[クローズアップ]

5G携帯は870万台、5G契約回線数は3,300万回線へ

― IDC Japanが2023年に向けた国内5G市場予測を発表 ―
2019/07/01
(月)
インプレスSmartGridニューズレター編集部

5G/IoT時代の幕開けを迎えて、IT専門調査会社であるIDC Japanは、国内5G携帯電話と5G通信サービス市場予測を発表した(2019年6月20日)(注1)。IDC Japanは、5G通信サービスに関しては2019年4月に移動通信事業者および関連企業の調査を、5G端末関連企業については同5月に調査を行い、同社の関連する国際チームと協力して結果をまとめた。
同市場予測では、①日本における5G対応携帯電話の出荷数は、2023年に870万台(携帯電話市場の28.2%)、②5Gを利用可能な通信サービス契約数は、2023年に3,300万回線(モバイル通信サービス市場の13.5%)とされた。
ここでは、これらの予測の内容を紹介する。

2025年を展望した5Gサービスのロードマップ

〔1〕10年ごとにアップデートされるモバイル市場

 2019年4月3日、世界のトップを切って、米国と韓国から同時に5Gの商用サービスが開始され、いよいよ5G時代の幕開けを迎えた。移動通信システムの本格的な普及の流れを歴史的に見ると、1980年代の第1世代(アナログ方式)、1990年代の第2世代(GSM)、2000年代の第3世代(W-CDMA)、2010年代の第4世代(LTE)、というように、ほぼ10年ごとに市場がアップデートされてきた。そして来たる2020年代には、日本も含め第5世代(NR)の本格的な商用サービスが展開されようとしている。

 このような流れの中で、特に5Gは、①超高速(20Gbps。eMBB)、②超高信頼・低遅延(1ms以下。URLLC)、③IoTデバイスの多数同時接続(100万台/km2。mMTC)という3つの視点から、これまでになく大幅なアップデートが行われているのが特徴だ。

 すでに、端末(スマートフォン、以下スマホ)と基地局間の無線区間は、移動通信システムの仕様を策定している3GPPで、5G NR(New Radio)注2という通信方式(インタフェース)の規格化が2018年6月に完了し、さらに2019年12月には5Gの心臓部であるコアネットワーク(CN:端末からのデータを処理したり、データの通信経路を割り振るネットワーク)の規格化が完了する。

 これを受けて、2020年には、法的な国際標準化機関であるITU-Rで、正式な5G標準規格(IMT-2020勧告)が策定される。

〔2〕5G市場はすぐ立ち上がるものではない

 図1は、今回発表された、2025年を展望した5Gサービスのロードマップである。図1の左側に次の5項目の展開を示した。全体として5Gの用途は、具体的に5Gコアネットワークの展開が開始される2021年頃から豊富になってくる。

図1 2025年までを展望した5Gサービスのロードマップ

図1 2025年までを展望した5Gサービスのロードマップ

出所 IDC Japan「国内5G関連市場予測:離陸する5G市場」、2019年6月20日

  1. 5G基盤(インフラ、デバイス、サービス)
  2. 顧客の体験
  3. 産業用5G
  4. スマートシティ(Society 5.0)
  5. 自動運転車

 上記の5項目を中心に2025年までの全体的な動きを概観すると次のようになる。

  • 2019年〜2020年は、5G対応スマホの登場や5GのNSA(4GのLTEコアネットワークを使用)による商用サービス、AIを使用した新しいスタジアムの体験や体験型VRなどが普及する。
  • 2021年〜2023年は、移動通信事業者の5Gコアネットワークの導入が加速される一方、5Gウェアラブルデバイスや低遅延オンラインゲーム、トラックの隊列走行などが登場する。
  • 2024年〜2025年は、5Gコアネットワークの導入によって、いよいよ5Gの本格的な普及フェーズに入る。全国的に5Gがほぼ利用可能になるのは2025年頃と見られている。超高信頼・低遅延(URLLC)のサービス開始とともに、利用分野も高度になり、ロボットや建機の遠隔制御、介護ロボットの遠隔制御が実現される。さらに運転手のいない自動運転車の遠隔操作も視野に入ってくる。

 ただし、スマートシティや自動運転車などは、社会的なインパクト(影響)が大きいため、技術的な課題のほかにも、国ごとに法制度などの整備が求められる。このため少し時間がかかると見られている。

〔3〕ローカル5GやWi-Fi、FWAと競合・共存

 また、5Gネットワークは、(5Gコアネットワークが導入されるまでは)当面「4G+5G」のハイブリッドで提供される。と同時に、ユーザーの多様なニーズに対応するため、他のネットワーク〔ローカル5Gや、Wi-Fi、固定通信サービス(FWA)〕と競合したり、複数のネットワーク技術と組み合わせて利用されたりするようになる。

 ローカル5Gとは、移動通信事業者が提供するパブリックな5Gではなく、5Gシステムを使用して、一般の企業が周波数(28GHz帯の100MHz幅が候補として挙げられている)の割当てを受け、5Gを自営無線(ローカル5G)として利用できる比較的小規模な通信ネットワークである。2019年秋には制度が整備される予定で、2020年には導入する企業も登場すると見られている。

 次に、5G市場(サービス向けインフラ市場、5G携帯電話市場)の予測を見てみよう。


▼ 注1
IDC Japanプレスリリース「国内5G市場予測を発表」、2019年6月20日
今回発表された5G対応携帯電話の市場予測は同社が発行した「Worldwide Quarterly Mobile Phone Tracker 2019Q1」に、また5G通信サービスの予測は「Worldwide Semiannual Telecom Service Database 2018H2」に報告されている。
記者発表会説明者:菅原 啓(すがわら あきら)氏:IDC Japan PC, 携帯端末&クライアントソリューション シニアマーケットアナリスト、小野 陽子(おの ようこ)氏:同 コミュニケーションズ リサーチマネージャー

▼ 注2
5G NR:5G New Radio、5Gにおける端末(スマホ)と基地局間の無線区間の新無線方式(無線インタフェース)。4GにおけるLTEに相当する部分。5G NRについては、①LTE(4G)のコアネットワークとの連携を基本とするNSA(Non-Standalone)と、②NR(5G)のコアネットワークを基本とするSA(Standalone)という2つの規格の仕様が定められた(3GPPリリース15。2018年6月。5Gフェーズ1)。
2019年12月には、5Gコアネットワークの規格の仕様策定(3GPPリリース16。5Gフェーズ2)が完了するため、それ以降は、完全な5G移動通信システムの構築が可能となる。

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