[特集]

活発化する電波/周波数の割り当て(7):地上テレビ放送のデジタル化後の電波の跡地利用

2007/10/04
(木)
SmartGridニューズレター編集部

 この連載では、ワイヤレスブロードバンドや放送にとって生命線といわれる「電波/周波数の割り当て」問題についてレポートします。携帯電話サービスへのニーズは今日、ますます高度化・多様化し、第4世代(IMT-Advanced)に向けた新しい携帯電話用周波数の確保が求められています。
 今回は、地上テレビジョン放送のデジタル化後の「跡地」の電波の有効利用方策について、解説していきます。

 地上テレビ放送は、2011(平成23)年7月24日にアナログ放送が終了し、デジタル放送に移行することとなります。この地上テレビ放送のデジタル化によって、デジタル・ハイビジョンの高画質あるいは高音質の番組に加えて、双方向サービスや暮らしに役立つ地域情報の提供など、多様な放送サービスが実現されるようになります。しかしそれと同時に、電波利用の観点からは、電波の有効利用が図られ、非常に大きな周波数が創出されるため、これらの電波を、需要が増大しているさまざまな用途に使用できるようになります。

 このような大規模な周波数の再編に対応した電波の有効利用方策について検討を行うため、総務省では、2006年3月に情報通信審議会(総務省の諮問機関)に諮問を行い、情報通信審議会情報通信技術分科会の下に電波有効利用方策委員会(主査:土居範久 中央大学理工学部教授)が設置され、2007年6月まで検討が行われてきました。

1 地上テレビ放送のデジタル化に伴う周波数の再編

 地上テレビ放送は、現在、図1の上側の現在の周波数利用状況に示すように、アナログ・テレビ放送にVHF帯の90〜108MHzおよび170〜222MHz、ならびにUHF帯の470〜770MHzの計370MHz幅を、デジタル・テレビ放送にUHF帯の470〜770MHzの300MHz幅を、それぞれ使用しています。


図1 地上テレビ放送のデジタル化に伴う周波数の再編(クリックで拡大)

 これらの状況は、2011(平成23)年のアナログ・テレビ放送終了によって、アナログ・テレビ放送のみで使用されていたVHF帯の90〜108MHz(18MHz幅)および170〜222MHz(52MHz幅)の合計70MHz幅が空き周波数となります。

 また、その後の1年間で、デジタル・テレビ放送で使用されている470〜770MHz帯を整理(リパック)し、470〜710MHz帯までをデジタル・テレビ放送で使用することになります。そのため、2012(平成24)年7月25日以降は、UHF帯の710〜770MHzの60MHz幅についても空き周波数となり、図1の下のような使用状況になります。

 このように、地上テレビ放送のデジタル化により130MHz幅もの電波が創出されることから、その有効利用方策について検討が行われました。

2 具体的システムの提案募集の実施と検討のための前提条件

 今回の審議を行うにあたって、まず、これらの周波数帯にどのような電波利用のニーズがあるかを把握するために、総務省において、2006(平成18)年3月から1カ月間、広く一般に提案募集を行いました。

 その結果、表1のように100者から149件(周波数帯を区別した場合は181システム)もの多数かつ多岐にわたる提案が寄せられました。


表1 具体的システムの提案募集の結果概要〔2006年(平成18)年6月9日第2回委員会時点の分類〕(クリックで拡大)

 今回の審議においては、電波有効利用方策委員会の下に、これらの提案の提案者からなるVHF/UHF電波有効利用作業班を構成して検討を行うこととし、検討対象とする周波数帯および考慮すべき事項については、表2のとおり前提条件を定めました。

