[M2M/IoT向けサブGHz版Wi-Fi規格「IEEE 802.11ah」と市場展望]

M2M/IoT向けサブGHz版Wi-Fi規格「IEEE 802.11ah」と市場展望 ー 第3回 (最終回) 802.11ahとWi-SUNはどのように共存できるか ー

2015/06/01
(月)
大澤 智喜 株式会社ブリッド 代表取締役社長/インプレスSmartGridニューズレター コントリビューティングエディター

市場が拡大する競合技術「Wi-SUN」

〔1〕電力市場:東京電力のスマートメーター導入イメージ

 ここまで述べてきたように、これまで802.11ahよりも802.15.4g標準(SUN:Smart Utility Networks)、いわゆる「Wi-SUN」の標準化(2012年3月)のほうが時期的に早かったこともあり、日本の電力市場では、東京電力のスマートメーター向けの標準無線ネットワークとして「Wi-SUN」が採用されるなど、実質的にWi-SUNの市場が広がってきている。

 具体的には、例えば図4に赤い矢印で示す「スマートメーターとHEMS機器の間」はBルートといわれるが、このルートにはWi-SUNによる無線ネットワークが採用されている。

図4 東京電力のスマートメーター導入イメージ

図4 東京電力のスマートメーター導入イメージ

〔出所 http://www.tepco.co.jp/smartmeter/index-j.html

〔2〕ガス市場:ガススマートメーターの実証試験始まる

 一方、これまで、1995年、1999年、2004年および2007年の4度にわたり大きな制度改革が行われたガス事業は、現在小売全面自由化に向けてガスシステム改革小委員会で審議されており、2016年4月に予定されている電力の小売全面自由化に続いて、2017年4月からガスの小売全面自由化が予定されている(図5)。

図5 ガス事業の段階的自由化の経緯(2017年4月:ガスの小売完全自由化の予定)

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〔出所 資源エネルギー庁、「エネルギー白書2014(「平成25年度エネルギーに関する年次報告」)、平成26(2014)年6月、 http://www.enecho.meti.go.jp/about/whitepaper/2014pdf/whitepaper2014pdf_3_4.pdf

 このため、ガススマートメーター市場では、ガススマートメーター間をマルチホップ通信(バケツリレー方式の通信)によって中継する、920MHz帯を使用して超低消費電力を実現した近距離無線通信方式「Uバスエア」(U-Bus Air)注5という無線規格が策定されている。この仕様は、IEEE 802.15.4g(802.15.4eの採用は検討中)規格を使用し、有線規格の「Uバス」(U-Bus)とあわせてNPO法人テレメータリング推進協議会注6の標準仕様として策定されている。同仕様はWi-SUNアライアンスにおいても標準化される予定となっている。

 これらの標準化技術に準拠した無線機は多段中継(マルチホップ)無線機と呼ばれるが、この無線機は、東京ガス、大阪ガス、東邦ガス、富士電機、パナソニック、東光東芝メーターシステムズなどの大手ガス供給会社およびメーター各会社などによって共同開発が行われている(図6)。

図6 東京ガスによるガススマートメーター導入のイメージ

図6 東京ガスによるガススマートメーター導入のイメージ

〔出所 ガススマートメーターシステムの開発、東京ガス、http://www.tokyo-gas.co.jp/techno/menu2/10_index_detail.html

〔3〕横浜市水道局がガス・水道共用スマートメーターの実証実験をスタート

 さらに最近注目を集めているのは、東京ガス、日立製作所および横浜市水道局の3者で、同一の無線通信システム(Uバスエアを採用)を使用したガス・水道共用スマートメーターの実証実験が、2015年5月から開始されたことである(表2、図7参照)。

表2 水道・ガスメーター無線自動検針システムの共用化に向けた横浜市の実証実験の概要

表2 水道・ガスメーター無線自動検針システムの共用化に向けた横浜市の実証実験の概要

〔出所 東京ガスのプレスリリース(2014年12月19日、http://www.tokyo-gas.co.jp/Press/20141219-04.html)をもとに著者作成〕

図7 東京ガス/日立製作所/横浜市水道局による共同実証実験イメージ

図7 東京ガス/日立製作所/横浜市水道局による共同実証実験イメージ

〔出所 東京ガスのプレスリリース(2014年12月19日)より、 http://www.tokyo-gas.co.jp/Press/20141219-04.html

 この実証実験では、共同住宅の32世帯に32台のガス・水道共用スマートメーターが設置され、これらの実証実験などを通して、電力、ガス、水道などのユーティリティ市場がさらに活性化すると期待されている。


▼ 注5
U バス/U バスエア(U-Bus/U-Bus Air):ガススマートメーター用インタフェース。「U-Bus」(有線)とは、“ユニバーサル”や“ユビキタス”に由来する「U」と、バス接続を表す「バス」(通信路)のことで、テレメータリング推進協議会によって策定された有線インタフェースの略称・愛称。
「U-Bus Air」とは、無線インタフェースのこと。U-Bus/U-Bus Airは、802.15.4gをベースにした7 レイヤの独自プロトコル体系となっている。最近では「U」という文字の内容にとらわれず、固有名詞として扱われている。詳しくは本誌2014年12月号参照。

▼ 注6
NPO法人テレメータリング推進協議会:http://www.teleme-r.or.jp/index.html

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