≪1≫ロッキーマウンテン研究所 エイモリー・ロビンス博士に触発されて
池辺 次の図5をご覧ください。左側が、米国コロラド州ロッキー山脈のふもとにあるロッキーマウンテン研究所です。名著「Small Is Profitable ~分散型エネルギーが生む新しい利益~」図5の右)で知られる、世界的なエネルギー学者のエイモリー・ロビンス博士(Dr. Amory B. Lovins、写真中央。右が池辺)とお会いし、エネルギー問題に関する意見交換を行っている際に撮った写真です。
■ 右にいらっしゃる方が池辺副社長ですね。
池辺裕昭氏
(NTTファシリティーズ
代表取締役副社長)
池辺 そうです。先ほどお話しした「Small Is Profitable」という本〔出版社: 省エネルギーセンター(2005年5月刊)〕を読み、感銘を受けまして、コロラドまで話を伺いに行きました。この「Small is Profitable」のSmallというのは分散電源のことで、タイトルの意味は「分散電源は高い収益を生む」となります。翻訳本では、副題が「分散型エネルギーが生む新しい利益」となっています。
この本においてロビンス博士は分散電源によってもたらされるエネルギー供給の最適化について述べています。分散電源への投資は経済的合理性があり、信頼性も高く、さらにCO2削減がミニマム・コストでできると主張されています。直流電源や太陽光発電設備などエネルギーに関するソリューションを数多く展開しているNTTファシリティーズにとって、得るものが大きいのではと考えたのが訪問の動機です。
■ いつごろ行かれたのですか。
池辺 2006年です。研究所はコロラドのアスペンという山の上、標高2,200メートルのところにあります。屋上にソーラーパネルと太陽熱利用システムが設置されています。冬は標高が高いため、マイナス40度ぐらいになりますが、窓ガラスは断熱ガラスで、壁面の材料も断熱の工夫がされており、使用エネルギーは通常の家の10分の1程度だということです。暖房は何を使っているか聞くと、「パソコン、コンピュータの熱で過ごしています」と言っていました。図5の写真に木が写っていますが、家の中のビオトープ(Biotop、ドイツ語。生物生息空間)で生育しているバナナの木です。
実際にミニマムエネルギーの家を作り、実践されておられることに感銘を受けました。
図6をご覧になってください。ご存じのとおり、エネルギーの使用の合理化に関する法律(以下、省エネ法)が改正(2009年4月1日から施行)されました。二酸化炭素排出量の部門別排出量(図6)を見ると、産業部門の排出量についてはこれまでの省エネ努力により、90年度における排出量と比較して減少していることがわかります。一方、業務その他部門と家庭部門については大幅に増加していることが見て取れます。
■ 図6の41.3%(業務その他部門)、34.7%(家庭部門)というところですね。
池辺 その通りです。業務その他部門には、いわゆるオフィスビルやコンビニエンスストア等が含まれています。主にこの業務部門の排出量を抑えなくてはいけないということで、省エネ法が改正されました。
≪2≫スマートグリッドで重要な「見える化」
■ なるほど
池辺 図6の業務その他部門と家庭部門のところを、どうするかというのが大きな問題となってきており、そこでスマートグリッドの話につながってくるのです。すなわち、一番重要なことは、
(1)普通の家で電気がどのぐらい使われているのか
(2)電力会社から供給される電力がどういう状態なのか
というような情報が、まず「見えること」が一番重要なことと思うのです。それが見えると、いろいろなことができるのです。エネルギーの利用状況を「見える化」すると、エネルギーの制御をどのようにマネジメントすればよいかがわかるようになります。この「見える化」を行うために、ITが非常に役立つのです。
例えばITで「見える化」を行うことによって、エネルギー使用を抑制するための指標が出来ますし、これは当然投資コストもミニマムに抑えられる効果があります。その結果、CO2が削減されます。さらに、いろいろな組み合わせで電源をつくると、こちらがダウンしてもあちらを使用するというように、信頼性も高くなるのです。
■ なるほど。
池辺 その一例として、図7(別ファイル6)にカリフォルニア州で実施されているパワーパクト(Power-Pact)プログラム(施策)を示します。
カリフォルニア州では何万もの企業や個人が電力会社から情報をもらうという仕組みがあります。このパワーパクト・プログラムでは、夏場などにユーザーが電気を大量に使う場合、電力会社の発電能力のリミットに近づいたらその旨をユーザーに連絡するのです。その連絡の方法は、電力会社からユーザーの携帯電話やパソコンあるいはファックスなどに一斉に同報で送るのです。その情報を受信したユーザーは、自分の身の回りでできる最大の省エネを実行します。例えば3台の空調を2台に減らして、2時間ぐらいのピーク時を我慢するのです。それを何万人ものユーザーが実行するので、その効果というのは非常に大きく、20%くらいは削減できるそうです。
池辺裕昭氏
(NTTファシリティーズ
代表取締役副社長)
■ 意識が高くないとなかなか協力できないところもありますね。
池辺 そうですね。そういう点では、カリフォルニア州などは住民の環境問題に対する意識が高く、限られたエネルギーの中でいかにうまく生活するか、あるいは産業を維持するかということが徹底しているのです。カリフォルニア州のシリコンバレーというのは半導体のメッカでもありますから、個人で多少の不便があっても基幹産業をみんなで守ろうではないかという意識があるのだと思います。その中でうまく知恵を出して、みんなで考えてエネルギーを使っているのです。これを聞いたときに、素晴らしい発想だなと思いました。
■ それはわかっていてもなかなかできないことですね。
池辺 このプログラムは人力スマートグリッドともいえます。スマートグリッドとは情報の双方向のやりとりを自動化し、これに制御を加えた仕組みだといえます。
≪3≫スマートグリッドに取組む各国の事情
■ 世界各国のスマートグリッドの取組み状況はいかがでしょうか。
池辺 図8の表に、スマートグリッドに取り組む米国、欧州、日本の事情を示しています。それぞれバックグラウンドがやはり少し違います。米国の送電網などは、今まであまり投資されてこなかったので、老朽化している面があります。そのこともあって2003年の北米の大停電があったわけですが、今後、このようなことが起きないように新しくしようと動いています。それと同時に、ITを積極的に活用してスマートグリッド(賢い電力網)をつくろうという動きになっているのです。米国で素晴らしいと思うのは、Googleなどは新たな事業領域としてエネルギー分野に参入しようとしています。常に新しい力が生まれてくる土壌は素晴らしいですね。
(第3回:最終回へつづく)
バックナンバー
<NTTファシリティーズのスマートグリッド戦略を聞く!>
第1回:NTTファシリティーズのスマートグリッドへの取り組み
第2回:重要なエネルギー利用状況の「見える化」
第3回(最終回):世界27種類の太陽電池パネルを実証実験
プロフィール
池辺裕昭(いけべひろあき)氏
現職:
(株)NTTファシリティーズの代表取締役副社長
【略歴】
1973年 九州大学 工学部 電気工学科 卒業
同年 日本電信電話公社入社
1985年 NTTネットワーク事業本部 担当部長
1992年 NTTファシリティーズ サービス推進部 担当部長
1997年 NTTファシリティーズ 首都圏支店 副支店長
2001年 NTTファシリティーズ 取締役 営業本部副本部長
データセンター環境構築本部長
雷害リスク低減コンソーシアム幹事長
2004年 NTTファシリティーズ 常務取締役 営業本部副本部長
2006年 NTTファシリティーズ 常務取締役 事業開発部長
2009年 NTTファシリティーズ 代表取締役副社長