[標準化動向]

802.1/802.3の標準化動向(7):家庭向けオーディオ・ビデオ・ブリッジング(AVB)の標準化

2007/07/09
(月)

今回は、IEEE 802委員会の802.1 WG(ブリッジ/VLAN/アーキテクチャ)のホット・トピックスとして、「オーディオ/ビデオ・ブリッジング(AVB)・タスク・グループ」において進められているオーディオ・ビデオ・ブリッジ「AVB 」(Audio/Video Bridging、オーディオ/ビデオ・ブリッジング)の標準化とその内容を取り上げて紹介する。

≪1≫IEEE 802.1 AVB方式のイメージと登場の背景

802.1 AVB(オーディオ・ビデオ・ブリッジ方式)は、家庭内のオーディオ・ビデオ機器に代表されるマルチメディア機器やパソコンを接続し、音楽や高精細な動画のストリーム・トラフィックをやりとりするための方式を規定する方式である。広く普及したイーサネットを活用して、家庭内のオーディオ機器やビデオ機器、パソコン、レジデンシャル・ゲートウェイ、セット・トップ・ボックス(STB)など、あらゆるマルチメディア機器をつなぐための「家庭内バックボーン網」を提供しようというものである(図1)。

このようなマルチメディア向けの通信方式として、現在は広くIEEE1394 ※1 (FireWire または i.Linkなどと呼ばれる)が使用されており、多くのオーディオ機器、ビデオ機器や、マルチメディア対応のパソコンに装備されるようになってきている。しかし、多くの場合、これらのインタフェースは、テレビとビデオ・デッキを直接接続するなど、周辺機器接続の用途に留まっている。

一方、イーサネットは、家庭内のマルチメディア機器を接続するうえで必要となる、次のような基本的な資質がすべて揃っている。

(1)汎用性 (広く普及していること)
(2)廉価性 (価格が安いこと)
(3)高速伝送 (100Mbps、1Gbps、10Gbps)
(4)取り扱いの容易さ (LANケーブルは取り扱いが容易)
(5)伝送距離 (100m、家庭向けでは十分な距離)
(6)電力供給 (PoE ※2 により周辺機器への電力供給が可能)

これらの基本的な資質に、マルチメディア伝送を行うための仕組みを付加することによって、IEEE1394などの接続をイーサネットに置き換え、家庭内のすべてのマルチメディア機器を収容する「ユニバーサル・リンク」を提供しようというのがIEEE802.1 AVBの目的である。

図1 IEEE802.1 AVBの利用イメージ

図1 IEEE802.1 AVBの利用イメージ(クリックで拡大)

用語解説

※1 IEEE1394:IEEE(電気電子技術者協会)が定めるデジタルAV機器(DVDやSTB等)を相互に接続する「デジタル・ケーブル」の規格。通常、「FireWire」(アップルによって提唱)や「i.LINK」(ソニーによって提唱)などと呼ばれることもある。
※2 PoE:Power over Ethernet。IEEE802.3afに規定されるイーサネットの電力供給方式。スイッチからUTPケーブル経由で接続機器に最大12W程度の電力を供給することが可能。最大30W(目標)を提供するためのPoE Plus (IEEE802.3at)の標準化も進められている。

≪2≫IEEE 802.1 AVB規格の構成

現在、802.1 AVBでは次のような目標仕様が検討されている(図2)。
(1)低遅延:7ホップ〔6台のブリッジ(スイッチ)をまたぐ中継〕において、2ミリ秒(クラス5)または8~16ミリ秒(クラス4)以内〕
(2)時刻同期:7ホップ内の端末すべてが1マイクロ秒以内の誤差で同期
(3)帯域確保: 上記の低遅延性を守るため、ストリーム・トラフィックが帯域を確保する仕組みを提供する

図2 802.1 AVB網と7ホップの定義
図2 802.1 AVB網と7ホップの定義 (クリックで拡大)

