国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は2017年3月23日、日本近海の洋上の風況情報をまとめた「洋上風況マップ(全国版)」を公開した。NEDOのWebサイトで無料で利用できる。NEDOによると、日本近海の風況をまとめたデータの公開は国内初のことだという。NEDOはこの風況マップを、洋上風力発電事業を検討する事業者や自治体が活用することを期待している。
図 「洋上風況マップ(全国版)」の表示例。関東近海の風況を表示している
出所 国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構
風況マップを開くと、洋上の各地点の風の強さを色分けして表示する。赤やピンクに近づくほど、強い風を期待できることを示している。このデータは気象予測モデルの1種である「WRF(Weather, Research and Forecasting)」でシミュレーションして算出した結果となっている。算出時には、さまざまなデータを追加投入して、予測の精度を挙げた。NEDOは追加投入したデータの中でも大きな役目を果たしている3つを挙げている。
1つ目は沿岸部の土地利用データ。洋上でも陸に近い部分は陸地の地形によって風向きや風の強さが変わる。この変化をシミュレーションで再現して、精度の高いデータを導き出した。
2つ目は海上の標高データ。これは水面の高さを示すデータだ。水面の高さによっても風況は変わる。そこで、経済産業省とNASAが共同開発した「3次元地形データ」を取り込んで、シミュレーションの精度を高めた。
3つ目は海面の水温データだ。海面の水温も風況を変化させる要因となる。これには、国立研究開発法人 産業技術総合研究所(産総研)と神戸大学が共同で開発した高解像度海面水温データセット「MOSST」を活用した。
このようにして得たシミュレーション結果を地図に重ねただけでなく、水深や水生生物の生態、海底の地質、干潟やサンゴ礁などの自然環境情報、国定公園区域や漁業権設定海域などの社会環境状況を示すデータを追加して、表示するようにした。
風況をデータとして示すだけでなく、任意の地点をクリックすると、その場所に風力発電設備を設置した場合の発電量などをシミュレーションする機能も提供する。風力発電設備の出力などの情報を入力すると、簡易的なシミュレーションで年間発電量と設備利用率を予測して表示してくれる。
図 年間発電量と設備利用率の予測結果を表示したところ
出所 国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構
より細かく検討する場合のために、指定した地点の風速階級別出現頻度のグラフと風配図を提示する機能も備える。風速階級別出現頻度とは、どれくらいの風速で何回風が吹くと見込めるのかを風速ごとにまとめたデータで、風配図は360度どの方向にどれくらいの強さの風がどれくらいの頻度で吹くかを予測した結果を示す図。強い風、弱い風など風が吹く頻度を風速ごとにまとめたデータは、そもそも風力発電が成り立つのかを判断する材料となり、どの方向に強い風がよく吹くのかを示す風配図は、風力発電設備を設置する際に、設置の向きを決めるデータとなりうる。
図 風配図(左)と風速階級別出現頻度を示すグラフ(右)を表示したところ
出所 国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構
今回NEDOは、これまで明らかになっていなかった日本近海の風況情報を公開した。コンピューターシミュレーションの結果とは言うが、NEDOはシミュレーション結果と実際の測定結果を比較している。NEDO北九州沖洋上風況観測タワー(高さ80m)、NEDO銚子沖洋上風況観測タワー(同80m)、能代港風況観測タワー(同50m)、港湾空港技術研究所波崎海洋研究施設桟橋(同87m)の4カ所で観測した風力を比較したところ、シミュレーション値と実際の観測値のずれは最大でも+4.5%だったという。日本ではまだ洋上風力発電の開発は進んでいない。その要因の1つだったデータ不足という問題が解消した。あとは、水深が深いところにも設置できる浮体型洋上風力発電設備の実用化に期待したいところだ。