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「非化石価値取引市場」の活用で再エネ導入を促進、自然エネルギー財団が3項目の提案を公開

2017/04/24
(月)
SmartGridニューズレター編集部

自然エネルギー財団は、2017年度中に発足する予定の「非化石価値取引市場」を再生可能エネルギー導入の促進につなげることを目的に、3項目の提案を公開した。

自然エネルギー財団は2017年4月22日、2017年度中に発足する予定の「非化石価値取引市場」を再生可能エネルギー導入の促進につなげることを目的に、3項目の提案を公開した。この提案にはアメリカApple社、アメリカMicrosoft社、イケア・ジャパン、イビデン、清水建設、ソフトバンクグループ、ソニー、パタゴニア日本支社、富士通、リコーの10社が賛同している。自然エネルギー財団による3項目の提案は以下の通り。

1. 電力消費者が自然エネルギー電力の利用を宣言できるようにすること。

2. 非化石電源の中で、自然エネルギー電力と原子力発電を区分すること。

3. 自然エネルギーの中でも、太陽光、風力、小規模水力、バイオマスなどの区分が明らかになるようにすること。

政府が非化石価値取引市場を発足させる直接の目的は、2016年4月1日に改正となった「エネルギー供給事業者による非化石エネルギー源の利用及び化石エネルギー原料の有効な利用の促進に関する法律(エネルギー供給構造高度化法)」が小売電気事業者に課している目標にある。改正法は小売電気事業者に、調達する電力のうち「非化石電源」を2030年度までに44%以上とすることを課している。

しかし、自前で大規模水力発電所などの「非化石電源」を持たない小売電気事業者は、この目標を達成できない。そこで、非化石電源から「非化石である」という事実を切り離して市場で売買できるようにするわけだ。目標達成が難しい業者は、市場で「非化石である」という事実を買い取れば、政府が課している目標を達成できる。

図 非化石価値取引市場では、非化石電源から「非化石である」という事実を切り離して、売買できるようにする

図 非化石価値取引市場では、非化石電源から「非化石である」という事実を切り離して、売買できるようにする

出所 資源エネルギー庁

現状では、非化石価値取引市場は目標を達成できない小売電気事業者を救済する措置にとどまっている。しかし自然エネルギー財団は、制度を適切に設計すれば企業による再生可能エネルギー活用を促進する役目を果たすとしている。

日本の企業に比べると、欧米の企業は再生可能エネルギーの利用に積極的だ。再生可能エネルギーのみで事業を運営することを目指す世界的な企業連合「RE100」には90社ほどが参加しているが、4月21日にリコーが参加を表明するまで、日本から参加する企業はなかった(関連記事)。

自然エネルギー財団は、日本企業の再生可能エネルギーに対する関心は決して薄いものではないとし、日本企業が世界的大企業に比べて再生可能エネルギーの活用に積極的になれない理由として、日本における再生可能エネルギーによる電力が世界の標準的な価格と比べて高いという点を挙げている。そして、世界の多くの国と地域で、風力発電や太陽光発電による電力の価格が、火力発電による電力と同等あるいはさらに安価になっているという事実を挙げている。

Googleは、2017年に全世界の拠点で消費する電力を再生可能エネルギーで賄える見通しであることを発表している。そして、再生可能エネルギー導入を進める理由として、2010年当時と比べると風力による電力の価格が60%、太陽光による電力の価格が80%下がっており、一部の地域では再生可能エネルギーによる電力が、どの電力よりも安くなっている事実を挙げている。

さらに、燃料を燃焼させて得る電力の価格は、燃料の価格によって変動する点を指摘し、再生可能エネルギーを長期供給契約で購入することは、電力購入に必要な費用を長期的に予測可能なものとし、燃料価格の変動による出費増を避けられるというメリットを挙げている(関連記事)。世界では再生可能エネルギーによる電力はもはや特別なものではなく、価格競争力がある電力となっているのだ。

さらに自然エネルギー財団は、日本において再生可能エネルギーによる電力の発電から消費までの流れを追って明確にする仕組みが整っていないという問題を挙げている。ヨーロッパやアメリカで一般的となった「グリーン電力」には、発電事業者、送電事業者、配電事業者、中間取引事業者、小売事業者を経由して消費者に再生可能エネルギーによる電力が届くまでの経路を追跡する仕組みがある。

一方、日本で流通している「グリーン電力証書」の仕組みは、企業の自主性に依存している上、他国に比べて高価だ。また、日本のグリーン電力証書では、再生可能エネルギーの固定価格買取制度(FIT)による電力が対象外となっているので、広く普及することは望めない。

