[創刊10周年記念:座談会]

電力・エネルギー危機で、持続可能なエネルギーをどう選択・構築していくか!【前編】

― 脱炭素への短期/中期/長期的なエネルギー政策の行方 ―
2022/11/13
(日)
インプレスSmartGridニューズレター編集部

地球温暖化に伴う気候危機、継続する新型コロナ禍やロシアのウクライナ侵攻の影響で、世界的に電力・エネルギー危機に直面し、日本でも電力料金が高騰を続けている。特に、エネルギー自給率が11.2%(2020年度)と低い日本は、間もなく迎える厳冬期のエネルギー危機にどう対処すべきか、喫緊の課題となっている。一方で、世界的な課題である2050年カーボンニュートラル(脱炭素)への取り組みも待ったなしの状況である。 今回、『インプレスSmartGridニューズレター』創刊10周年の記念座談会(参加者:本誌編集委員、表1)を開催し、日本の電力需給ひっ迫に関する短期的な対応策や中・長期的な対応策、さらに、それらを支える技術や新しい制度、新しいエネルギーへの取り組み動向について、活発に議論していただいた。その議論の内容を【前編】(第1部〜3部)と【後編】(第4部〜5部)に分けて掲載する。

【第1部】

電力危機「需給ひっ迫」とアグリゲーターライセンス制度の導入

― 変化した「電力会社と需要家(企業・家庭)」の関係 ―

表1 座談会出席者(本誌編集委員:敬称略・順不同、2022年8月時点)

表1 座談会出席者(本誌編集委員:敬称略・順不同、2022年8月時点)

出所 インプレスSmartGrid ニューズレター編集部

電力危機:「需給ひっ迫」で直面していること

〔1〕大きく変化した「電力会社と需要家(企業・家庭)」の関係

江﨑:現在、世界中が2050年カーボンニュートラル(脱炭素)を目指す過程にありますが、ロシアのウクライナ侵攻などを背景に「電力・エネルギー危機」を迎えています。

 日本では、政府から2022年3月21日に初の電力の「需給ひっ迫警報」が、続く6月26日には初の「需給ひっ迫注意報」が発令されました。

 そこで、「今後、持続可能なエネルギーをどう選択し、構築したらよいか」「脱炭素へ向けて、短期的・中期的・長期的なエネルギー政策の行方」という内容で、経験豊富な皆さんから、お話をいただきたいと思います。最初は短期的なお話からお願いします。

 そもそも、本当にエネルギーが足りてないのか、kW(発電能力)とkWh(発電量)の区別ができてない問題(表2参照)など、初歩的なことも含めてお願いします。

表2 kWとkWhの違い(単位としてW、kW、MW等があるが、ここではkWの場合で説明)

表2 kWとkWhの違い(単位としてW、kW、MW等があるが、ここではkWの場合で説明)

出所 各種資料をもとに編集部で作成

 それでは勝又さん、トップバッターとして、東京電力で長年、発電・送電・配電など電力システム注1の運用の責任者としてもご活躍され、状況をよくご存じだと思いますが、率直なお話をお願いします。

勝又:本題に入る前に、電力のシステム改革以降、これまでの「電力会社と需要家(企業・家庭)」の関係は、図1に示すように、アグリゲーターライセンス制度注2の導入によって、大きく「電力会社注3とアグリゲーターと需要家(企業・家庭)」という関係に変化し、取引の流れ(依頼の流れ、電気の流れ、報酬の流れ)も図1のように変化しました。

図1 脱炭素時代の電力システムと「電力会社」「アグリゲータ—」「需要家」の関係

図1 脱炭素時代の電力システムと「電力会社」「アグリゲータ—」「需要家」の関係

出所 資源エネルギー庁のWebサイトより

〔2〕短期的には大きな停電が起こるのではないか、と懸念

勝又:以上のことを念頭においていただき、私の長年の経験から本音を申しますと、短期的には大きな停電が起こるのではないか、と懸念しています。

 実のところを申しますと、電気の発電容量(kW)は、何十年も前からいつも足りない状態なのです。なのに、なぜ停電が少なかったかといいますと、電力システムがネットワークで接続されたシステムだからです。発電も、送電・配電(ネットワーク)も、需要側の企業や家庭(需要家)も、全部ひっくるめてシステムになっています。それを「発送電の法的分離」のように一部だけ区切って、発電だけで議論するとか、ネットワークだけで議論するということに無理があるのです。

 それでは、発電容量(kW)がいつも足りなかったのに、なぜ、停電が少なかったのか。これまでは発電容量(kW)が足りていない電力システムを、見かけ上、足りているように見せかける仕組みがあったのです。具体的には、需給調整契約注4に基づく調整電力(単位:万kW)というのがあり、東京電力の場合は、系統容量が6,000万kW前後の年代は250万~300万kW程度ありました。

