[標準化動向]

市場を拡大するワイヤレス電力伝送(WPT)と最新の標準化動向

─ウェアラブルからタブレット、電気自動車まで ─
2015/01/29
(木)
SmartGridニューズレター編集部

スマートフォンやタブレット、ウェアラブル機器の普及に加え、電気自動車(EV/PHEV)などの登場を背景に、無線技術を使用して電力を送る「ワイヤレス電力伝送」(WPT、ワイヤレス給電ともいわれる)が注目され、普及し始めている。さらに国際標準化も活発化している。
ここでは、「スマートグリッドとEMCにおける最新動向」(2014年12月4日)と題する2014 EMC環境フォーラム(チェアパーソン:東京都市大学 名誉教授 徳田正満氏)から、東芝 研究センター 研究主幹(BWF WPT-WGリーダ)庄木 裕樹(しょうき ひろき)氏による「ワイヤレス電力伝送システムの国内制度化、国際協調、標準規格化の動向」の講演内容をベースに、最新動向などを加えてレポートする。

ワイヤレス電力伝送とは

 「ワイヤレス電力伝送」(WPT:Wireless Power Transfer/ Transmission)とは、図1の磁気共鳴方式の例に示すように、基本的に、送電側のコイル(磁気共振器)と受電側のコイル(磁気共振器)を利用して(相互にリンクさせて)、電力をワイヤレスに送電/受電する仕組みである。

図1 ワイヤレス電力伝送(WPT)の仕組み(磁界共振方式)と解決すべき課題

図1 ワイヤレス電力伝送(WPT)の仕組み(磁界共振方式)と解決すべき課題

〔出所 庄木裕樹、「第20回 EMC環境フォーラム」、2014年12月4日より〕

 このワイヤレス電力伝送方式には、電磁誘導方式、電波放射方式、磁界共振(磁気共鳴)方式という3つの方式がある(表1)。

表1 ワイヤレス電力伝送(WPT)の3方式

表1 ワイヤレス電力伝送(WPT)の3方式

〔1〕WPCの「Qi」規格:最大5Wから10〜15Wへ

 ワイヤレス電力伝送(WPT)技術として、すでに携帯電話やスマートフォン、デジカメなどの家電機器向けの業界団体である「WPC」(Wireless Power Consortium、2008年12月設立)では、電磁誘導方式を主体とする「Qi」(チー)規格注1が標準化され普及している(写真1)。

写真1 ワイヤレス充電規格「Qi」(チー)対応の製品例(日立マクセル製)

写真1 ワイヤレス充電規格「Qi」(チー)対応の製品例(日立マクセル製)

〔出所 http://www.maxell.co.jp/dbps_data/_material_/localhost/htdoc/news/2014/_res/news_pdf/maxell_news140911.pdf

 これは、送信電力最大5W(周波数110〜205kHz)の低電力向け規格で、送電距離は数mm〜10cmで1対1の給電方式である。最新規格として、Qiバージョン1.1.2(2013年6月)が発表されている注2

 同コンソーシアムでは、次期規格として送信電力を10〜15Wまで拡大させて、さらに調理器具用途などを対象とした数kWクラスの規格についても検討している。

〔2〕A4WPの「Rezence」規格:最大50W(BSS V1.3)を発表

 また、クアルコムやインテル、富士通、東芝、サムスン、パナソニックなどが参加している業界団体「A4WP」注3は、2013年12月にワイヤレス電力伝送技術「Rezence」(レゼンス)を発表している。

 同技術は、Qiとは異なる磁界共振方式を採用し、複数の機器を同時に給電することが可能であり、送信電力の距離が数十cm〜1m程度と広いことが特徴のひとつである。

 2012年11月のBSS V1.0(Rezence Base-line System Specification Version 1.0)規格に続いて、2013年12月に発表されたBSS V1.2規格では、受信側の給電能力が3.5〜6.5Wとパワーアップされている。

 現在、BSS V1.3が策定されているが、A4WPアライアンスは2014年6月に、機能の拡張規格を発表し、世界で初めて給電電力が最大50W(使用周波数:6.78MHz)まで可能なWPTシステムとなった(写真2)。これによって、ノートパソコンやタブレットなどの充電にも対応できる規格となった。さらに、A4WPアライアンスでは、新しいウェアラブル市場に向けた、低消費電力用にBSS V1.4規格仕様が策定されている。

写真2 給電電力が最大50Wの「Rezence」。ノートパソコンやタブレットの充電にも対応できる規格(A4WP)

写真2 給電電力が最大50Wの「Rezence」。ノートパソコンやタブレットの充電にも対応できる規格(A4WP)

〔出所 http://www.rezence.com/ja

〔3〕A4WPとPMAが合併(組織統合)を発表

 一方、このワイヤレス電力伝送技術を推進するA4WPとスターバックスやAT&Tなどが推進するPMA(Power Matters Alliance注4は、すでに、それぞれが進めてきた給電技術を相互に補強しあう関係で統合することで、2014年2月に合意しているが、さらにA4WPとPMAの両者は、2015年1月5日(現地時間)に、合併(組織統合)することを発表し、2015年中頃までに手続きを完了する注5


▼ 注1
Qi(チー)規格:ベライゾンやクアルコム、パナソニック、東芝、TIなど230社(2015年1月10日現在)が参加するWPC(ワイヤレスパワーコンソーシアム)において2010年3月に策定された電磁誘導によって非接触で充電(給電)する標準規格。「チー」と発音。アジア哲学における「気」、目に見えない力の流れを意味する。
有線ケーブルから解放されて「いつでもどこでも好きな場所で充電したい」という新しい充電スタイルを実現する。

▼ 注2
http://www.wirelesspowerconsortium.com/jp/developers/grace-period-explanation.html

▼ 注3
A4WP:Alliance for Wire-less Power、磁界共振方式を採用したワイヤレス電力伝送のアライアンス。2012年5月に設立。なお、Rezenceは「Resonance」(共鳴)と「Essence」(本質)の合成語。

▼ 注4
PMA:Power Matters Alli-ance、電磁誘導型を採用したワイヤレス電力伝送のアライアンス。IEEE−SAの内部組織として2012年3月に設立。

▼ 注5
http://www.rezence.com/media/news/alliance-wireless-power-and-power-matters-alliance-agree-merge

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