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電力システム改革第3弾! スタートする発送電の法的分離

― 送配電網の中立化に向けて分社化を完了! ―
2020/04/12
(日)
インプレスSmartGridニューズレター編集部

5年にわたる電力システム改革(2015〜2020年)の総仕上げともいえる、第3弾「発送電の法的分離」が、来たる2020年4月1日からスタートする。
「発送電の法的分離」とは、これまで一体化して電力事業を行っていた旧電力10社の、発電部門と送配電部門を分離(分社化)して、すべての電気事業者が送配電網を公平に利用できる環境を実現することである。電力システム改革第2弾「電力小売全面自由化(注1)以降、発電事業者は850社、小売電気事業者は645社に達するなど、活発な市場競争が展開されている。同時に、再生可能エネルギー(再エネ)の主力電源化に向けた動きも活発化しているが、再エネ時代の電力ビジネスでは、送電網と配電網を、全国的視点から公平かつ効率よく活用することが鍵となる。ここでは、最近認可された法的分離以後の各社の新しい事業形態を見ながら、電力システム改革の進捗状況を紹介し、今後を展望する。

電力システム改革の総仕上げ「第3弾」

 改正電気事業法に基づいて、2015〜2020年を3段階(第1弾〜第3弾)に分けて推進されてきた電力システム改革(表1)は、その総仕上げともいうべき第3弾の「発送電の法的分離」が、2020年4月1日から正式にスタートする。

表1 3段階で実施される電力システム改革と電気事業法の改正

表1 3段階で実施される電力システム改革と電気事業法の改正

※1:すべての電気事業者が加入義務のある認可法人。会員総数1,473者(会員:一般送配電事業者、送電事業者、特定送配電事業者、 小売電気事業者、発電事業者、2020年2月29日現在)
※2:電気事業法改正は、第2弾に「等」が1つ、第3弾に「等」を2つ付け微妙に異なっていることに注意
OCCTO:Organization for Cross-regional Coordination of Transmission Operators, JAPAN、電力広域的運営推進機関(略称:広域機関)
ライセンス制:「小売」(登録制)、「送配電」(許可制)、「発電」(届出制)といった事業類型ごとに新ライセンスが付与される制度(2016年4月から施行)。電気事業法の改正(2014年6月成立)に伴い、それまでの一般電気事業者(旧電力10社)による地域独占の制度を改め、電気事業におけるライセンス制(経済産業省が審査しその可否を判断)が導入された。原則として、すべての者がすべての地域で電気の小売をすることが可能になった。
出所 各種資料を参考に編集部で作成

 電力システム改革は、次のように行われてきた。

  1. 第1弾:2015年4月に、電力広域的運営推進機関(OCCTO。略称「広域機関」)が設立され、続く同9月には電力取引監視等委員会が設立された注2
    広域機関は、①全国的な視点から電気の安定供給を確保すること、②電源の広域的な活用に必要な送配電網を整備すること、③平常時や緊急時に電力の需要と供給の調整機能を強化(電力会社の供給区域を越えた融通の体制等)するなど、中立・公平な立場から取り組む機関として発足した。
  2. 第2弾:1995年以降、数回にわたる制度改革が行われたことで競争原理が導入され、発電部門は2016年4月1日以降は原則として参入が自由となった。同時に、低圧電気を使用する一般家庭や商店なども電力会社を自由に選べる、「電力小売全面自由化」となった。
  3. 第3弾:2020年4月1日から、再エネ事業者などが電力網(電力ネットワーク)をより中立的かつ公平に利用できるよう、発送電の法的分離が実施される。

発送電部門の法的分離を実施

〔1〕総括原価方式の限界と健全な市場競争

(1)総括原価方式とは

 1945年の戦後以降、日本は、電力会社がその担当地域で発電・送配電・小売を1社で独占的に行う「発送電一貫体制」で実施してきた。同時に、日本列島を9つの地域に分けて各地域に1つの電力会社を設置し、9電力会社を地域独占の電気事業会社として再編した。

 その後、1988(昭和63)年に沖縄電力が民営化され、10電力体制で運営されてきた。この10電力体制下における電力料金は、「総括原価方式」(1937年度)注3と呼ばれる計算方法が採用された。

 この総括原価方式によって、全国各地に電気を広く普及させる環境づくりはできたが、経営の効率化がしにくいことや、市場における競争原理がダイナミックにできないなどの側面もあり、電気料金が高止まりしてしまう傾向があった。