〔3〕揚水発電と蓄電池で需給ひっ迫を乗り越えた

勝又:この調整電力をうまく活用して、24時間365日のうちの電力需要の多い、夏期のわずか数時間程度のピークをしのいできたのです。わずか数時間程度のピークのために、発電設備をもつ(増設する)というのは経済的な合理性がないからです。

 需給調整契約に基づく調整電力は、各電力会社がもっています。この調整電力用として、例えば、原子力発電による夜間の電力を蓄電するために、東京電力管内では、山梨県の葛野川(かずのがわ、120万kW)や群馬県の神流川(かんながわ、94万kW)などに揚水発電所注5注6が次々に建設され、740万kWくらいの揚水発電所をつくって対応してきました。

 さらに、試験的に変電所の敷地内に蓄電池を設置して対応したこともありました。現在、電力が不足しているのに、再生可能エネルギー(以降、再エネ)の発電抑制などが行われていますが、これはもったいない話で、先述したように、変電所でピーク電力を吸収できるようにkW調整の仕組みを作ってしまえば問題ないのではないかと思います。

電力会社の調整電力は何万kWあればよいのか?

〔1〕小規模需要家までDRが適用可能へ

江﨑:勝又さんの発言に関して、何か関連するご意見はありませんか?

浅野:その昔(1980年代ですが)私が学生の頃、修士論文や博士論文でデマンドサイドマネジメント注7の研究(昔はそれをロードマネジメント、需給調整契約と呼んでいた)をしていました。今、勝又さんがおっしゃられたように、緊急時の調整契約や時間帯別の調整契約などについて、「いったい各電力会社に何万kWの調整電力があって、それはどれくらの規模が適正な量なのか」というような研究をしていました。

 それ以降、電力市場の規制緩和(自由化)が進んで、2003年にJEPX(日本卸電力取引所)注8ができました。現在、電力料金について、市場連動型〔つまりダイナミックプライシング(変動料金制)〕が騒がれていますが、理論的には、この料金制度を実現できることは昔からわかっていました。

 その後、ICT(情報通信技術)が発達したり、電力市場の制度設計を行ったりして、ようやく現在、小規模需要家までDR(デマンドレスポンス)が適用できるようになってきたのです。

〔2〕12年前に4地区ですでに実証済みであった!

浅野:これらについては、すでに、十数年前の2010年(平成22年)から、政府によって、「次世代エネルギー・社会システム実証」注9というプロジェクトが、横浜・豊田市・けいはんな学園都市・北九州市の4地区で行われ、ダイナミックプライシングの効果や自動的にDRができるシステムもできていました。当時、米国の一部では、実際、DRが採用され稼働していました。

江﨑:つまりDRシステムはとっくにできていて、いつでも実施可能であったということですね。

浅野:はい。そのDRシステムによって、政府からは、2022年の3月と6月に需給ひっ迫が起きたときに「需給ひっ迫警報」や「需給ひっ迫注意報」などの指令が出され、停電は回避されました。その後(7月15日)、政府は「節電プログラム」を発表しました。電力会社が進める節電プログラムに参加し、節電した家庭には、幅広く使用できるような「節電ポイントを付与する支援制度」がスタートしたのです注10

 これによって、需要家(一般家庭や企業)は、8月4日以降に認定された小売電気事業者会社の「節電プログラム」へ参加登録すると「節電ポイント」をもらえるようになりました。

 この制度は、需給ひっ迫に一定程度の効果があると思いますが、今年度(2022年度)の冬の先物価格は2023年1月にピークとなり、約40円/kWhと通常の4倍にも高騰しています。もっと早く、こうならないような需要側対策を導入できたのではないかと思います。

〔3〕1秒を争っている世界でうまく機能させる

江﨑:なるほど。もっと早くDRシステムを活用できていれば、電気料金の高騰が回避できたかもしれないということですね。勝又さんのお話は、そういうDRなどがないときでも、上手に半分マニュアル(手作業)っぽく動かして対応していたのですね。

勝又:そうですね。電気というのはリアルタイムに「需要と供給のバランス」が必要なのです。

 だから、1秒を争っている世界でうまく機能させるためには、事前に何かきめ細かい手を打っておかないといけません。病院のように人命に関わるようなところは停電させられないわけですから、輪番停電(地域ごとに順番を決め、計画的に停電させること)などは、やってはいけないのです。事前にきちんと決めておけば、病院以外にも電気の供給を制御できるところはたくさんがあるのです。

