[特集]

対談:NGNリリース1と技術的チャレンジを語る(1):標準化されたNGNリリース1の全体像と特徴

2007/02/21
(水)
SmartGridニューズレター編集部

NGNに関するITU-T勧告であるNGNリリース1が制定され、さらに世界に先駆けて、NTTで2006年12月から本格的なNGNのフィールド・トライアル(実証実験)が開始されるなど、NGNは大きな注目を集めています。そこで、NGNの標準化とその技術的チャレンジについて、東京大学大学院 工学系研究科 電子工学専攻教授 森川博之先生と、NTTサービスインテグレーション基盤研究所 主席研究員 村上 龍郎氏に対談していただきました。今回は標準化されたNGNリリース1の全体像とその特徴を中心に語っていただきました。森川博之先生は、コンピュータ・ネットワーク,無線ネットワーク,フォトニック・インターネットなどの国際的な研究活動を展開され、第一線でご活躍中です。村上龍郎氏は、通信ソフトウェアの研究をはじめネットワーク・アーキテクチャの検討からNGN関連の国際的な標準化にご活躍中です。(文中 敬称略、司会:インプレスR&D 標準技術編集部)

森川博之 vs 村上龍郎

NGNの見方とNGNリリース1に関する3つの意義

—NGN(Next Generation Network)という次世代ネットワークが大きな注目を集めていますが、どのようにとらえられていますか

森川 NGNには、いろいろな見方があると思いますが、インターネットと何が違うのかというと、インターネットよりも安全・安心なIPベースのネットワークではないかと思います。両者の技術的な違いは、NGNの通信事業者(キャリア)が、その利用者が本人かどうかなどを確認する「認証」をしっかりと責任をもって行い、ユーザーに安心なサービスを提供するところと思っています。インターネット対NGNというような対峙した見方もありますが、そうではなくて、インターネットにそのような機能を追加したものがNGNだと思います。

—では、村上さんはどんな感じでとらえていますか

村上 私はキャリアに所属しているので、NGNが今日のように有名になる前から、ずっとNGNに取り組んできました。キャリア側から見ますと、私たちのビジネスの一面が設備産業ですから、設備面から見ますと、NGNはネットワークの新しいアーキテクチャだと思います。その中身は何かというと、統合ネットワークのアーキテクチャであるということです。これまでキャリアはいろいろなネットワーク(例:電話網、データ網、移動網など)を提供してきましたが、NGNは、それらをIP(インターネット・プロトコル)をベースにして統合したネットワークのアーキテクチャであること、これが一番大きなポイントかなと思っています。

—そういう背景の中で、昨年(2006年7月~10月)、ITU-TでNGNリリース1という勧告(標準)ができたわけですけが、これは業界にどのような影響を与えているのでしょうか

森川博之氏

森川 NGNリリース1は、電話のエミュレーションやシミュレーション(従来の電話サービスと同様なサービス)が当面のメインのサービスとなっていますので、サービスとしては、面白みに欠けると思っています(NGNでは、正式には「PSTN/ISDNエミュレーション」「PSTN/ISDNシミュレーション」という。※1、※2)。ただ、NGNのリリース1をみますと、NGNアーキテクチャの基本になっている、トランスポート・ストラタムとサービス・ストラタムという大きな考え方が出てきていることに注目しています。

トランスポート・ストラタムというのは、NGNの中で主にIPパケットを転送する部分で、サービス・ストラタムというのは、例えば提供するIP電話サービスやオンデマンド型VPNサービスなどを制御する部分です。このことは、キャリア側から見ると、NGN上で提供するビジネスが、プラットフォーム的なビジネスを指向しつつあるというのが、実は大きなインパクトになっているのではないかと思っています。

