Q19:コンテンツIDとは?
最近、コンテンツID(コンテンツ識別子)という用語を耳にするようになりましたが、これは何のことでしょうか?
メタデータによって目的のコンテンツを見つけ出すことができたら、次のプロセスは、そのコンテンツがどこにあるかを見つけ出すことです。つまり、未来のデジタル放送環境においては、そのコンテンツはあるテレビ局が今日の夕方に放送するかもしれませんし、インターネット上のコンテンツ配給会社が自社のサーバに蓄積しているかもしれません。さらには、無料ですが品質の悪いコンテンツを配ってくれるところもあれば、有料ですが品質の良いものを配ってくれるところもあるでしょう。このように、目的のコンテンツにたどり着いたとしても、同じタイトルで複数のコンテンツが利用可能な場合が考えられます。
≪1≫コンテンツを見分けるための識別子
このような状況で必要となるのは、個々のコンテンツをひとつひとつ見分けるための識別子の付与です。識別子は、個々のコンテンツに一意に付与されている必要があります。このような識別子を「コンテンツID(Identifier、識別子)」と呼んでおり、さまざまなコンテンツIDが、さまざまな標準化団体によって定められています。
また、TV-Anytimeフォーラム(2005年7月に活動を終了し、その規格はETSI標準となっている)と呼ばれる標準化組織では、「コンテンツ参照ID」というIDを定めており、実際にコンテンツが蓄えられている場所は、ローケーションという別の識別子によって指し示される仕組みを提供しています。
≪2≫コンテンツ制作現場におけるデジタル技術の導入
コンテンツの制作現場には、すでにさまざまなデジタル技術の導入が始まっています。例えば、デジタル・シネマと呼ばれる映画の制作においては、旧来のフィルムは一切使用されません。カメラで撮影された映像はフィルムに焼き付けるのではなくハードディスクに蓄えられます。また、編集はフィルムの切り貼りではなくすべてデジタル処理が可能なノンリニア編集機によって行われます。この結果、映画館への配給はフィルムの物流ではなくネットワークによるデータ転送、また、映画館における上映はフィルムによる投影ではなくデジタル投影機によって直接行われることになります(表1-1)。
コンテンツという観点からは、映画もテレビ番組も変わりませんので、同様な流れがテレビ番組制作にも起こっています。このようなデジタル技術の導入は、例えば、複雑な編集処理を効率的に手早く行えるという利点があるため、今後はさらに積極的に利用されていくでしょう。
このことは「Q18 メタデータ(Metadata)とは?」で述べた、メタデータの付与と密接な関わりがあります。つまり、ある種のメタデータは、映像の編集中に発生します。例えば、番組の内容はシーンやカットを単位として成り立っているといえますので、それぞれのシーンやカットごとにキーワードなどを付与すれば、より詳しく番組の内容、すなわちメタデータを記述することができます。
編集済みの番組からこのようなメタデータを抽出するためには、人間が番組を最初から視聴して行わなければならないため、効率が非常に悪くなります。そのため、撮影の最中や、編集中に自動的にメタデータを付与して、メタデータの作成を効率化するということが考えられます。
このような観点から、MXF(Material Exchange Format、マテリアル交換フォーマット)と呼ばれる編集情報を記述するメタデータの標準化も、Pro-MPEGフォーラム(Professional-MPEG Forum)やAAF(Advanced Authoring Format)アソシエーション(http://www.aafassociation.org/)によって行われました。
このようなコンテンツの作成の仕方はまだまだ始まったばかりですが、デジタル放送が浸透してくるにつれて、当たり前のように使われることになることでしょう。
※この「Q&Aで学ぶ基礎技術:デジタル放送編」は、著者の承諾を得て、好評発売中の「改訂版 デジタル放送教科書(下)」の第1章に最新情報を加えて一部修正し、転載したものです。ご了承ください。