[特集]

対談:NGNとFMCを語る(4):NGNは今後どのように展開するのか?

2006/09/05
(火)
SmartGridニューズレター編集部

NGN(次世代ネットワーク)・FMC時代を迎えた今日、その現状と課題について、東京大学 大学院 情報理工学系研究科 江﨑浩教授と、KDDI(株)執行役員 技術渉外室長 冲中秀夫氏に対談を行っていただきました。これまでの、『<テーマ1> NGNとインターネット はどこが違うのか?』、『<テーマ2> NGNのIMSはオープンなのか?』、『<テーマ3> NGNはなぜオールIP化するのか?』につづいて、今回(最終回)は、『<テーマ4> NGNは今後どのように展開するのか?についてお話しいただきました。(文中、敬称略)
司会 (株)インプレスR&D 標準技術編集部

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東京大学 教授 江﨑 浩 VS KDDI 執行役員 冲中秀夫

期待される3GPP、3GPP2の活躍

—NGNの標準化にはいろいろな組織がかかわっていますが、どのような相関関係なのでしょうか?

 前回の最後に、携帯電話系の標準化組織である3GPPと3GPP2におけるオールIP化の考え方で、3GPPと3GPP2がアーキテクチャを考え、詳細なプロトコルの実装はIETFが行うというお話がありました。

したがって、NGNの標準化を推進するITU-Tも、IPの部分について、3GPPと3GPP2のケースと同じように、IETFのRFCをそのままリファレンス(参照)すれば効率的なように思いますし、それが一つの解のように思います。ここでまた、NGN用に新しいプロトコルを作るとなると、オープン性が実現できなくなってしまう危惧を感じますね。

冲中 そうですね。携帯電話システムについては、それが出来たのですね。例えば、3GPPなどが作っている無線系のインタフェースのスペック(仕様)について、ITU-Rは何をするかというと、それらの仕様をテーブルに記載するだけです。要するにこの規格は3GPPなり、3GPP2なりの仕様を見なさいと、URLを参照しているのです。

このように、個々のスペックを参照するURLなどを集め、どこに見に行けばいいのかを明記したドキュメントを作り、それを勧告にしているのです。これは、ITU-RのWP8F(Working Party 8F。IMT-2000およびその後継システムなどを担当する作業部会)というところが担当しています。

 ですから、新しく台頭している元気のよいマーケットは、3GPP、3GPP2のようなフットワークのよい組織が、スピーディに仕様をつくる方が適しているのでしょうね。

対談風景

冲中 このような仕組みができるまで時間がかかりましたが、ITU-Rと3GPP、3GPP2の関係が確立し、仕様なり勧告なりが早くできるようになりました。3GPP、3GPP2から見ると、ITU-Rとの関係があれば開発途上国などに情報を流す場合に大変助かるのです。

また、3GPP、3GPP2のように同好の士が集まってフォーラムのようなものを作り、早く標準化してしまい、それを世界に普及させていく、日本もこのようなことにもう少し力を注いだほうがいいのではないかと思っています。

 おっしゃるとおりです。複雑な新しいモノをつくり始めると、いろいろな要素が必要になるため、自然に、途中から「全部を作ることができないこと」が理解できるようになります。そうすると他に協力を求めて作ってもらうということを考え出すのですよね。

ですから、さっきおっしゃった、3GPPがコア・スペック(仕様)をつくって、あとは全部外注してしまう、というアーキテクチャにできると、これはIPそのもの、すなわちオープン・システムそのものですね。そういう意味では、仕様作りはベンダ(メーカー)主導でやったほうがいいのかもしれません。

冲中 実はNGNのサービス制御機能(正式にはNGNサービス・ストラタム)などの標準化を進めているTISPAN(タイスパン、欄外の用語解説参照)で、一時期、3GPPのような組織として、「TISPAN PP」のような組織を作ろうかという話があったんですよ。うまくいきませんでしたが。

 これまでの流れからすると、技術の標準化を進めていく当事者としては、多分キャリア(電気通信事業者)ではなくて、実際に物を作るベンダ(メーカー)のほうが適しているのではないかと思いますね。ただ、ベンダに任せると、自分の作ったものしか売りたがらなくなるから、そこのガヴァナンス(統治)を抑えるのはやっぱりキャリアなのかなと思います。

キャリアというのは、複数のベンダ、すなわちマルチベンダから製品が提供されないとポートフォリオ(リスク・ヘッジという意味で)上とっても危険ですよね。そういう意味で、キャリアが、グローバル・スタンダードを強く推進してくれるのであれば、これはとても重要なことですね。

グローバルという意味は、必ずしも全部同じでなくてもよいということです。つまり、グローバルに1個だけの標準である必要はなくて、マルチプルでもいい、ただし、それがグローバルだということです。

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