上記の目標仕様を実現するため、IEEE802.1 AVBでは、次のような複数の規格を規定する(図3)。

(1) 3つのコンポーネント規格
 IEEE802.1AS :Time Synch (時刻同期プロトコル)
 IEEE802.1Qat :ストリーム予約プロトコル
 IEEE802.1Qav :ストリーム中継方式

(2) AVB本体規格 (IEEE802.1 AVB
AVB網の全体像や、上記3つのコンポーネント規格や既存のイーサネット規格を使用してAVB網を実現するための要求事項やベスト・プラクティス(推奨実装仕様)を規定する。

※ AVB本体規格については、標準の正式名称は未定。

図3 IEEE802.1 AVBの規格構成
図3 IEEE802.1 AVBの規格構成(クリックで拡大)

これらIEEE802.1におけるAVB網の規格に加えて、IEEE MSC(Microprocessor Standards Committee)においてイーサネットやIP上のオーディオ・ビデオのストリーム転送プロトコル (AVB-TP:Audio Video Bridging Transport Protocol)の標準化を行っているが、本稿において解説は行わない。

≪3≫802.1 AVB:コンポーネント規格の概要

【1】IEEE802.1AS:時刻同期プロトコル

例えば、オーディオ機器のスピーカーにおいて、右スピーカーと左スピーカーが、同じタイミングで左右の音を鳴らすためには、それぞれのスピーカーが正確に同期した時刻をもっていて、同じ時刻に音を鳴らす必要がある。スピーカーのような再生機器に限らず、ギターや電子ピアノなどの複数音源をミックスするような場合でも、音源となる複数機器が正確に同期した時刻をもっていることが必要となる。このような、複数端末間の時刻同期の仕組みを提供するのがIEEE802.1AS規格の目的である。

IEEE802.1ASは、IEEE1588 (計測機器および制御機器用時刻同期プロトコル ※3)をベースとして、家電用途に仕様の簡略化を行ったものである。IEEE802.1ASでは、網内全体に対しての時刻供給源となる「グランド・マスタ・クロック」を決定するための選別動作と、グランド・マスタ・クロックからそれぞれの端末やブリッジ(スイッチ)に対して時刻情報を配信するためのプロトコルを規定する。IEEE802.1ASを用いることで、AVB網内では、すべての端末が1マイクロ秒以内の精度で同期した時刻をもつことが可能となる。図4に、IEEE802.1ASの時刻同期プロトコルによるクロックの構成例を示す。

※3  IEEE1588:IEEE1588-2002 Precision Clock Synchronization Protocol for Networked Measurement and Control Systems

図4 IEEE802.1AS時刻同期プロトコルによるクロック構成例
図4 IEEE802.1AS時刻同期プロトコルによるクロック構成例(クリックで拡大)

【2】IEEE802.1Qat:ストリーム予約プロトコル

IEEE802.1Qatでは、ストリーム・トラフィックを配信するための予約プロトコルを規定する。基本的にはIGMPなどのように、網内の配信元(Talker、トーカー)に対して、ストリームの受信者(Listener、リスナー)が、リスナー登録をするためのプロトコルである。

図5に、リスナー登録の流れを示す。リスナーからのリスナー登録を受け取ったスイッチは、リスナー登録を受け取ったポートを配信先ポートとして登録し、上流(トーカーの接続されている方向)に対して、リスナー登録を転送する。各スイッチが、このような動作を繰り返して、トーカーに対してリスナー登録が伝搬される。

図5 IEEE802.1Qat ストリーム予約プロトコルにおけるリスナー登録の流れ
図5 IEEE802.1Qat ストリーム予約プロトコルにおけるリスナー登録の流れ(クリックで拡大)

リスナー登録が完了すると、トーカーは、要求されたストリームに応じた帯域を予約するための予約要求を網に対して発信する。図6に帯域予約の流れを示す。

リスナー登録を受け取ったトーカーは、ネットワークに対して帯域予約要求を送信する。帯域予約要求を受け取ったブリッジ(スイッチ)は、ストリーム中継に必要な予約帯域を登録した上で、下流(リスナーの接続されている方向)に対して帯域予約要求を転送する。

