[急展開するエネルギー分野のブロックチェーン]

急展開するエネルギー分野のブロックチェーン

― 第1回 世界の事例から見るエネルギー+ブロックチェーンの全体像 ―
2018/04/01
(日)
大串 康彦 株式会社エポカ 代表取締役

最近、AIやIoTと並んで、「◯◯をブロックチェーン(Blockchain)(注1)で」というニュースが後を絶たない。エネルギー分野も例外ではなく、昨年(2017年)から動きが加速しているように見える。本連載では4回にわたり、エネルギー分野におけるブロックチェーンの応用について取り上げる。
第1回は、エネルギー分野でのブロックチェーンの応用の世界的な状況、全体感や背景、ブロックチェーンによって期待される効果などを説明する。第2回以降では、電力取引プラットフォームや再エネ発電所資金調達プラットフォームなどの主要な事例を、ビジネスとしての課題や展望も含め解説していく。ブロックチェーンがエネルギー分野で変革を起こせるのか、本当にビジネスに使えるのかなど、読者がもつ疑問へのヒントとなれば幸いである。

世界中で起こっているエネルギー+ブロックチェーンのプロジェクト

〔1〕エネルギー分野ではすでに50以上が

 2018年3月現在、エネルギー分野でブロックチェーンを使ったプロジェクトを実施または計画している会社は、スタートアップ(急成長を目指す新興企業)を中心に50以上ある。これらをカテゴリー別に表1にまとめ、国別にまとめたものを図1に示す。

表1 エネルギー分野のブロックチェーンを使ったプロジェクトを実施または計画中の会社(順不同)

表1 エネルギー分野のブロックチェーンを使ったプロジェクトを実施または計画中の会社(順不同)

※複数のカテゴリーに分類されるものは主要なカテゴリーに列記。
出所 各社Webサイトなどをもとに筆者作成

図1 エネルギー+ブロックチェーンの事例 国別数(総数53)

図1 エネルギー+ブロックチェーンの事例 国別数(総数53)

※プロジェクト実施国ではなく事業会社の所在地の国で集計。
出所 各社Webサイトなどをもとに筆者作成

〔2〕第1位は電力取引プラットフォームへの応用

 ブロックチェーンのエネルギー分野での応用事例として、最も多いのが電力取引プラットフォームであり、少なくとも28の事例が確認されている。これらの事例は卸売電力を対象にしたものも含むが、ほとんどが需要家間での電力取引、P2P(Peer-to-Peer)注2による取引を可能にするプラットフォームである。

 その背景となるのが、世界的な再生可能エネルギー設備(特に太陽光発電)の低廉化および普及増大、また固定価格買取制度(FIT)あるいはFITと同等の導入支援策の縮小である。

 太陽光発電設備の価格が下がり、家庭や事業者にとって太陽光発電設備導入のハードルが下がってきた。一方、導入支援策の打ち切りや縮小によって、太陽光発電で発電した余剰電力は安い価格でしか電力会社に売電できなくなっている。太陽光発電のオーナーにとっては、余剰電力は電力会社に安く買い叩かれるよりも、家族や友人の住む地域でシェアしたり、妥当な価格で使ってもらいたいだろう。これを実現するのが電力取引プラットフォームである。その詳細は第2回以降で紹介する。

〔3〕第2位は資金調達および取引プラットフォームに応用

 応用事例の中で電力取引プラットフォームの次に多いのが、再生可能エネルギー(以下、再エネと表記)発電設備建設のための資金調達・投資プラットフォームであり、7事例が確認されている。

 これは、クラウドファンディング注3の手法を取り入れ、再エネ発電所建設のための資金を広く集め、発電所建設後は出資者に発電で得られる利益を還元したり、プロジェクトによっては提供された資金と引き換えに発行したトークン(仮想通貨)で電気を購入できたりするスキーム(手法)である。

 代表的な事例の紹介およびその詳細の解説は第3回で行う。

〔4〕第2位:再エネ由来の電力をトークン化(仮想通貨化)して流通させる

 再エネ発電所資金調達プラットフォームと同数の事例が確認されているのが、再エネ由来の電力をトークン化(仮想通貨化)して流通させるというアイデアである。この中でも、ボランティアによって運営されているSolarCoin注4は先駆的な存在で、2014年からプロジェクトが始まっている。太陽光発電のオーナーには1MWhの発電につき1SolarCoinが付与され、SolarCoinが価値をもち流通することで、太陽光発電をさらに普及させるための追加的なインセンティブとなることを目指している。

