[新動向]

洋上風力発電の低コスト化と導入拡大に1,195億円を投入!

― 42社が4分野・18テーマで要素技術の研究開発を推進 ―
2022/02/05
(土)
インプレスSmartGridニューズレター編集部

日本における洋上風力発電の導入目標である「①2030年までに10GW、②2040年までに30〜45GW」の実現に向けて、本格的なプロジェクトが動き出した。
持続可能な社会の実現に必要な技術開発の推進を通じて、イノベーションの創出を目指す「NEDO」(新エネルギー・産業技術総合開発機構)は、2022年1月21日、電力会社や技術開発メーカーなど延べ42社が参加する、浮体式を中心とした「グリーンイノベーション基金事業/洋上風力発電の低コスト化」プロジェクトに着手した。(注1)。同プロジェクトは、グリーンイノベーション基金事業(基金総額2兆円、後述)の一環として実施される。
プロジェクトの実施によって機器や設置・運用コストが低減され、再生可能エネルギー(以下、再エネ)の主力電源化に向けた切り札として期待されている洋上風力発電産業が活性化するのか。ここでは、同プロジェクトの全体像と、洋上風力関連の電気システム技術開発事業を中心に見ていく。

日本の再エネに関する2大プロジェクトの1つ

 今回発表された「洋上風力発電の低コスト化」プロジェクトは、2021年末に発表された「次世代型太陽電池の開発」プロジェクト(表1、図1、コラム参照)注2と並び、日本の再エネに関する2大国家プロジェクトの1つである。

表1 「グリーンイノベーション基金事業/次世代型太陽電池の開発」実施予定先一覧

表1 「グリーンイノベーション基金事業/次世代型太陽電池の開発」実施予定先一覧

【実施期間:2021~2025年度(予定)、予算額:200億円(全体498億円の内数)】
※実施予定先が複数あるテーマの幹事企業
R2R:Roll to Roll、ロール・ツー・ロール製造技術。太陽電池をはじめとするフレキシブルデバイスの量産化に向けて、重要な製造技術の1つ。1つのローラーから別のローラーに転写されるフレキシブル基板材料上に電子デバイスを形成するために使用される製造技術
出所 https://www.nedo.go.jp/content/100940817.pdf

 また、太陽光発電とともにグリーン成長戦略(後述)のトップに位置づけられた、日本の脱炭素に向けたグリーンイノベーション基金事業の戦略的な国家プロジェクトでもある。

 「洋上風力発電の低コスト化」プロジェクトは、後述する表2に示すように、延べ42社が4分野を対象として、18テーマの要素技術研究開発を推進する。

グリーンイノベーション基金で企業の挑戦を後押し

 グリーンイノベーション基金事業とは、政府が2020年10月に「2050年カーボンニュートラル」を実現すると宣言したが、これを実現するために、エネルギー・産業部門の構造転換などによるイノベーションを大きく加速させる事業である。

 このため政府は、「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」(2020年12月)を発表し、今後成長が期待される、次の14分野の産業を特定した。

①洋上風力・太陽光・地熱(再エネ)、②水素・燃料アンモニア、③次世代熱エネルギー、④原子力、⑤自動車・蓄電池、⑥半導体・情報通信、⑦船舶、⑧物流・人流・土木インフラ、⑨食料・農林水、⑩航空機、⑪カーボンリサイクル・マテリアル、⑫住宅・建築物・次世代電力マネジメント⑬資源循環関連、⑭ライフスタイル関連

 これと同時に、経済産業省はNEDOに総額2兆円のグリーンイノベーション基金注3を造成し、上記の14分野に取り組む企業の野心的な挑戦を後押しするため、研究開発や実証、社会実装に至るまで10年間継続して支援することになった。

 その後、「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」は、グリーン成長戦略のさらなる具体化が行われ、2021年6月、その最新版が策定されて発表された注4

【コラム】ペロブスカイト太陽電池とは

 ペロブスカイト(Perovskite)とは、チタン酸カルシウム(灰チタン石、CaTiO3)の結晶構造を発見したロシアの研究者、Lev. Perovski(レフ・ペロフスキー)にちなんで命名された結晶構造のこと。

 ペロブスカイト太陽電池は、このペロブスカイトと呼ばれる結晶構造をもつ材料を発電層として用いた太陽電池の総称である。ノーベル賞受賞の有力候補ともなった、桐蔭横浜大学大学院 工学研究科の宮坂 力(みやさか つとむ)教授によって、世界で初めてペロブスカイト化合物を太陽電池に応用した発表が行われた(2009年)。

 ペロブスカイト太陽電池は、既存のシリコン系太陽電池(変換効率は25%以下)を大幅に上回る、変換効率30%以上の太陽電池の開発を目指している。

 これは既存の太陽電池に比べて、

  1. 少ない製造工程で製造が可能(製造コストの減少)、かつ製造技術においても高度な塗布技術をもつ日本に優位性がある。
  2. プラスチックなどの軽量基板の利用が容易であり軽量性や柔軟性を確保しやすい。
  3. 主要な材料であるヨウ素の生産量は、日本が世界シェア30%を占めている。

のような特徴をもち、シリコン系太陽電池に対して高い競争力が期待されている。

[参考資料]
https://www.jst.go.jp/seika/bt107-108.html
https://www.enecho.meti.go.jp/committee/studygroup/ene_situation/006/pdf/006_011_05.pdf


▼ 注1
NEDOニュースリリース、グリーンイノベーション基金事業、「洋上風力発電の低コスト化」に着手、2022年1月21日

▼ 注2
NEDOニュースリリース、「グリーンイノベーション基金事業で、次世代型太陽電池の開発に着手」(2021年12月28日)。プロジェクトの実施期間は2021〜2025年度で、予算額は200億円(総予算全体498億円の内数)

▼ 注3
NEDO、グリーンイノベーション基金とは

▼ 注4
経済産業省、「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略を策定しました」、2021年6月18日

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