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アメリカのエネルギー省が、燃料電池車の低価格化に向けた研究に1580万ドルを拠出

2017/06/13
(火)
SmartGridニューズレター編集部

アメリカ合衆国エネルギー省は、燃料電池車関連の新規の研究60件に合計で1580万ドルを支給すると発表した。

アメリカ合衆国エネルギー省(The U.S. Department of Energy:DOE)は2017年6月8日(現地時間)、燃料電池車関連の新規の研究60件に合計で1580万ドル(17億3800万円:1ドル=110円で換算)を支給すると発表した。燃料電池や水素製造装置、水素貯蔵タンクなど、燃料電池を搭載する乗用車の導入、運用コストを下げる、新しい、安価な素材の研究に対して支給するとしている。

選定を受けた研究チームには、DOEが全米20カ所ほどで運営している国立研究所が連携するネットワークである「Energy Materials Network」の協力を得ることができる。国立研究所が保有している高価な研究施設や、世界的な研究の成果などを活用して、次世代の燃料電池などに活用できる素材を早期に開発できる可能性があるとしている。

募集に当たってDOEは重点テーマを4つ設定している。1つ目はプラチナ(白金)を使用しない触媒と電極の開発。燃料電池車の車両価格を引き上げている要因の1つに、燃料電池が水素と酸素を反応させるときに使用する触媒が挙げられる。この触媒にわずかながらプラチナを使用しているのだが、プラチナは希少金属であり、その価格は貴金属である金とさほど変わらない。そして、電気分解で水から水素を精製する際に使用する電極もプラチナを使っていることが多い。燃料電池車の導入と運用のコストを下げるには、プラチナに代わる安価な素材を開発することが絶対条件となっているのだ。

図 トヨタ自動車の「MIRAI」(左)。価格は723万6000円(税込)。本田技研工業の「CLARITY FUEL CELL」(右)。価格は766万円(税込)。かなり高いと言わざるを得ない

図 トヨタ自動車の「MIRAI」(左)。価格は723万6000円(税込)。本田技研工業の「CLARITY FUEL CELL」(右)。価格は766万円(税込)。かなり高いと言わざるを得ない

出所 トヨタ自動車、本田技研工業

2つ目は水素の精製に使用する素材の開発だ。電気分解も、光触媒を使う方法も、熱化学水素製造法も、燃料電池車に供給する水素を製造するにはコスト効率があまり良くない。この効率を上げるために役立つ素材の研究を支援するというわけだ。

3つ目は、水素を吸蔵して貯蔵する物質の開発だ。水素を吸蔵する物質としては水素吸蔵合金があるが、重いため乗用車型の燃料電池車が搭載することはない。DOEはこの問題を「未解決の挑戦」と位置づけ、水素を吸蔵できて、現実的なコストで利用でき、乗用車にも載せられる素材を求めている。

4つ目は、低コストで製造できて引っ張り強度が高い炭素繊維(カーボンファイバー)の開発につながる物質だ。これも水素を貯蔵するタンクを低コストで、より高性能なものにするための研究だ。現時点で、水素タンクに使用している炭素繊維の半分のコストで製造可能にすることを目指しているという。

DOEが掲げた4つのテーマをすべて解決できたら、燃料電池車が本格的に普及する時代がやってくるだろう。研究がうまくいくことを祈りたい。


■リンク
アメリカ合衆国エネルギー省

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