[スペシャルインタビュー]

富士通のNGN戦略を聞く(1):「使うビジネス」と「作るビジネス」で展開するソリューション

2007/08/01
(水)
SmartGridニューズレター編集部

いよいよ実用化のフェーズを迎えたNGNは、世界の主要各国でもNGNサービスの開始やNGN導入に向けたフィールドテスト(実証試験)が行われています。日本でも2007年度中にNGNの商用サービスが予定されていることもあり、NGN関連の製品発表が相次いでいます。そこで、情報通信分野において国際的に先進的な企業のひとつであり、世界初のNGN商用サービスを開始した英国のBTへNGN製品を納入したり、意欲的にNGN関連の製品発表を行っている富士通の、経営執行役上席常務である弓場 英明氏に、同社のNGN製品戦略について語っていただきました。今回は、富士通のNGNに対する考え方や、NGNを「使うビジネス」、「作るビジネス」の両面を中心にお聞きしました(本文中:敬称略)。
聞き手:インプレスR&D 標準技術編集部 / ランドッグ・オーグ 平野正喜

富士通のNGN製品戦略を聞く(1)

≪1≫富士通の次世代ネットワーク(NGN)に対する考え方

■ NGNに関するハードウェアやソフトウェア、サービスのそれぞれにおいて富士通の取り組みが次々と発表されています。まず、富士通のNGNに対する考え方からお聞かせください。

弓場 英明氏

弓場 最初に、富士通のNGN(次世代ネットワーク)に関する大局的な考え方からお話しましょう。富士通ではネットワーク・ビジネスには、「ネットワークを作るビジネス」と「ネットワークを使うビジネス」があると考えています。NGNに関して、よく「インフラ・システムはどういうものがありますか」とか、「どのような製品がありますか」というご質問をいただきますが、これは通信サービス基盤や、通信インフラのような「ネットワークを作るビジネス」に該当する部分であり、もちろん私どもにとっては大きな柱の一つです。

しかし、富士通はNGNを「使うビジネス」とすることに対して、「作るビジネス」と同等かそれ以上に力を入れていきたいと思っています。富士通そのものは、通信インフラを提供する企業としてよく知られていますが、ソリューション、つまり通信インフラの上でいろいろなアプリケーションによるサービスを提供することにも強みを持っている会社だと思います。このような背景から、私たちは、NGNを使いこなす側に重点をおいた「使うビジネス」に大きく貢献していきたいと考えています(図1)。

図1:富士通の取り組み:ネットワークを使うビジネスと作るビジネス

図1:富士通の取り組み:ネットワークを使うビジネスと作るビジネス(クリックで拡大)

■ 「ネットワークを使うビジネス」には、具体的にはどのようなことが含まれるのですか?

弓場 富士通のネットワーク・ビジネスの舞台を「ネットワールド」とすると、それは「人・モノ・金・情報」の流れをもつ「リアルワールド」で実際にネットワークを活用するユーザーに対し、ネットワーク・サービスやユビキタス端末、コンテンツ、あるいは業務アプリケーション・サービスなどを提供することです。 具体的には、ネットワーク・サービスについては、まず、NGNを使ってQoS(サービス品質)を大事にした新しい使い方を提案していきます。また、ユビキタス端末については、現在のパソコンやケータイなどを、よりNGNを意識したものに進化させていく必要があります。さらに、いろいろなコンテンツや業務アプリケーション・サービスの分野において、ユーザーからの多種多様なニーズに対して、豊富なソリューションを花開かせようというわけです。

■ それでは、富士通のNGNビジネスの取り組みにおいて、対象となるサービスや製品を挙げるとどのようなものになりますか?

弓場 これも「使うビジネス」と「作るビジネス」に分けて説明しましょう。「使うビジネス」としては、まず各業種向けのソリューション・SI(システム・インテグレーション)があります。これを通して、企業の新しいビジネス戦略の立案をはじめ、企業の生産性を向上させることに至るまで多くの場面で、NGNを活用するメリットを発揮できるようになります。さらに、企業のネットワーク・インフラを作るときに、当社が主要キャリア(NTT、KDDI、ソフトバンクなど)の回線を取りまとめ、お客様の要望する機能を付加して提供するサービス「FENICS」(フェニックス、後述)や、アウトソーシング・サービス、ユビキタス端末なども「使うビジネス」の例です。こう考えますと、実際にNGNを「使うビジネス」としては、非常にたくさんの姿があることがわかっていただけると思います。