各スイッチが、このような動作を繰り返して、リスナーまでのストリーム中継帯域の確保が行われる。すでに帯域が予約されていて、新たな帯域が確保できない場合、「予約失敗」のステータス・フラグが立った帯域予約要求を下流に対して伝搬する。

図6 IEEE802.1Qat ストリーム予約プロトコルにおける帯域予約の流れ
図6 IEEE802.1Qat ストリーム予約プロトコルにおける帯域予約の流れ(クリックで拡大)

【3】IEEE802.1Qav:ストリーム中継方式

IEEE802.1Qavでは、ストリーム中継のために拡張された転送(Forwarding)とキューイング(Queuing、待ち行列)の方式を規定する。具体的には、IEEE802.1p (IEEE802.1Q amendment、IEEE802.1Qの補追。現在はIEEE802.1Q-2005の一部として取り込まれている)において規定されている8つのベストエフォートに基づいた優先制御(QoS:Quality of Service)のクラスとは別に、AVBストリーム用のクラスを、2種類(AVBクラス4とクラス5)を規定して、それぞれのクラスにおいて、規定遅延時間内の転送を保証するというものである。

 

規定遅延時間の目標値は、最大7ホップのAVB網において、クラス5で2ミリ秒(1ブリッジ辺り約125マイクロ秒)、クラス4で8~16ミリ秒(1ブリッジあたり1~2ミリ秒)以内である。

 

図7 IEEE802.1Qav ストリーム中継方式の概念
図7 IEEE802.1Qav ストリーム中継方式の概念(クリックで拡大)

≪4≫802.1 AVBの標準化状況

IEEE802.1AVBは、2004年7月から「家庭向けイーサネット(Residential Ethernet)」として、IEEE802.3WGにおいて標準化が検討されてきた。しかし、検討の結果、イーサネット自体ではなく、ブリッジの動作の規定によって実現が可能との判断が行われ、2005年11月からIEEE802.1WGにおいて標準化が進められている。最新のIEEE802.1 AVB規格のドラフトは、表1の通りである。

表1 最新のIEEE802.1 AVB規格のドラフト
表1 最新のIEEE802.1 AVB規格のドラフト(クリックで拡大)

当初の目標としては、2006年中に技術仕様の確定を行い、2007年度内に標準化を完了する予定であったが、未だすべてのドラフトが揃わない状況である。すべての標準が出そろい、標準化が完了は2008年度以降となるものと予想される。

IEEE802.1AVBは、スイッチLSIメーカーのブロードコム社のマイケル・ティーナ(Michael Johas Teener)氏が議長を務める。その他、韓国のサムソン社や、米国のスイッチLSIメーカーのマーベル社、ネットワーク機器ベンダとしてシスコシステムズ社、ノーテルネットワークス社などが参加して、標準化が推進されている。

参考文献

1) “Residential Ethernet IEEE802.3 Call for Interest”, Richard Brand, et.al, 2004/7, http://www.ieee802.org/3/re_study/public/200407/cfi_0704_1.pdf

2) “Ethernet AV summary”, Michael Johas Teener, 2006/4/25, http://www.ieee802.org/1/files/public/docs2006/avb-mjt-EthernetAV-summary-060425.pdf

3) “IEEE802.1AS D0.8 - Timing and Synchronization for Time-Sensitive Applications in Bridged Local Area Networks”, 2007/5/28

4) “IEEE802.1Qat D0.7 - Stream Reservation Protocol (SRP)”, 2007/5/23

5) “IEEE802.1Qav D0.0 - Forwarding and Queuing Enhancements for Time-Sensitive Streams”, 2007/5/10

6) “AV Bridging and Ethernet AV”, Michael Johas Teener, 2006/11, http://www3.ietf.org/proceedings/06nov/slides/tsvarea-1.pdf

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