スマートグリッド成熟への道とパラダイムシフト
講演最後のパネルディスカッションでは、GSGFエグゼクティブディレクターで、エナジーヴィル(EnergyVille)社(本社:ベルギー)のCEOも務めるロニー・ベルマンズ(Ronnie Belmans)氏をモデレータに迎え、それぞれのトピックに関連した議論が行われた。ここでは、その内容についてダイジェストする(写真2)。
〔1〕電力自由化とフレキシビリティ
国吉氏(GSGF系統用蓄電池WG議長、写真2の左から2番目)は、日本では、発送電の分離についてはまさに現在検討中の段階で、まだフレキシビリティの議論までには至っていないことを述べ、改めてフレキシビリティの概念について説明を求めた。
写真2 パネルディスカッションの様子
写真右端(モデレータ)ロニー・ベルマンズ氏:GSGFエグゼクティブディレクター/エナジーヴィル社CEO
写真左から順にパディ・ターンブル氏:GSGF議長/スマートグリッド・アイルランド議長/ GEデジタルエナジー社 成長戦略リーダー
国吉 浩氏:GSGF副議長/GSGF系統用蓄電池WG 議長/JSCA事務局長/NEDO理事
バレリー・アンヌ・ロンズナール氏:GSGFフレキシビリティWG/スマートグリッド・フランス
シャイレンドラ・フロリア氏:GSGF サイバーセキュリティWG議長/ISGF/イートン社
マルタ・マルミローリ氏:JSCA/三菱電機 総合エネルギーシステム技術部次長
ラッセル・コンクリン氏:ISGAN副議長/米国エネルギー省 国際気候変動政策・技術局 政策分析官
これに対し、ロンズナール氏(GSGFフレキシビリティWG、写真2の左から3番目)は、電力自由化が進むと、発電事業者やTSO注4、バランス・レスポンシブル・パーティ注5、アグリゲータ、プロシューマなどさまざまなプレイヤーが電力のやり取りを行うため、電力システムには高いフレキシビリティが求められると説明した(図1参照)。同時に、その管理は複雑化するため、プレイヤーごとの役割の明確化や、プレイヤー間での調整に加え、市場の形成など、契約も含めて考える必要があると述べた。
図1 発展したスマートグリッドにおける各機関の関係図
〔出所 GSGFフレキシビリティWG講演資料より 出典 EU Smart Grids Task Force〕
〔2〕各地域に適した系統用蓄電池の利用
各国における系統用蓄電池の役割について、コンクリン氏(ISGAN副議長、写真2の右から2番目)は、米国ではカリフォルニア州において、電力貯蔵システム導入促進の州法(AB-2514、電力貯蔵法注6)が制定されているが、蓄電池は複数の役割をもつため、「蓄電池をどのように理解して価値を与えるかは各地域で異なってくるだろう」と述べた。
一方、マルミローリ氏(JSCA/三菱電機、写真2の右から3番目)は、系統安定化などに対して、系統用蓄電池だけが解決策ではないと主張した。発電した電力をすべて使うための仕組みの開発や、再生可能エネルギー(以下、再エネ)を利用した調整が行えれば、トータルシステムとして蓄電池を使用しなくても機能を補完できるとした。
また、ターンブル氏(GSGF議長、写真2の左端)からは、アイルランドでは現在、圧縮空気によるエネルギー貯蔵が研究されており、系統用蓄電池の導入は、圧縮空気技術が実用化できるまでの“つなぎ”として利用されていることが述べられた。
〔3〕スマートグリッドのサイバーセキュリティ対策
スマートグリッドにおけるサイバーセキュリティについて、フロリア氏(GSGFサイバーセキュリティWG議長、写真2の左から4番目)は、もともと「インターネットは情報を」、そして「スマートグリッドはエネルギーを」オープンに流通する目的で作られていると述べた。インターネットにおけるセキュリティ対策は、攻撃に対して、ソフトウェアをアップデートし、後から対策を講じることができたが、スマートグリッドの場合は、仕様が異なるさまざまな機器やシステムが接続されるため、グリッドの設計段階でセキュリティ要素を組み込む必要があるとした。
また、ロンズナール氏は、フランスでは、スマートメーターの情報の保護も重要視されており、その設計段階から個人情報の保護に関するセキュリティが配慮されていると説明した。
マルミローリ氏は、スマートグリッドでは、セキュリティは高く保つ必要があるが、暗号化などを行うと、制御サイドに影響が出るとし、ローカル(現場)で制御することで安全性、高速性は保てるが、ネットワークから独立した環境のみでは運用は行えないため、一定の妥協が必要だとも述べた。
〔4〕スマートグリッドのアップデートの課題と可能性
電力自由化が進むなかで、スマートグリッドのアップデートはどのように捉えるべきかという議題では、ターンブル氏は、電力価格を検討する際、規制当局からは、エネルギーは消費者に安く提供しなくてはならないという指示があるが、電力システム技術の陳腐化によるインフラや機器群のアップデートを行う必要があるため、これらを実施しながらどのように電力価格を下げるかが課題になると述べた。
また、コンクリン氏は、電気自動車で急成長を遂げたテスラモーターズは、新しいソフトウェアをユーザーにプッシュ配信する手法で車の修理を実現した例を挙げ、このようなパラダイムシフトは、スマートグリッドにおいても同様なことが起こってくるだろうと語った。
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今後、GSGFは、同団体の活動を推進するとともに、国際スマートグリッド行動ネットワーク注7と連携を強めていく。各WGの成果は、随時Webサイトなどで公開される。
▼ 注3
オーストラリア、カナダ、デンマーク、欧州連合、フランダース、フランス、英国、インド、ノルウェー、アイルランド、イスラエル、日本、韓国、メキシコ、オランダ、台湾、トルコ、米国の18カ国・地域。
▼ 注4
TSO:Transmission System Operator、送電系統運用者のこと。
▼ 注5
バランス・レスポンシブル・パーティ:BRP(Balance Responsible Party)、TSO間のインバランス(需要に対する発電量の差異)を調整する機関のこと。
▼ 注6
AB-2514とは、カリフォルニア州が電力貯蔵システムの導入促進のため、2010年9月に制定した州法「Assembly Bill No.2514」のこと。一般的に「電力貯蔵法」や「エネルギー貯蔵法」と呼ばれる。
▼ 注7
国際スマートグリッド行動ネットワーク:ISGAN、International Smart Grid Action Network。スマートグリッドの技術やシステム、経験を多国間で共有/推進することを目的に設立された団体。
http://www.iea-isgan.org/