 注5
akatech他、“Recommndations for implementing the Strategic Initiative Industrie 4.0”の24ページ、Figure4、2013年4月

▼ 注6
「Framework for Cyber-Physical Systems Release 1.0」、May 2016

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