[特別レポート]

山・海・街・空の制覇を目指す通信品質を重視したソニーのセキュアな「LPWA」

― なぜ、片方向通信にこだわるのか ―
2017/07/27
(木)
インプレスSmartGridニューズレター編集部

IoTの市場が活発化し、IoT専用のネットワークといわれる「LPWA」の商用サービスがスタートしている。すでに日本では、SIGFOX、LoRaWAN、NB-IoT、eMTCなどのLPWAが登場しているが、後発ながらソニーセミコンダクタソリューションズ株式会社は、通信品質を重視したセキュアなLPWAを開発し、市場へ参入する。ここでは、ソニーのLPWAはどのような機能や特長をもち、どのようなユースケースをねらっているのか。なぜ、片方向通信にこだわっているのか。実証実験の概要も含めて紹介する。
本記事は、ソニーセミコンダクタソリューション株式会社 IoTソリューション事業部 製品3部 主任技師 北園 真一(きたぞの しんいち)氏と、同社コネクテッドサービス事業室 室長 井田 亮太(いだ りょうた)氏への取材をもとにまとめたものである。

LPWAで広がるIoTの活用シーン

 IoT市場の急速な拡大を背景に、ソニーセミコンダクタソリューションズ(表1)は、ソニーのデジタル信号処理技術とテレビのチューナの受信技術、低消費電力のGPS注1を応用して、新しく大量なデバイスを相互接続するIoT向けのLPWA(Low Power Wide Area、低消費省電力広域無線ネットワーク)を開発し、その実証実験を開始した。

表1 ソニーセミコンダクタソリューション株式会社のプロフィール

表1 ソニーセミコンダクタソリューション株式会社のプロフィール

出所 https://www.sony.co.jp/SonyInfo/News/Press/201704/17-0410/

 図1に示すように、LPWAがカバーするIoTの市場は、2020年には500億個のデバイスが接続されるとの予測もあり、そのすそ野が広い。すでに本誌でも紹介してきたように、

(1)920MHz帯のアンライセンスバンド(免許不要帯)を使用するSIGFOXやLoRaWAN

(2)LTE帯のライセンスバンド(免許必要帯)を使用する3GPP標準のeMTC注2やNB-IoT注3

などのLPWAが開発され、SIGFOXやLoRaWANなどはすでに市場で商用サービスが開始され始めている注4

図1 LPWAで広がるIoTの活用シーン

図1 LPWAで広がるIoTの活用シーン

出所 「ソニーが提案する新たなLPWA」、2016年6月

ソニーのLPWAの特長とユースケース

〔1〕ソニーのLPWAの4つの特長

 ソニーのLPWAは、920MHz帯のアンライセンスバンドを使用し、送信電力20mWによって、図2に示す4つの特長を備えた通信が可能としている。

図2 ソニーのLPWAの特徴

図2 ソニーのLPWAの特徴

出所 「ソニーが提案する新たなLPWA」、2016年6月

(1)長距離伝送

 1つのLPWA受信基地局で広範囲な通信をカバーすることが可能であり、伝送実験の結果では、最長274㎞まで離れた受信端末と通信が可能であった。これは、見通しで富士山の5合目から奈良県までの通信が可能となる通信距離である。

(2)移動性能

 時速100㎞以上の高速移動中でも利用可能であり、具体的な実証実験でも、時速250㎞の新幹線の窓に設置した端末と通信基地局の間の実証実験でも通信が可能であった。

(3)安定通信

 電波のノイズの多い都市部(街)でも、効率的な誤り訂正注5と波形合成の技術によって高感度な通信ができると同時に、他の電波からの干渉に強い通信を実現可能となっている。

 波形合成とは、端末から受信基地局に送信データを最大12回、繰り返し送り、受信基地局側でそれらを重ねて受信し、その信号を分析して使用する。ユースケースによって異なるが、再送する最適な回数は、10回前後が想定されている(注:SIGFOXの場合は、3回送信してどれか1個受信できればOKという方式)。

(4)低消費電力

 送信端末(写真1「トラッカー」)は小型化されているため、その消費電力は、コイン電池1個で長時間動作する。前述した低消費電力のGPSを内蔵して、1日1回位置データを送信する場合で、端末の動作が10年間可能である。

写真1 ソニーのLPWAの送信端末「トラッカー」の回路構成

写真1 ソニーのLPWAの送信端末「トラッカー」の回路構成

出所 編集部撮影

 LPWA端末(トラッカー)は、PoCキットの1つとして、2017年8月後半から提供される予定となっている(PoC:Proof of Concept、概念実証)。

〔2〕ソニーのLPWAの「山・海・街・空」のユースケース

 表2に、ソニーのLPWAの代表的な4分野のユースケースとして、①通信距離の優位性を活かしたスキー場のケースをはじめ、②海上見守りのケース、③都心部での電波の干渉性に強い特性を活かしたライドシェア(自転車)のケース、④移動特性を活かしたドローンのケースを示している。

表2 ソニーのLPWAの代表的なユースケースの例

表2 ソニーのLPWAの代表的なユースケースの例

出所 http://www.sony-semicon.co.jp/products_ja/lpwa/index.html

 図3には、(1)の位置情報送信部に「ドローンのケース」を示しているが、この(1)の部分にスキー場や海上見守り、ライドシェアなどのユースケースをいろいろ変えても、(1)以降の「(2)データ転送、(3)データ蓄積・処理、(4)情報取得・分析は共通化して使用できることも大きな特徴となっている。

図3 ユースケース:ドローンのケース

図3 ユースケース:ドローンのケース

出所 「ソニーが提案する新たなLPWA」、2016年6月

 例えば、海上などにおいては、漁船の台数や個人用のボートの見守り、マリーナの船の出入り管理、あるいは海上で事故が発生した場合にライフジャケットにトラッカーを組み込んでおけば、救助もしやすくなる。このような分野では、1つのセル範囲では数㎞程度しか通信ができない3GPP標準のLPWA(eMTC、NB-IoT)に比べて、広範囲な通信距離が可能となっている。


▼ 注1
GPS:Global Positioning System、全地球無線測位システム。カーナビや携帯電話、スマホなどの端末・機器に搭載して、位置を測定するシステム。位置情報システムともいわれる。

▼ 注2
eMTC:enhanced MTC(enhanced Machine Type Communication)、拡張MTC(移動通信向け仕様)。3GPP標準のMTCは、M2Mとほぼ同義語として使用されている。

▼ 注3
NB-IoT:Narrowband-IoT、狭帯域IoT(固定通信向け仕様)。

▼ 注4
本誌2016年11月号、12月号
(LPWAの全貌:前編と後編)および2017年1月号(LoRaWAN)、2月号(SIGFOX)を参照してください。

▼ 注5
誤り訂正:通信データに、誤り(エラー)が発生した場合に、それを検出し訂正する技術。ソニーでは、誤り訂正符号方式として、最も効率的なLDPC(Low Density Parity Check)符号(低密度パリティ検査符号)を採用している。

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