これに対して、ある意味では「狭義のNGN」ともいえますが、「作るビジネス」としては、通信インフラを構築するための各種ネットワーク製品群があります。例えば、情報(パケット)を転送する中核的な役割を果たす「コア・トランスポート系」である光伝送装置に加えて、NGNプラットフォーム・システム、2009年に実用化予定の高速無線通信「スーパー3G(Super3G)」に対応する携帯電話基地局装置やWiMAXなどの無線アクセス系、ADSLやCATV、光アクセス(FTTH)などの有線アクセス系があります。また、キャリア(通信事業者)向けのルータやスイッチなどの製品もあります。

≪2≫NGNを「使うビジネス」と富士通の強み

■ 富士通が「使うビジネス」に力を入れる理由は何でしょうか?

弓場 英明氏

弓場 その理由の一つとしてICT(インフォメーション&コミュニケーション・テクノロジー、情報通信技術)利活用の多様化があります。現在、ナローバンド(狭帯域:伝送速度が遅い)の固定網に始まって、ブロードバンド(広帯域:伝送速度が速い)によるインターネットや、モバイル・ブロードバンドが普及しはじめ、ユビキタス社会が実現されつつあります。このような環境のもとにNGNを展開していくうえでは、私どもの「作るビジネス」以上に「使うビジネス」領域で、お客様と一緒にビジネスを広げていくことができるのではないかと期待しているからです。

つまり、「ネットワールド」は「リアルワールド」の「写像」(鏡に映し出すような関係)であり、人・モノ・金・情報の新しい流れ(リアルワールド)がネットワークの新たな利用の可能性を広げつつあるということです(ネットワールド)。この「写像」と呼べる範囲が広がっていく中で、ICTの価値は、新たなビジネスの流れを作ることになってきていますので、ここに力を入れていく方針です。

■ それでは、「使うビジネス」について、富士通では具体的にどのような取り組みをされているのでしょうか。

弓場 一つは、富士通のソリューション・SIの力を活かす「利活用現場からの改革」です。私たちはこれを「フィールド・イノベーション」と呼んでいます。個人、企業、社会活動の新しい流れを作る役割を担うもので、これは必ずオープンでなければならないと思っています。また、この「フィールド・イノベーション」はネットワークの進化に対応するもので、2006年12月からスタートしたNTTによるNGNフィールドトライアル(実証実験)への富士通の参加もここに含まれます。

■ NTTによるNGNフィールドトライアルには、具体的にどのような内容で参加されているのでしょうか。

弓場 例えば、すでに市場に提供しているWebビデオ会議の「JoinMeeting」(販売価格:月額1万4000円から)というシステムを展示・デモしています(図2)。このトライアルでは、NGNの特徴の中でも特にQoS機能との連係動作に注目しています。「JoinMeeting」は単なるWebビデオ会議ではなく、多地点(いろいろな場所)との通信における制御やインタフェースにおいて、富士通ならではの工夫が盛り込まれています。例えば、モバイル環境からでも会議に参加できるような、すなわちFMC(Fixed Mobile Convergence、固定系と移動系の統合)を実現しつつ、参加人数も500人という非常に大きな会議まで可能となっています。

図2:Webビデオ会議:JoinMeetingの例

図2:Webビデオ会議:JoinMeetingの例(クリックで拡大)

■ NGNに関してはフィールドトライアルへの参加に加えて、「SaaSプラットフォーム」と「FENICS II」を発表(2007年6月)されていますが、これらはどういう位置づけなのですか?

弓場 私どもが長年経験してきた企業向けのネットワーク・サービスには、NGNを活用できるソリューションが多々あります。それらは、現在、企業の専用線のサービス網を用いていろいろ稼働しているシステムをNGNに乗せかえることができます。ただ、この場合、QoSを保証するようなNGNの利点を活かすには、新しいインタフェースが必要になります。

しかし、このインタフェースを、各企業のシステムごとに個別に用意していたのでは大変です。各企業では、旧来からさまざまなアプリケーションのプログラムがいろいろなサーバやシステム上で動いているからです。そこで、私どもはこれらがNGNと接続できるようなインタフェース群を用意しましょうということで、サービス・プラットフォームの提供を進めています。このビジネスを、利用者をつなぐサービス・プラットフォームとして提供するのが「SaaS(※1)プラットフォーム」と「FENICS II(※2)」です(図3)。

