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2030年に再エネ24%が目標、新島と式根島で蓄電池などを組み合わせた系統運用の実証試験開始

2017/04/14
(金)
SmartGridニューズレター編集部

NEDOは、再生可能エネルギーを導入した系統運用の実証試験を実施すると発表した。

国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は2017年4月13日、再生可能エネルギーを導入した系統運用の実証試験を実施すると発表した。場所は東京都の離島である新島と式根島。経済産業省は2015年7月に定めた「長期エネルギー需給見通し」で、2030年には日本の総発電電力のうち22~24%を再生可能エネルギー由来のものとする目安を示している。今回の実証試験では、新島と式根島に再生可能エネルギーによる発電量が総発電量の24%程度となる環境を構築して、系統を制御、運用する技術を確立することを目指す。新島と式根島に「2030年の日本の未来像」を模した環境を作り、再生可能エネルギーの大量導入に備える。

エネルギー庁の「エネルギー白書2016」によると、2014年度の日本の総発電量のうち、再生可能エネルギーによるもの(水力は除く)の割合はわずか3.2%。一般水力の8.4%を加算しても11.6%。2030年に総発電量のうち再生可能エネルギーによるものを22~24%とする目標は、今のところ遠いものと言わざるを得ない。最大の理由は、再生可能エネルギーによる電力は天候や時間帯によって出力が大きく変動してしまうという点にある。現在各電力会社は、再生可能エネルギーによる発電量が大きくなると、火力発電の出力を落として、需要を超える量の電力が系統に流れないように制御している。

しかし、その方法でも制御しきれなくなっている地域が現れ始めている。東京電力パワーグリッド、中部電力、関西電力、中国電力を除く大手電力会社は、すでに系統に接続した太陽光発電設備の出力合計が、系統への接続可能量を超過してしまっている。火力発電の出力制御では対応できないほどの出力の太陽光発電設備が系統につながっているということになる。

それでも新たに太陽光発電設備の系統への接続を申し込むには、電力会社による無制限無補償の出力制御に応じるという条件に従わなければならない。併せて、出力制御に対応した機器を設置する必要もある。簡単に言えば、これから該当エリアで太陽光発電設備を系統に接続するには、電力会社の指示でいつでも系統への送電を止められるようにしなければならないということだ。

東北電力などは変電所に大容量蓄電池を設置して、需用以上に発電した太陽光の電力を一時吸収する試みを始めている。今回の実証試験では、新島と式根島に両島の最大需要電力のおよそ24%を賄えるだけの太陽光発電設備と風力発電設備を設置し、合わせて両島の各地に蓄電池を設置し、電力系統を安定稼働させることに挑む。実証試験を実施する、東京電力ホールディングス(東電HD)、東京電力パワーグリッド(東電PG)、東光高岳の3 社は、新島と式根島に太陽光発電設備、風力発電設備、蓄電池を設置し、両島の電力系統への連系も済ませており、4月14日から実証試験を始める。

図 実験を実施する3社が設置、連系を済ませた太陽光発電設備、風力発電設備、蓄電池

図 実験を実施する3社が設置、連系を済ませた太陽光発電設備、風力発電設備、蓄電池

出所 東京電力ホールディングス

新島、式根島の両島合計の需要電力はおよそ1900kW~4400kW。3社が設置した太陽光発電設備、風力発電設備に、すでに設置と系統への連系を済ませている分を合計すると、太陽光発電設備の合計出力は約460kW、風力発電設備は約600kW。合計するとおよそ1060kW。両島の合計の最大需要のおよそ24%に当たる数字だ。3社は設備新設に当たって、風況が良い東日本を想定して、風力発電の比率を高くしたとしている。

実証試験では、風力発電設備、太陽光発電設備の出力を予測し、その出力を適切に制御することに挑む。さらに、現在の両島の主たる電源であるディーゼル発電機(出力7700kw)との協調運用、設置した蓄電池を活用して再生可能エネルギーによる余剰電力の吸収、系統を流れる交流の周波数が乱れたときは蓄電池からの放電で安定を図るなどの課題に取り組む。最終的には、再生可能エネルギーによる発電設備を最大限受け入れ可能な系統運用システムの構築とその評価まで予定している。

さらに具体的に言うと、再生可能エネルギーによる発電設備と蓄電池を3つの使い方に分けて、その3つを最適に組み合わせて安定運用を目指す。3つの使い方の1つ目は、再生可能エネルギーによる発電設備が需要を超える量を発電しているときの「余剰対策制御」。蓄電池で余剰分を吸収しながら、発電設備の発電を制限するなどの方法で需要以上の電力が系統に流れることを防ぐ。2つ目は再生可能エネルギーによる発電設備の出力変動の速度や変動量を蓄電池を利用して緩和する「変動緩和制御」。3つ目は「計画発電制御」。気候などの条件によって出力が大きく変動する再生可能エネルギー電源を、蓄電池などを活用して事前に立てた計画の通りに出力を制御するというものだ。

今後、再生可能エネルギーによる電源が普及したら、「リソースアグリゲーション」や「バランシンググループ」といった仕組みづくりにも取り組まなければならない。リソースアグリゲーションとは、個々の需要家の電力需要をまとめて計算し、需要家が個々に持つ発電設備や蓄電設備を制御して、再生可能エネルギーを利用した発電設備の出力を回避したり、系統を安定させるというものだ。バランシンググループとは、発電設備のグループと需要家のグループを複数設定し、それぞれのグループ単位で計画通り発電、消費することを目指す仕組み。今回の実証試験ではリソースアグリゲーションやバランシンググループを想定し、複数の制御システムを互いに協調動作させるシステムの実証も計画している。

東電HDと東電PGは、再生可能エネルギーを利用した発電設備の出力を予測、制御して需給のバランスを取りながら島内の電力系統を運用する。さらに、再生可能エネルギーによる発電設備を最大限受け入れられるように検討し、発電コストが最も経済的となるように各発電所を制御する「最経済制御技術」の確立を目指す。最経済制御技術に合わせて、これまで電力系統を運用して来た技術とノウハウも活用し、国内外での技術支援を提供することを目指す。

図 グループ単位での需給バランスを取るシステムを協調させる「分散型制御協調システム」。緑色の点線で囲んだ部分を新たに開発する

図 グループ単位での需給バランスを取るシステムを協調させる「分散型制御協調システム」。緑色の点線で囲んだ部分を新たに開発する

出所 東京電力ホールディングス

東光高岳はリソースアグリゲーションなど、グループ単位での需給バランスを取るシステムを協調させる「分散型制御協調システム」を開発し、その効果を検証する。また、そのシステムを電力供給などの面から見た信頼性などを評価し、最経済制御技術の確立に貢献する。


■リンク
国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構
東京電力ホールディングス
東京電力パワーグリッド
東光高岳

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