【1】検討対象とする周波数帯 (1)VHF帯の90~108MHzおよび170~222MHzの合計70MHz幅(2011年7月25日以降に使用可能)
(2)UHF帯の710~770MHzの60MHz幅(2012年7月25日以降に使用可能)
【2】電波の有効利用方策の検討に際して考慮すべき事項 (1)想定される電波利用システム 「VHF/UHF帯に導入を計画または想定している具体的システムの提案募集」に応募のあった電波利用システムを考慮に入れる。
(2)考慮すべき規定等 1 国際電気通信条約無線通信規則(RR)に定められた国際分配 すべての電波利用システム(軍用を除く)は、RRに定められた国際分配に従うことを要請されていることから、これに従うことが必要。また、国内分配である周波数割当計画についても尊重する。
2 過去の情報通信審議会の答申 過去の情報通信審議会の答申を尊重し、以下の2つの答申を前提に検討する。
 (i) 「中長期における電波利用の展望と行政が果たすべき役割~電波政策ビジョン~」〔2003(平成15)年7月30日情報通信審議会答申〕
(ii) 「携帯電話等の周波数有効利用方策」のうち「800MHz帯における移動業務用周波数の有効利用のための技術的条件」〔2003(平成15)年6月25日情報通信審議会答申〕
3 新たな周波数帯を必要としないシステム すでに実用化に向けた取り組みが行われ、具体的な導入周波数帯が検討されている電波利用システムについては、検討対象外とする。また、実験的な使用を提案した電波利用システムについても、現行の実験局制度において実現が可能であることから、検討対象外とする。
表2 電波の有効利用方策の検討を行うための前提条件

[1]システムの類型化

 まずはじめに、149の提案システムをもとに、提案システムの使用形態やサービス提供形態、および技術的特性等に基づいて、ニーズを集約する作業を行いました。その結果、2006年10月の作業班から委員会への中間報告の時点では、図2に示すように、33類型まで集約されました。


図2 システムの類型化の進捗〔2006(平成18)年10月12日第3回委員会〕(クリックで拡大)

 この時点で、所要周波数帯域幅の合計が、当初149提案システムでは約2.8GHz幅であったものから、33類型では約870MHz幅まで集約されましたが、空き周波数となる130MHz幅と比べると約6.7倍となりました。かつ、これ以上の集約が困難であったことから、安心・安全の確保を含む「自営通信」、デジタルラジオ等の「放送」、「ITS」(高度道路交通システム)、携帯電話等の「電気通信」の4つの用途に大別し、これら4つの用途の詳細についてヒアリングを行い、基本的な検討の方向性を議論することになりました。

 その結果、図3に示すような、VHF帯では「放送」および「自営通信」、UHF帯では「電気通信」および「ITS」について電波の有効利用方策を検討する方向となり、各用途に必要な周波数帯域幅・隣接システム間の共用条件等を検討することになりました。


図3 類型化の進捗を踏まえた検討の方向性〔2007(平成19)年2月9日第5回委員会〕(クリックで拡大)

[2]検討の方向性

 これらの検討に当たっては、検討対象の130MHz幅をはるかに上回るニーズが寄せられた中での検討であったため、主として次のような内容が、特に重要な観点とされました。

(1)自営通信
   1. 安全・安心の確保のためのシステムの実現を優先的に考えること。
   2. 限られた帯域でより多くの電波利用ニーズを実現可能とする共同利用型のシステムの構築について検討すること。
   3. 安全・安心の確保のための利用が集中しない時間には、その他の電波利用を実現できるようにすること。
(2)放送
   利用者のニーズの観点からの必要周波数帯域幅を検討すること。
(3)電気通信

   過去の情報通信審議会答申において、UHF帯については携帯電話に使用する方針が示されているが、これまでの周波数需要予測により必要とされている周波数帯域幅が、現時点の利用においても依然として必要であるかどうか分析・実証すること。

(4)ITS
   出会い頭の衝突事故防止のための車車間通信に絞って、必要周波数帯域幅を検討すること。

3 VHF/UHF帯の電波の有効利用方策に関する審議結果

 各用途に必要な周波数帯域幅、VHF帯およびUHF帯における隣接システム間の共用条件等について検討を行った結果、次のような内容が審議結果としてまとめられ、2007年6月27日に情報通信審議会から答申を受けました。

[1]VHF/UHF帯の4つの使用用途

 地上テレビ放送のデジタル化により空き周波数となるVHF帯の90〜108MHzおよび170〜222MHz、ならびにUHF帯の710〜770MHzについては、今後の周波数利用ニーズを踏まえて、次の4つの用途で使用できるようにすることが適当とされました。

 (1)移動体向けのマルチメディア放送等の「放送」(テレビ放送を除く)
 (2)安全・安心な社会の実現等のためにブロードバンド通信が可能な「自営通信」
 (3)需要の増大により周波数の確保が必要となる携帯電話等の「電気通信」
 (4)より安全な道路交通社会の実現に必要な「ITS」(高度道路交通システム)