—プラットフォームがインパクトになりつつあるというのは、どういうことでしょうか

森川 これまではキャリアでないとできなかったサービスを、周辺機器やソフトウェアを作っているサード・パーティまでが、キャリアのNGNの機能(通信設備:プラットフォーム)を使って、新しいサービスが提供できるようになるということです。例えば、プリンター・メーカーとかカメラ・メーカーなどのように、今までキャリアのネットワークを使用して、しかもそれをコントロールしてサービスを提供するというようなことを、考えてもいなかったような業界が、ネットワーク・ビジネスに参入できるようになるということです。これはNGNの非常に大きなインパクトだと思います。

-村上さん、NGNリリース1についてどのようにとらえていますか

村上 標準化という観点から言いますと、基本的にはまだNGNリリース1は全部完成してはいないのです。しかし、リリース1の意義は、大きく3つぐらいあると思います。まず1つ目は、アーキテクチャ(ネットワークの基本構成)です。リリース1は、ネットワークのアーキテクチャをしっかりと確立しています。個々の技術的な要素についてはまだすべて確立していませんが、アーキテクチャからしっかり検討を加えたところが大きな意義をもっています。これは、今までやってきたネットワークを全面的に見直そうという、ある意味ではエボリューション(進化、革新)といも言えるものです。

2つ目は、これは中身の話ではありませんが、NGNという話は、1990年代の終わりぐらいからありましたが、ここ2~3年の間に、欧州も米国も、それからアジアも含めてみんなで取り組みを始めたことです。要するに、表1に示すように、世界中でグローバルにNGNの取り組みを開始していること、これが非常に意義あることなのです。

表1 世界主要キャリアのNGNの取り組み状況
表1 世界主要キャリアのNGNの取り組み状況(クリックで拡大)

3つ目は、森川先生がおっしゃったように、IPベースであることです。先ほど、森川先生からサービス・ストラタムとか、トランスポート・ストラタムというお話がありましたが、NGNはIPベースのネットワークなのですが、インターネットのようにIPのサービスをそのまま提供するということではなく、今までのキャリアのネットワークのマルチメディアのサービスをIPを使って提供するという話なのです。この場合、NGNのサービス・ストラタムが重要な役割をしています。例えば、IMS(IP Multimedia Subsystem)は、サービス・ストラタムの重要な要素と言われていますが、この技術が一番注目されていると思っています。

IMSというのは、サービスそのものを全部提供するわけではありません。IMS自体は、セッション(接続)の制御を行う制御機能であり、これとは別にアプリケーション機能があります。先ほど森川先生がおっしゃったことに近いのですけど、NGNはアプリケーションまで含めて、何でもかんでもすべてキャリア側でやる、というアーキテクチャにはなっていないのです。しかし、サービス・ストラタムという言い方が、キャリア側で、すべてのサービスの提供までやってしまうような印象を与えているのかなと思います。

森川 そこが誤解を生むということですか。

村上 そうですね。サービス・ストラタムの「サービス」というのは、キャリア側から見るとネットワーク・サービスのことを言っているのですが、ネットワーク・サービスとアプリケーションのサービスとが混同されてしまうところがありますね。インターネットのよいところとして、いろいろなアプリケーションがインターネット上でオープンに提供できるという点があります。

NGNもインターネットと同じような機能をもっています。すなわち、NGNのアーキテクチャの中に、サービス・ストラタムが位置づけられて、これが、これまでいろいろなネットワークで提供されてきたネットワーク・サービスを統合して提供することができるというのが、大きな特徴なのです。しかし、それはアプリケーションも全部含めてというわけではなくて、森川先生がおっしゃったとおり、アプリケーションに対しては、いろいろな可能性(サードパーティの参入の可能性など)を残しているというのも、今回のNGNの標準化の特徴なのです。

用語解説

※1 PSTN/ISDNエミュレーション
既存の電話網(PSTN/ISDN)とNGNのサービスの互換性を図る方法。すなわち、NGNになっても、自動的に従来の電話機をそのまま利用できるサービス

※2 PSTN/ISDNシミュレーション
NGNで既存の電話サービスを模擬(既存の電話の機能を模倣して実現すること)する方法。したがって、従来の電話機はIPのインタフェースをもつアダプタを介して接続し、サービスを受けることになる。

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