膨大な熱エネルギーを扱う繊細な火力発電
次に、前出の図1を見ながら、発電機の回転数を制御することによって、電力の周波数も制御できる仕組みを見てみよう。
図1に示す発電機は、機械的入力を調整することによって発電機の回転数(例:3000回転)を制御できる。前述したように、このことは電力の周波数(例:50Hz)を調整できることでもある。このため、一般には「負荷周波数制御」(LFC)注7という方法により、電力システムの「周波数の変動」を制御用の入力情報として、火力発電の場合、タービンを回転させるボイラの燃料消費量を調整し、周波数が規定値(東日本では50Hz)に維持されるようになっているのである。
しかし、この燃料消費量の調整は、即座にできるものではなく、その調整速度には限度がある。在来の火力発電の場合は、せいぜい1分間に定格出力(発電機の最大出力に相当)の1%程度の速度でしか調整できない。これに対して、水力発電の場合は機械的入力をより高速に制御可能であるが、それでもこの2倍程度の速度である。
したがって、LFCが対象とする10〜20分程度の周期の変動補償(周波数変動を制御によって許容値内に収めること)としては、稼働しているすべての水力/火力発電機の合計容量の1割強程度でしか調整が効かないこととなる。さらに発電機の発電出力が上限値に達してしまっている発電機については、出力を増加させる場合の調整力には算入できない(すなわち、調整力の計算に含めることはできない)。
このように変動補償の制御は、出力の調整幅およびその調整速度の両面から厳しい制約があるのである。
発電機の稼働台数を調整して解決?
制約を解消しようとする場合は、その対策として、発電機の稼働台数を事前に増やすなどの調整が必要である。例えば図2、図3に示すように、同一の量の電力需要に対して4台の発電機で電力を供給する場合に比べて、5台の発電機で供給する場合は、全体としての発電機電力の調整可能幅(調整幅、図3のa-b)とその調整速度を向上させることができる。
図2 4台の(調整可能な)発電機を稼働する場合
図3 5台の(調整可能な)発電機を稼働する場合
火力発電の起動には8時間もかかってしまう!
図4 平常時の発電機出力の調整と発電効率の変化
一方、図4に示すように、発電機の平常時の運転量が定格出力に対して少ない出力となるにつれて、発電効率は減少するという特徴がある(図4のA点からB点へ)。したがって、電力供給側の調整力を向上させるような運用を進めるほど、燃料消費量の増加の要因となってしまう。
これを解決するため、大きな電力の調整力が必要とされる時間帯のみ、発電機の稼働台数を増加させればよいと考えられるが、そう簡単にはできない。
一般に火力発電を起動するためには、その前準備として非常に長時間の予熱注8などを経る必要がある。この起動にかかわるプロセスには8時間ほどを要し、さらに一度起動させたら、その後数時間程度は停止させることができない。したがって、気象条件によって変動する太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギーの、予見が難しい出力変動に対しては、早期のうちに発電機の稼働台数を決定する必要に迫られるのである。
このため、再生可能エネルギーのような気象状況の予報外れで発電されない場合があった場合にも、柔軟に電力調整が実現できるようにするのは簡単なことではないことを、理解しておく必要がある。(第2回につづく)
▼ 注7
負荷周波数制御:LFC(Load Frequency Control)とも言われる。電力システム(電力系統)の電力需要の変動(負荷変動という)に対して、電力システム内の発電機の出力を適切に制御して調整し、周波数変動を許容値以内に収めること。10〜20分程度の周期で変動する負荷の調整を行う。
▼ 注8
予熱:例えば、家庭で石油ストーブを焚く場合、運転スイッチを入れてもストーブはすぐには点火せず、少し時間が経ってから点火する。これは、前準備としての予熱の期間が必要だからである。