〔5〕その他の事例

 そのほかにも事例は多岐にわたる。

 また同社は、フレキシビリティ(変動型再エネの普及に伴う需給調整手法・手段)の取引の検討のために、2018年2月、9社のメンバーおよび2社の支援会社(シーメンス・ナショナルグリッド)とコンソーシアムを組織した注9

  1. 米国Drift(ドリフト)社
     米国のDrift社は、電力自由化が起こったニューヨーク州で、AI、予測技術、高頻度な市場取引を駆使し、再エネ由来の電気を、通常の電気と同等な価格で家庭や小規模事業者の需要家に提供することを目指している。この中でブロックチェーンのような台帳を使用するという注5
  2. 米国Grid+(グリッドプラス)社
     同じく米国のGrid+社も、スマートエージェントという装置を通じて自動取引や顧客負荷の制御を行い、自由化市場でトランザクティブエネルギー(Transactive Energy、取引可能エネルギー)注6の実現を目指す。サービス開始は2018年第2四半期を予定しているが、長期的にはP2P取引も視野に入れている注7
  3. 英国Electron(エレクトロン)社
     英国のElectron社は、ブロックチェーン技術を使用したメーター登録プラットフォームを提供している(日本の電力広域的運営推進機関注8が運用するスイッチング支援システムと類似のシステムと推測する)。この技術によって顧客が小売電気事業者・ガス小売事業者を切り替える際の時間を大幅に短縮できるという。
  4. ドイツSonnen(ゾネン)社とTenneT(テネット)
     ドイツの蓄電池メーカーSonnen社と送電ネットワーク運営会社TenneTは、系統(電力システム)に接続された家庭用小型蓄電池を使用し、再エネの出力抑制を緩和するシステムをブロックチェーンを用いて構築し、6カ月の実証実験を2017年11月から開始した。

 系統のボトルネック(混雑)が発生したときに、系統に分散配置された蓄電池で充電を行い、風力発電機の出力抑制を回避する。さらに蓄電池のオーナーの家庭は報酬を得ることができる注10


▼ 注1
ブロックチェーン技術は、厳密に言えば「分散型台帳技術(DLT:Distributed Ledger Technology)」の部分集合である(インプレス刊 杉井靖典「いちばんやさしいブロックチェーンの教本」、p16)。本記事では「ブロックチェーン」という用語が広く使われていることを考慮して、両者の区別をせず「ブロックチェーン」に統一する。

▼ 注2
P2P:端末同士の対等通信方式。参加者間で直接・相対で取引を行うこと。

▼ 注3
クラウドファンディング(Crowdfunding):Crowd(群衆)と資金調達(Funding)を組み合わせた造語。不特定多数の人がインターネット経由で、他の人々や組織に資金の提供や協力などを行うこと。

▼ 注5
https://www.joindrift.com/

▼ 注6
トランザクティブ・エネルギー(Transactive Energy):取引可能エネルギー。IoTやGoT(Grid of Things、あらゆるものをつなぐ電力網)によって、消費者側に散在する分散電源をブロックチェーンで連携させ、電力会社などと電気を取引(売買)するだけでなく、同時に、隣の消費者同士が互いに電気を融通(取引)する「取引可能エネルギー」のこと。

▼ 注7
https://gridplus.io/

▼ 注8
電力広域的運営推進機関(OCCTO、オクト):Organization for Cross-regional Coordination of Transmission Operators, JAPAN。通称、広域機関とも呼ばれる。改正電気事業法に基づいて、電力システム改革の第1段階として2015年4月1日に、全国規模で電力の需給調整の機能を強化し、電気の安定供給体制を強化することを目的として発足した。スイッチング支援システムとは、電力自由化によって需要者(家庭等)が電力会社(小売電気事業者)を切り替え(スイッチング」)する際に支援するシステムのこと。

▼ 注9
2018年2月2日付プレスリリース

▼ 注10
https://www.tennet.eu/news/detail/europes-first-blockchain-project-to-stabilize-the-power-grid-launches-tennet-and-sonnen-expect-res/

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