[スペシャルインタビュー]

シスコシステムズのNGN戦略を聞く(2):NGNで変わるコミュニケーションのスタイル

=シスコシステムズが提案する新しいコラボレーションの形=
2008/03/24
(月)
SmartGridニューズレター編集部

シスコシステムズは、通信事業者向けのコア・ルータから個人ユーザー向けのルータまで、ネットワークのインフラ構築を中心にビジネスを展開してきた国際的な企業です。ところが、NGN時代となり、ネットワーク機器が大きく変わるなかで、これまでの通信機器ベンダとしての立場から、NGNを利用したサービスの提供へと転換を図ろうとしています。そこで、シスコシステムズ合同会社の篠浦文彦(しのうら ふみひこ)氏に、NGNに対しての考え方、シスコシステムズがNGNで実現しようとしていること、そして目指している方向などをうかがいました。
最終回となる今回〈第2回〉は、 第1回 「通信機器ベンダからの脱皮」 =NGNが変えるビジネスの形=
に続き、シスコシステムズが提供する具体的なNGNの価値や、NGN環境での企業のパートナーシップのあり方、NGNを使った新しいサービスの具体例などについて、お話しいただきました(文中敬称略)。

≪1≫シスコシステムズが提供するNGNの価値とは

■御社が考えるNGNの価値とは、具体的にどのようなものですか。

篠浦 文彦氏(シスコシステムズ合同会社)
篠浦 文彦氏
(シスコシステムズ合同会社)

篠浦 従来のように大型のルータであるCRSやエッジ製品(ユーザーに最も近い通信事業者のルータなど)といった機器を通信事業者に大量に納入して終わりという形から、NGNを使ってユーザーは何ができるのか、過去のネットワークと比べて何がよくなるのかということを示すということです。

例えば大手町のNGNのショールームNOTE(※)で体験できるテレプレゼンスは、人とのコミュニケーション、コラボレーションの仕方をまったく変えてしまうものです。例えばテレビ会議システムなどは、ハイビジョンで等身大のバーチャル・リアリティを実現できるようになるからです。テレプレゼンスのようなサービスは、画面がきっちり出ないといけないので、ブロードバンドでしかもQoS(Quality of Service、サービス品質)が考慮されているNGNがあればこそ提供できるサービスです。

CRSが何十台入ったとかいうのは実は価値ではなくて、テレプレゼンスのシステムのように、ビジネスのスピードが早くなったりとかコラボレーションの方法が大きく変わったりというように、そのサービスを使うことによって、これまでと比べてよい方向にビジネスが変わるということがNGNの本当の価値です。NGNでは、そういったサービスがいくつも出てくると思います。

※NOTE(NGN Open Trial Exhibition):NOTEとはNTTグループと国内外の事業者によるNGNの実験展示場。2008年2月25日閉鎖。http://www.ngn-note.jp/
NOTEの関連記事:NTTがNGNフィールドトライアルの「NOTE」をリニューアルオープンへ! http://wbb.forum.impressrd.jp/news/20070725/443

■そうすると、NGNなどの新しいシステムが構築されていく中で、通信事業者側の変化に対応して、ユーザーのITシステムが変わる必要がありますね。

篠浦 その通りです。各企業における社内の情報システム部門でも、単に通信事業者から提供される新しいNGNサービスに対応するだけではなく、NGNという新しいネットワークを使って、ITという情報通信のインフラの面から企業におけるビジネス・プロセスの変革を支援していく必要があると思います。

図1は、ビジネスで便利なアプリケーションと、利用するために必要な帯域幅を示したものです。左端の電子メールから上へいくほど高度化していき、それに伴って必要とされる帯域も大きくなっていきます。右端のテレプレゼンス(テレビ会議)は、NGNらしいサービスの一例です。


図1 シスコシステムズが考えるNGNを利用したサービスの例(篠浦氏資料より)(クリックで拡大)

■一般ユーザーに対するサービスについてはどのように考えますか。

篠浦 一般ユーザーに対しても、当社から新しいサービスを提案するというスタンスは同じです。NGN対応製品として、通信事業者のUNI(ユーザー・網インタフェース)の仕様を満たすだけの製品が少なくありませんが、それでは従来と使い方があまり変わらないので、通信事業者もユーザーもメリットがありません。そうではなくて、NGNならではの新しいサービスを提供することが必要なのです。

■新しいサービスを提供するためには、どういうことが必要だとお考えですか。

NGNでは、アプリケーションとか、サーバのインタフェースが用意されています。こうしたものを利用すると、NTTがNOTEで展示している医療向けサービスやVoD(Video On Demand)など放送も含めて、コンシューマに対して、いろいろなサービスができます。

また、ビジネス向けには、NGNのセキュリティやQoSのよさを利用して、ASP(Application Service Provider)やSaaS(※)を利用するモデルで、業務アプリケーションを提供するサービスも考えられます。こうしたサービスがあれば、自分のところで情報システムをなかなか持てないSOHO(小規模オフィス)ユーザーにはとても便利になります。

このように新しいサービスや価値を提供することが、本当のNGNの姿だと思うのです。

※SaaS(software as a service、サース):SaaSとはソフトウェアをパッケージとしてではなく、ユーザー(企業)が必要とする機能だけを、サービスとしてネットワークを経由で配布し利用できるようにした仕組み。

■NGNのサービスを充実させるためにはどうすればいいと考えますか。

篠浦 NGNのサービスを充実させるためには、アプリケーション・ベンダの関わりが欠かせません。しかし、NGNの仕様書は専門的すぎて、通信分野になじみのないアプリケーション・ベンダにとってはわかりにくい部分があります。アプリケーション・ベンダは、SIPと言われてもよくわからない。さらにSIPがシグナリング(通信の接続を確立したり、切断したりする信号の手順)でやりとりしないけないということを理解するのは、かなりハードルが高いところがあります。しかしサービスの部分では、Web2.0の考え方をそのまま生かせるような自由度を持たせれば、アプリケーション・ベンダも参入しやすくなり、新しいサービスも生まれやすくなります。

現在、ITU-T(国際電気通信連合-電気通信標準化部門)などでNGNの標準化が進められていますが、細かい部分まで仕様を決めすぎている印象があります。重要なのは、NGNの特性を生かした新しいサービスが生まれやすくなるような仕様にすることです。

例えばNGNにおいて、どのようなサービス品質(QoS)を提供するかという部分は、今後のサービス・プロバイダーの新しい付加価値的なサービスにもなります。

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