《1》IPTVアーキテクチャと要求条件の議題が終了
最終回となった第5回IPTV-GSIは、2008年11月24~28日にジュネーブのITU本部にて開催された。
今回の課題は下記の3つであった。
〔1〕Q13/16「Multimedia application platforms and end systems for IPTV」
〔2〕Q21/16「Multimedia coordination」
〔3〕Q6/17「Security aspects of ubiquitous telecommunication services」」
全体の参加人数は69名、寄書の件数は33件と、参加人数・寄書件数ともに前回に比べ半分ほどに減少した。これには、SG13関係の「要求条件」と「アーキテクチャ」の議題に決着がついたことが大きく影響している。とはいえ、3件の課題に対して、これらの数字は決して低いものではなく、IPTVへの注目度の高さは衰えていない。中でも日本は13人と、韓国の22人に続く人数が参加、10件を超える寄書を寄せるなど相変わらず存在感は高い。
以降は、エンドシステム関連の新しい議題や、端末、ホーム・ネットワークなど大きなトピックスに絞って解説する。
《2》エンドシステム関連で新たな議題が登場
今回のIPTV-GSIでは、エンドシステム関連で新たに3つの議題が登場した。
〔1〕Webベース端末ミドルウェア
〔2〕IPTVサービスのプロファイルとコンプライアンス
〔3〕IPTVのためのコンテンツとメタデータのアダプテーション
の3件である。なかでも〔3〕に対する注目度は高い。これは、異なるネットワーク環境に合わせてあらかじめ複数のエンコード・レートの映像コンテンツを用意するのではなく、システム側がネットワークに合わせて自動的にエンコード・レートを変化させた最適な映像を配信するというコンセプトの技術である。多様なネットワーク環境に対応する必要のあるIPTVならではの技術といえる。
《3》ターミナル関連――「TDES.2」が国際標準として勧告
IPTV端末の基本モデルとして、「TDES.2」(IPTV Terminal Devices 2、IPTV端末の基本モデル)の作業が進められている。この勧告は日本からの貢献が顕著で、まさに日本主導による国際標準といえるだろう。この勧告化を契機に今後、日本企業による組み込みTV型、STB型など多様なIPTV端末の国際展開に期待したい。
一方で、「フルフレッジ」など技術先行の取り組みも進んでいる。一般的にIPTVというとリニアTVかVoD(Video on Demand)サービスを指すことが多いが、「フルフレッジ」はPVR(Personal Video Recorder)やプッシュVoD、タイムシフト再生やパーソナルIPTVなど、さまざまなサービスを同時に提供する、いわば「豪華版サービス」とでも言うべきコンセプトである。
モバイル端末では、IPTV端末を持ち運ぶ「端末モビリティ」だけでなく、利用者が気に入った番組リスト(ブックマーク)を持ち運ぶような「利用者モビリティ」に注目が寄せられた。例えば、旅行先のホテルにIPTV端末があり、ユーザーがその端末に対してユーザー認証を行うことで、自宅にいるのと同じように自分の番組リストを利用するなどといったユースケースが考えられる。
《4》ホーム・ネットワーク関連――NGNホーム・ネットワークが勧告へ
ホーム・ネットワークの議題は2件あった。
〔1〕IPTVの遠隔管理
ネットワーク側から端末を管理するプロトコルには、全世界的にTR69(※1)が標準として使われている。しかし、TR69を利用したIPTVの遠隔管理には、端末の状態を直接現場に行かなくても確認できるという利点がある一方で、プライバシー保護の観点から検討課題も多い。組み込みTV とSTBではビジネス上・管理上でも大きな差がある。今後の検討課題として追加された。
※1 DSL-F TR69:DSL Forum規格TR69、ACS(Auto Configuration Server:自動構成サーバ)から設定情報をダウンロードしたり、家の中のデバイスを監視したりする規格
〔2〕NGNホーム・ネットワーク
NGNホーム・ネットワークのコンセプトについては、基本的には図1に示した通りのシステム構成である。NGNに接続されるホーム・ネットワークにはさまざまな形態があるが、本勧告で対象とするものはH-RACFやH-MTCF(※2)を備えるものであるという整理を行った。言い換えれば、これらの機能を持たないより簡易なホームネットワークの可能性を示唆したものとも言えるだろう。ネットワーク側と宅内側の連携の粗密については国情もあり、一概に言えないと思う。このような多様な可能性に配慮することも国際標準化では重要である。
※2 H-RACF:Home Resource and Admission Control Functions、ホーム・リソース/受付制御機能。NGN環境のホーム・ネットワークにおける通信品質の確保のためのQoS制御機能
H-MTCF:Home Multicast Transport Control Function、ホーム・マルチキャスト転送制御機能
また、図2のようなバーチャル・ホーム・ネットワークのコンセプトについても活発な議論が交わされた。
《5》IPTV-GSIの総括と今後の活動予定
IPTV-GSIは、2006年7月から2007年11月まで1年半行われた「FG IPTV」の成果を引き継ぐ形で活動し、実際に11件の勧告化(表1)に結び付けたという時点で非常に有意義であった。また、ITU-TのSGやラポータ会合だけでは年に3回程度しか検討が行われない。そうしたなかで、年に3~4回の定期的な会議を行うGSIはタイムリーな勧告化を進めるという意味で貴重だったと言える。
IPTV-GSIは今回で最終回となったが、勧告案はまだ40件以上残されている。そこで、今後も同様にIPTV-GSIに相当するGSIを立ち上げ、これまでの成果と今後の作業を引き継ぐことが検討されている。ただし、これまでのIPTV-GSIではネットワークからサービスに至るまで垂直統合で幅広い検討が行われていたが、新しいGSIは「IPTVはあくまでサービスである」という観点から、より実態に合った名称とする考えもあるだろう。