〔4〕35年前の電圧崩壊による停電の教訓

勝又:もう1つの懸念は、例えば35年前の1987年7月23日に発生した電圧崩壊(電圧の不安定による事故注11による停電です。あの時の電圧崩壊は、1分間のうちに発生した、需要変動に電力供給が追従できなかったことが原因で、事前に準備できる対策では防げない停電でした。

 つまりあの時は、1分間に40万kW程度の需要増がありました。この急激な需要増に対応するためには、何をすればいいかというと、小さな発電所を何カ所か、スタインバイ〔系統並列注12準備〕していなくてはいけないのです。

 発電機は、100万kW級では±5%程度の出力変動の範囲でしか調整できない(出力100万kWの大規模な発電機を50万kWに落としては運転できない)のです。ですから日常的に、小出力の発電所をいくつか事前にスタンバイしておかないと、これは間違いなく停電が起きるのです。


▼ 注1
電力システム:Electric Power System、電力系統ともいう。電力の発生から家庭・工場などの消費に至るまでの電力供給システムのこと。具体的には、発電所から送電線、変電所、配電線、負荷(家庭の家電機器や工場の諸設備)等を組み合わせて構成されている。電力業界では「電力系統」あるいは単に「系統」といわれることが多いが、ここでは、情報通信関係者にも理解しやすいように、「電力システム」とする。

▼ 注2
アグリゲーター(Aggregator):特定卸供給事業者のこと(電力会社が兼務する場合もある)。需要家側のエネルギーリソースを統合制御し、VPPやDR(後述)などによって、エネルギーサービスを提供する事業者のこと。2022年4月1日から、アグリゲーターライセンス制度がスタートした(経済産業大臣への届出制)。特定卸供給事業(アグリゲータ—)の届出事業者数は38社(2022年10月20日時点)。

▼ 注3
電力会社とは、図1に示すように、一般送配電事業者や小売電気事業者などを指している。

▼ 注4
需給調整契約:需要家側で、季節別・時間帯別に電気の使い方を工夫してもらい、その使い方に応じて電気料金を割り引く契約。年間を通じて平日昼間の負荷を夜間・休日等にシフトしてもらう「年間調整契約」や、ピーク負荷が予想される夏の暑い時期に工場を休業したり、操業を調整したりする「計画調整契約」などがある(電気事業連合会資料、1999年7月23日より)。

▼ 注5
日本全国の揚水発電所一覧

▼ 注6
資源エネルギー庁「電力ネットワークの次世代化」2022年7月13日の20ページ、<揚水発電地点数の推移>①2020年度末の純揚水:25地点、2,190万kW、②2020年度末の混合揚水:17地点、557万kW、合計計:42地点、2,747万kW(2020年度末現在)。
※揚水発電:深夜の余剰電力で、下流の貯水池の水を上部の貯水池にポンプで汲み上げておき、電気が多く使われる昼間に、水を落として発電する方式。上部の流域が小さく、河川から(ダムに)流れ込む水がほとんどないものを「純揚水式」といい、河川から流れ込む水もあわせて利用するものを「混合揚水式」という。

▼ 注7
デマンドサイドマネジメント(DSM):Demand-Side Management。電力システムにおいて、電力の需給バランスを取る(需要量を制御する)ために、電力会社が主体となって、需要家側(デマンドサイド、家庭・企業)を管理(マネジメント)すること。類似語のDR(Demand Response、需要家側応答)※の場合は、電力の需給バランスを取るに当たって、需要家が主体的に電力会社の需給調整の要求(デマンド)に応じる(レスポンスする:節電や電力消費の増大を行うなど)こと。
※電気の需要量を増やす(例:EVを充電する)指令の場合は「上げDR」、需要量を減らす指令(例:照明を暗くする)場合は「下げDR」という。

▼ 注8
一般社団法人 日本卸電力取引所(JEPX):Japan Electric Power Exchange。電力の自由化(第3次電気事業制度改革)に伴って、2003年(平成15年)11月28日に設立された、電力の売買を行う日本で唯一の会員制の卸電力取引市場。

▼ 注9
次世代エネルギー・社会システム実証:2010年4月から行われた、横浜市・愛知県豊田市・京都府けいはんな学研都市・北九州市の4地区における5カ年の実証計画(経済産業省が主導)。

▼ 注10
https://www.meti.go.jp/speeches/kaiken/2022/20220715001.html
参考URL①:東京電力EP「TEPCO 省エネプログラム2022
参考URL②:政府発表の「節電ポイント」とは?仕組みと参加方法/おすすめ節電方法7選も

▼ 注11
1987年7月23日の電圧崩壊:送電線が切れなくても停電になってしまった場合の例〔猛暑による需要が急増したため、系統の電圧が低下し負荷を制限(停電)せざるを得なかったケース〕。

▼ 注12
系統並列:発電所(電源)が系統につながり電気を送れる状態のこと

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