「SaaSプラットフォーム」は、認証・課金・検索などのプログラム・インタフェースの集合であり、産業、金融、公共、医療など多くの分野に対応します。この下に位置するのが、マルチメディア・ネットワーク・サービスを提供する「FENICS II」で、オフィス・ワーカー、モバイル・ワーカー、コンシューマ、海外利用者といった多様化するお客様の利用接点に着目し、ユビキタス端末をサポートします。また、マルチキャリア環境でコア・ネットワークを意識せずに、ネットワーク・サービスをお客様に提供する役割も担うものです。

図3:富士通のネットワーク・サービス「FENICS II」と「SaaSプラットフォーム」

図3:富士通のネットワーク・サービス「FENICS II」と「SaaSプラットフォーム」 (クリックで拡大)

※1  SaaS:サーズ。Software as a Service。ユーザーに対して、ネットワークを通してアプリケーション・ソフトを必要に応じて提供する仕組みのことである。このSaaSによって、ユーザーはパソコンなどの端末にアプリケーション・ソフトがインストールされていない場合でも、ネットワーク経由で必要に応じてソフトウェアを利用できるようになる。

※2  FENICS:Fujitsu ENhanced Information and Communication Services。 富士通が提供する企業向けネットワーク・サービスの総称。富士通は、電気通信事業法改正が行われた1985年に、ネットワーク・サービス事業を「FENICS」というブランド名で開始した。現在(2007年6月時点)累計5万社以上のユーザーが利用している。
FENICSⅡ:FENICSを拡張し、企業の専用ネットワーク網(イントラネット)に加え、ワールドワイドで広く用いられているインターネットや、今後普及が始まる次世代ネットワーク(NGN)を富士通がワンストップで提供する、新しいマルチキャリア、マルチメディア・ネットワーク・サービスのこと(2007年6月から提供開始)。

≪3≫富士通のNGNを「作るビジネス」は世界が舞台

■ それでは、次に、NGNを「作るビジネス」についての具体的な取り組みをお話していただけますか。

弓場 英明氏

弓場 富士通は、これまで次世代ネットワーク(NGNよりも広義な意味の次世代ネットワーク)の実現に向けた技術革新に力を注いできました。これらを実現する過程で、IPネットワーク、モバイル&ワイヤレス、光伝送などを次々に開発し市場に提供してきましたが、NGN時代を迎えて、これまで個々に進めてきたこれらの製品群を、「オールIP/コンバージェンス(オールIP化して統合)」としてまとめ、提供していく時代が到来したと考えています。ここには、FMC(固定系と移動系の融合)、第4世代(4G)を目指して開発中のスーパー3G(Super3G)あるいはNGNの中核的な技術であるIMS(IP Multimedia Subsystem、IPマルチメディア・サブシステム)、光IPネットワークなどが含まれています。

ですから、富士通が考える次世代ネットワークは、NGN、the Internet(オープンなインターネット)、移動体通信網など、多様なネットワークが相互に連携して機能するものと考えます。しかし、この連携は境目のくっきりしたものではなくて、簡単には図示できない「もやもや」としたものが多いところがあります。

つまり、あるネットワークだけ、あるアーキテクチャだけというものではなくて、いろいろな使い方といろいろな環境が混在するミクスチャーの状態です。したがって、ある意味では、混沌(カオス)を前提として「使いやすい」「安心・安全」「グリーン(環境に優しい)」「高速・大容量」なネットワークを実現していくことになります。

■ この混沌(カオス)は、従来の個別ネットワーク(例:電話網)による個別サービス(例:固定電話サービス)のような「垂直統合」のサービス形態から、いろいろなサービスを一つのバックボーンネットワークに統合するような「水平統合」のサービス形態への移行の途中のことと、とらえてよいのでしょうか?

弓場 必ずしも、すべてがそのように移行する状況といえないところもあります。例えば携帯電話の場合、国によって通信方式やサービス形態などの違いが大きいですし、必ずしも「水平」「垂直」のどちらかと考えられないと思います。「統合」というよりは、バリエーションを許容することが求められているのではないでしょうか。昔のサービスの提供のされ方は非常にシンプルでしたね。

(つづく)

プロフィール

弓 場 英 明

弓 場 英 明

1970年 3月 北海道大学 工学部卒業
1972年 3月 北海道大学大学院 工学研究科修士課程修了
1972年 4月 日本電信電話公社入社
2002年 4月 株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ 取締役 研究開発本部副本部長
2004年 6月 富士通株式会社 経営執行役常務
2006年 6月 同社 経営執行役上席常務(現職)

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