(2)3段階の電力システム改革

 そこで、世界の電力自由化の動向をとらえながら、①日本における電力の安定供給を継続し、同時に電気料金を最大限に抑制する、②一般家庭や会社などの需要家が自由に電力会社を選択できること、③多くの企業が電力事業へ自由に新規参入できる機会を拡大することを狙いとして、「電力システム改革」が行われることとなった。

 このような背景から、電力システム改革の第1弾「広域機関の設立」、第2弾「電力小売全面自由化」が実施された。

 しかし、発電部門や小売部門が自由化されても、電気事業者がつくった電気を、送配電網(電線や電柱)を利用して企業や家庭に送る送配電部門が、新規参入する電気事業者にとって公平に利用できなければ健全な市場競争は行われず、また改革も進まない。

 そこで、健全な市場競争を目指して第3弾「発送電の法的分離」が、2020年4月1日から実施されることになった。

〔2〕会計分離から法的分離へ

 歴史的に見ると、2003(平成17)年の電気事業法の改正で、送配電部門と他の部門との会計を分離(会計分離)注4することが規定された。これによって、送電部門から生じた利益を、他部門の赤字に補填することが禁止されることになった。これは発送電分離の1つの形態で、「会計分離」と呼ばれた。

 同時に、送配電部門の利用に関して、新規参入事業者を差別的に取り扱うことを禁止するなどして、送配電部門の公平性や中立性が一定程度、確保されてきた。しかし、「会計分離」方式では公平性や中立性を実現するには不十分であるとされ、2013年2月にまとめられた『電力システム改革専門委員会報告書』(全55ページ)注5では、いくつかの分離方式注6が検討された。その結果、既存の電力会社(旧10電力会社)から、送配電部門を別会社化する「法的分離」方式が選択された。

〔3〕「法的分離」を閣議決定

 2013年、送配電部門を別会社にする「法的分離」が閣議決定された。

 さらに、2015年6月に成立した改正電気事業法によって、「法的分離」が2020年に実施されることになった。これによって、送配電事業者は発電事業や小売事業を営むことを原則として禁じられることになった。この法的分離方式は、すでにフランスやドイツの一部で採用されている。

〔4〕法的分離だが地域独占は継続

 今回実施される法的分離(送配電部門の分社化)は、「送配電部門の地域独占は継続しつつ、新規参入事業者に送配電網の公平な利用」を進める仕組みである。

 その理由は、(1)送配電網全体で電気の需要と供給のバランスをとる「需給管理」や、(2)電柱や電線など送配電網の建設・保守業務については、スケールメリットの観点などから、1社が一元的に行うほうが効率的だからだ。また、一元的に管理することによって、二重投資も防止できる。

 すなわち、送配電部門に関しては、発電部門や小売部門のように、自由化によって新規参入を促進する方法ではなく、従来(旧10電力会社)のように、1つの事業者が地域独占的にサービスを提供する形態は残しながら、さまざまな新規参入事業者が送配電網を公平に利用できるよう改革が進められている。

 このため、一定の限界をかかえながらも、送配電網の公平性を確保する方法の1つとして、今回の「法的分離」が行われる。


▼ 注1
2000年3月にスタートした電力小売自由化(特別高圧:大規模工場やデパート等)は、2004年4月、2005年4月と自由化の領域を拡大(高圧:中小ビルや中小規模工場等)するなどの経緯を経て、2016年4月から「電力小売全面自由化」が実施された。

▼ 注2
電力取引監視等委員会は、ガスの市場監視も担うことから2016年4月に「電力・ガス取引監視委員会」へと改名された。

▼ 注3
総括原価方式とは、発電・送電・電力販売費、人件費など、すべての費用を「総括原価」としてコストに反映させ、その上に一定の利益を上乗せした金額が、電気の販売収入に等しくなるように電気料金を決めるという方法。この仕組みは、基幹産業である電力会社を保護する目的から電気事業法で保証されたものであった。

▼ 注4
会計分離:電力会社の送配電部門の会計を発電、小売その他の部門から切り離して独立させることによって、送配電の中立性を高め、電力自由化を促進する方式。

▼ 注5
『電力システム改革専門委員会報告書』、2013年2月

▼ 注6
資源エネルギー庁「2020年、送配電部門の分社化で電気がさらに変わる」、2017年11月30日

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