現在、政府が発足に向けて動いている非化石価値取引市場は、「非化石電力である」という事実を追跡して明らかにする役目は果たせるかもしれない。FIT電力の「非化石電力である」という事実も売買対象になる。しかし、小売電力事業者の事情を考慮した設計で、電力消費者のことを考えた設計にはなっていない。

パリ協定が発効し、世界各国は温室効果ガスの削減目標を設定して、削減に向かって動かざるを得なくなっている。そして、世界の電力消費量のうち企業が消費するものはおよそ半分にもなる。国が削減目標を設定しても、企業が動かないことには目標達成は覚束ない。現在、環境保護意識が強い消費者の増加により、環境保護活動に積極的な企業は社会的に高い評価を受けるようになった。これで再生可能エネルギーによる電力が日本でも安価で手に入るようになれば、導入する企業は一気に増加するだろう。

自然エネルギー財団が今回公開した提案の1つ目は、企業が再生可能エネルギーに投資し、活用していることを社会にアピールする機会を作るものと言える。再生可能エネルギーによる電力が火力発電による電力よりも安くなったら、企業経営の面から見ても再生可能エネルギーを選ぶべきだろう。投資家や一般消費者も、再生可能エネルギーを活用している企業を合理的だと評価するはずだ。

2つ目の提案は、再生可能エネルギーの価値をはっきりさせて、政府に適切な導入施策を打つように促すものと考えられる。政府が非化石価値取引市場を発足させる直接の目的が、改正後のエネルギー供給構造高度化法に関係することは前述の通りだ。この法律が小売電気事業者に課している、「調達する電力のうち非化石電源を2030年度までに44%以上」という目標は、資源エネルギー庁が2015年7月にまとめた「長期エネルギー需給見通し」のデータを基にしている。

この資料では2030年の日本の電源構成を石油3%程度、石炭26%程度、液化天然ガス27%程度、原子力20~22%程度、再生可能エネルギーが22~24%程度としている。このうち、政府が非化石電力と認めているのは再生可能エネルギーと原子力。両方の予測値を加算するとちょうど44%程度だ。

図 政府が想定する2030年の電源構成

図 政府が想定する2030年の電源構成

出所 資源エネルギー庁

しかし、再生可能エネルギーと原子力を区別せずに同じ非化石電力としてしまうと、再生可能エネルギーの価値が埋もれてしまう。確かに、どちらも温室効果ガスを発生させない電源だがその特徴、価値は大きく異なる。原子力は莫大な量の電力を発電し続けられる「ベースロード電源」だ。温室効果ガスの発生を抑制しながら安定した発電量を維持する上で、一定の役割を果たすだろう。

再生可能エネルギーは地熱や一般水力といった例外を除くと、気候や時間によって出力が大きく変動する扱いにくい電源だ。しかし、他国から燃料を輸入することなく発電できる「純国産エネルギー」であることを忘れてはいけない。これは日本という国にとっては非常に大きな価値だ。

日本は発電のための燃料のほとんどすべてを外国からの輸入に頼っている。原子力発電の燃料となるウランも完全に輸入頼りだ。この現状は、日本という国家にとって危うい。国際関係がもつれたり、輸入ルートでテロや紛争などの事件が発生すると、途端に燃料の確保が難しくなる。再生可能エネルギーの開発は、日本のエネルギー自給率向上に資するとも言えるのだ。

そして、太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギーを利用した発電技術はまだ発展途上にある。今後の進化の伸びしろも期待できる。各メーカーが参入して、技術開発競争を繰り広げれば、Googleが指摘したように5年程度で発電コストが半分以上下がるということも十分考えられるだろう。政府は原子力が最も発電コストが安いとしているが、そのレベルを下回ることもあり得る。

しかし、再生可能エネルギーの技術が進化して、発電コストを大きく下げられるようになっても、導入を進めるには規制緩和など政府が適切な手を打たなければならない。仮に、再生可能エネルギーと原子力を区別せずに非化石電力としたまま、非化石価値取引市場の運営を続けたとしたら、流通する非化石価値が再生可能エネルギーによるものなのか、原子力によるものなのかが分からなくなる。そして、政府が原子力に固執して、再生可能エネルギー導入に向けた適切な施策を取らないと、再生可能エネルギーの導入は進まない。すると、ほとんど原子力の力だけで温室効果ガス削減目標を達成してしまうという事態も起こりうる。