[2]UHF帯の電波の有効利用方策

 UHF帯の用途については、可能な限り大きな帯域を携帯電話等の「電気通信」で使用できるようにし、700MHz帯の電波を使った車車間通信システム等の実現のために、「ITS」に一定の周波数帯域を確保することが適当とされました。

 また、それぞれの用途に使用する周波数帯域幅については、「ITS」を10MHz幅とし、残りの周波数帯域幅のうち、有害な混信の排除のために必要となるガードバンドを除いた帯域を「電気通信」に使用することが適当とされました。

 さらに、周波数配置については、電波伝搬環境や干渉軽減措置の容易さから、「電気通信」と比べて「ITS」のほうが、テレビ放送との所要ガードバンドが小さくなる可能性が高いと考えられることから、「電気通信」をこの帯域の上の方に、「ITS」をこの帯域の下の方に配置することが適当とされました。

 また、ガードバンドについては、「テレビ放送」と「ITS」、「ITS」と「電気通信」の間については、おおむね5MHz幅のガードバンドを設けることが適当とされ、「電気通信」と放送FPU(Field Pick-up Unit、テレビジョン放送用の無線中継伝送装置)については、運用上不要とできる可能性があるため、ガードバンドを設けないことが適当とされました。

 これらを踏まえたUHF帯の周波数配置案が、図4に示されるようなものです。


図4 UHF帯(710〜770MHz)の周波数配置案(クリックで拡大)

[3]VHF帯の電波の有効利用方策

 VHF帯の用途については、「放送」および「自営通信」で使用したいとするニーズが非常に大きいことから、それぞれについて、おおむね2分の1の周波数帯域幅を使用できるようにすることとしました。その使用に当たっては、周波数利用効率の向上等のための技術開発、共同利用型システムとしての構築や無線局設置の最適化等のシステム構築上の工夫、システムの運用上の工夫等を行うことによって、それぞれの帯域の有効活用を図ることが適当とされました。

 また、VHF帯の周波数配置案については、図5のとおりとすることが望ましいとされました。


図5 VHF帯(90〜108MHzおよび170〜222MHz)の周波数配置案(クリックで拡大)

 (1)90〜108MHzの18MHz幅

 「国際分配で一部(100〜108MHz)放送業務のみに分配されていること」および「多くの国において音声放送用に使用されていること」なども考慮して「放送」用とすることが適当とされました。

 (2)170〜222MHzの52MHz幅

 「自営通信」用と「放送」用とし、一般の視聴者を対象とする放送システムの端末をより小型化できるよう、「放送」をこの帯域の上の方に、「自営通信」をこの帯域の下の方に配置することが適当とされました。

 (3)隣接周波数帯におけるガードバンド

 現在は、高出力の地上アナログ・テレビ放送と共存しているが、電波の有効利用の観点からは、ガードバンドは特段設ける必要がないと考えられることから、170〜222MHzにおける「自営通信」と「放送」の間についてのみ考慮することが必要とされ、次のような考え方で、ガードバンドを設定することが適当とされました(図6)。

   1. ガードバンドとして5MHz幅を想定し、相互の領域における相手からの被干渉電力は環境雑音レベル程度とする。

   2. ①の条件下において、それぞれ境界から最大2.5MHz幅まで使用可能とする。


図6 「自営通信」と「放送」の間のガードバンド(170〜222MHz)(クリックで拡大)

 なお、この答申は、「VHF/UHF帯における電波有効利用方策に関する考え方(案)」として意見募集が行われ、その結果を踏まえてとりまとめられたものです。

4 今後の取り組み

 今後、地上テレビ放送のデジタル化後の「跡地」の電波の有効利用方策についての答申を踏まえ、「自営通信」「放送」「電気通信」「ITS」の各用途の導入に向けて、方式の検討、技術基準の策定、免許方針等の制度整備等について、これらの帯域が使用可能となる2011年または2012年までに、具体的な検討を行うこととなります。

 これらの電波の新たな用途の拡大によって、通信・放送分野における新規ビジネスの創出や、安心・安全な社会の実現が期待されることから、総務省としては、現在推進しているICT分野の国際競争力強化に向けた取り組みと合わせて、着実に世界最先端のユビキタス・ネットワーク社会を実現していきたいと考えています。

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