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産総研、光電極を用いた酸化剤と水素の効率的な製造方法を開発

2015/03/06
(金)
SmartGridニューズレター編集部

2015年3月6日、独立行政法人 産業技術総合研究所は、多孔質の酸化タングステンなどを積層した半導体光電極※1を用いて、太陽光エネルギーで水を分解し、水素製造と同時にさまざまな高付加価値の化学薬品を効率良く製造する技術を開発した。

図1:太陽光と光電極による高付加価値な酸化剤および水素の製造

化学薬品としては過硫酸※2や次亜塩素酸塩※3、過酸化水素※4、過ヨウ素酸塩※5、四価セリウム塩※6などの酸化剤を製造できる。太陽光エネルギーを水素と過硫酸として化学エネルギーに変換・蓄積する反応では、ほぼ100%の選択性※7で過硫酸へ変換でき、非常に高い太陽光エネルギー変換効率※8(ABPE効率=2.2%)を達成できた。

太陽光エネルギーを利用することで水の電気分解の電解電圧を著しく低減しながら、水素エネルギーと多様な有用化学薬品を同時に製造できる技術であり、将来の経済性の高い新規プロセスの実用化が期待される。

同技術の詳細は、2015年3月15日~17日に国立大学法人 横浜国立大学(神奈川県横浜市)で開催される電気化学会第82回大会で発表される。

今後の予定

光電極の太陽光エネルギー変換効率を向上させるには、光電流を増大させつつ、選択性を向上させ、補助電源電圧を低下させる必要がある。今回の酸化タングステンやバナジン酸ビスマス半導体よりも、太陽光のより幅広い利用が期待できる酸化物や、非酸化物の半導体などの光電極でも高付加価値の化学薬品製造ができることを既に確認しており、現在はその高性能化を検討している。

さらに、光電極の補助電源に安価な有機系太陽電池を用いて一体化した独立システムの検討も行っており、システム全体の高効率化と最適化を行い、単純な太陽電池-水電解よりも低コストの水素製造や省エネルギーの飲料水浄化システムなどが実現できるように研究を進めている。


※1:半導体光電極
板状や膜状の半導体に導線を接続して電極化したもの。光に応答した光電流が導線を流れる。太陽電池としても利用できるが、通常の半導体光電極では光エネルギーによる電流で酸化還元反応を進行させて化学エネルギーに変換して取り出す。

※2:過硫酸
ペルオキソ結合(-O-O-)を持つ硫酸の誘導体で、過酸化物の一種。ペルオキソ一硫酸とペルオキソ二硫酸がある。通常は過酸化水素と硫酸からの製造、または高い電圧で電解製造する。強い酸化剤であり、漂白剤や洗浄剤として用いられる。

※3:次亜塩素酸
次亜塩素酸イオンおよび次亜塩素酸の塩類は酸化剤、漂白剤、外用殺菌剤、消毒剤として利用される。塩素を水溶液に溶かしたり、食塩水を直接電解したりして合成する。

※4:過酸化水素
漂白や廃水処理、半導体の洗浄、殺菌剤、消毒剤、有機合成の酸化剤などに用いられる。希薄水溶液はオキシドールとして傷の殺菌消毒薬に使われる。主にアントラキノン法を用い、水素と酸素から有機物の酸化-還元反応にて製造される。

※5:過ヨウ素酸
過ヨウ素酸イオンはヨウ素のオキソ酸の一種で、過ハロゲン酸。強い酸化剤であり、1,2-ジオールの開裂やスルフィドの酸化などのさまざまな有機合成反応に用いられる。

※6:セリウム
4価のセリウムイオンは3価に変化しながら、強い酸化性を示す。さまざまな酸化的な有機合成反応や洗浄剤に用いられる。

※7:選択性
光電極上では酸化生成物として酸素および酸化剤が競争的に生成する可能性があり、流れた電流に対しての生成物の割合を示す。電流効率またはFaraday効率とも呼ぶ。

※8:太陽光エネルギー変換効率
入射した太陽光エネルギーに対して、変換したエネルギーの割合を示す。外部バイアス(補助電圧)を用いている光電極の水分解の場合は、太陽光エネルギーに加えて電気エネルギーも使っているので、投入した電気エネルギー分を差し引いて計算する。

■リンク
産総研

 

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