3つ目の提案は、さまざまな種類がある再生可能エネルギーのうち、コスト効率が優れるものをはっきりさせることを狙ったものと考えられる。コスト効率が優れる方式がはっきりすれば、再生可能エネルギーを利用する企業も、最も優れた方式を選択するだろう。そして、コスト効率に優れる再生可能エネルギーを活用していることを社会に公表し、合理的な選択をする企業であることをアピールするはずだ。そのアピールによって企業の社会的評価も変わるだろう。

そして、さまざまな企業が再生可能エネルギーの市場に参入すると、それぞれの企業が自社の方式を最も優れたものにするために技術開発競争を繰り広げるはずだ。現在のところ、国際標準と比較して日本の再生可能エネルギー導入率が低いレベルにとどまっているため、どの方式が日本の国土に合う優れた方式であるのかははっきりしていない。しかし、人気を集める方式が明らかになってくれば、その方式による技術開発競争が始まり、日本に適した方式の再生可能エネルギーを安価に利用できるようになると考えられる。

実は、自然エネルギー財団が3項目の提案を公表する前に、2030年の日本の電源構成を予測した研究機関がある。アメリカの「エネルギー経済・財務分析研究所(The Institute for Energy Economics and Financial Analysis:IEEFA)」だ。2017年3月21日に公表した報告書で予測している内容は、資源エネルギー庁の想定する2030年の電源構成とは大きく異なっている。

まず2030年の日本における総発電量の予測値が大きく違う。資源エネルギー庁は年率1.7%の経済成長と徹底した省エネを前提に、2030年の総発電量を1065TWh(1兆650億kWh)程度と予測している。一方IEEFAは、人口減少が進んで経済成長の勢いが鈍化することと、日本が世界屈指のエネルギー効率化技術を保有していることなどを挙げ、日本の総発電量は減少の一途をたどり、2030年にはおよそ868TWh(8680億kWh)になると予測している。

さらにIEEFAは、総発電量の低下によって、太陽光発電が電源構成の中で占める比率が相対的に上がり、2030年には12%に達する可能性もあるとしている。ただしこれは、政府が適切な導入施策を講じた場合の値であるともしている。

また、現在日本では実験レベルにとどまっている洋上風力発電がベースロード電源になる可能性も指摘している。IEEFAの試算では、洋上風力発電は設備利用率が45~50%に達し、十分ベースロード電源の役目を担うことができるとしている。具体的には、2030年までに日本の洋上風力発電設備の出力合計値が10GW(1000万kW)に達すると予測している。

そしてIEEFAは、電力構成の中で太陽光発電が占める割合が向上し、洋上風力発電がベースロード電源となることで、2030年の日本の再生可能エネルギー導入率は35%に達するとしている。資源エネルギー庁の想定値よりも10ポイント以上高い値だ。ただしこれも、規制緩和や電力系統の障害低減を前提条件とした値だ。

一方で、原子力発電の比率は大きく下がると予測している。2017年時点でほとんど停止状態になっている日本の原子力発電所が「おそらく回復しない」とし、2030年になっても電源構成の中で占める割合は8%にとどまると予測している。その理由として、原子力発電所を保有する電力会社の財政事情を挙げている。保有する原子炉が廃炉になる前に、厳格になった新安全基準を満たすように努力しているが、これは電力会社にとってかなりの重荷だとしている。

さらに、現在日本で明らかになっている石炭火力発電所の新設計画について、そのほとんどが建設に至る前に頓挫すると予測している。その理由として電力需要の減少と、電力会社の燃料見直しの動きを挙げている。具体例として関西電力が赤穂発電所の燃料を重油、原油から石炭に転換しようとして中止したことを挙げている。

結論として、電力需要の低下と再生可能エネルギーによる発電量増加によって、2030年の電源構成において火力発電が占める割合は40%まで低下するとしている。合計で56%としている資源エネルギー庁の予測を大きく下回る値だ。

原子力発電と聞くと無条件で悪と決め付ける人もいるが、あれほどの大電力を発電し続ける方法はほかにないことを忘れてはいけない。原子炉の研究が核融合炉の研究、実現につながるということもあるはずだ。再生可能エネルギーなら種類を問わず手放しで称賛する人もいるが、扱いづらく、発電効率は決して良いとは言えない。どちらにも長所、短所があるということだ。火力発電で問題となっている温室効果ガスの排出量は、技術の進歩で削減できるだろう。ただし、日本のエネルギー自給率がゼロに近いという事態は放置していてはいけない。再生可能エネルギーの積極的な導入でこの問題を解決できるのなら、政府は2030年の電源構成をゼロから見直すべきだろう。


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自然エネルギー財団

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