11ah とWi-SUNはどのように共存できるか
〔1〕クローズド環境とオープン環境
現在、スマートメーターの導入については、東京電力が段階的にWi-SUNベースの技術などを用いて、AルートおよびBルートにおけるWi-SUNネットワークを構築しているが、今後、その潮流は徐々に地方電力会社にも拡大していくことになる。このため、日本市場において、11ahによる無線技術は後発であることから、これらのWi-SUNベースの電力通信網との共存性が特に議論されることになると予想される。
日本国内における11ahとWi-SUN(または802.15.4および15.4e/4g)無線技術の共存は、技術的には後発の11ah側で共存可能な仕組みを織り込むことによって、可能になる。
それでは、日本において、同じ周波数帯の920MHz帯を使用して運用されるこれらの無線技術は、将来的にどちらが普及していくのであろうか。前述したように「SUN」に特化した802.15.4gベースの技術は、日本の現状では基本的に電力メーターやガスメーターなどを施工するインフラ事業者によって運用されるケースが圧倒的に多く、それはクローズド・ネットワークとして運用されることになる。
一方で、802.11(Wi-Fi)の技術の1つであり、かつスマートグリッドやIoT向けに標準化が審議されている11ahは、「ユーティリティ向けのクローズド・ネットワークにも、既存のオープンなブロードバンドネットワークにも」乗り入れすることを想定している。その11ahの運用周波数帯域は、日本では920MHz帯が予定されている。この場合、日本においては、すでに本誌2015年4月号で解説したように、1MHz幅チャネル帯のみの構成で運用注7されることになるため、11ahの機能のすべて(帯域幅のすべて)を使用できる環境ではない。
11ahでは、センサーネットワーク向けの使用用途に加え、チャネルを束ねて通信できるようにすることで、 他の無線技術には見られないハイスループット化(高速化)も検討されているが、日本においてはその機能を実用化できない可能性があるため、既存ブロードバンド市場への融合については支障があると考えられる。
〔2〕11ahはIoTやM2M向けの市場へ
これまで、ブロードバンド・ネットワーク・ソリューションとしてWi-Fi(802.11)が広く普及した歴史的背景としては、例えば、802.11b(11Mbps)⇒802.11a(54Mbps)⇒802.11n(150Mbps)⇒802.11ac(867Mbps)などのように、段階的な高速化技術が注目され、インフラ事業者である通信キャリアやサービスプロバイダによる技術導入が進んだこと、さらにエンドユーザーによる投資(導入)も相乗効果となったことが挙げられる。
しかし、インフラ事業者による技術導入などがなければ、新しい無線技術の導入および市場における普及はエンドユーザーの資本投入に依存することになる。これまで920MHz帯を利用した技術が、話題にはのぼるが、大きなビジネスとしての成功または普及につながっていない原因は、通信キャリア、電力/ガス/水道事業などの、大量投資ができるインフラ事業者による導入が少なかったからである。
その観点からみると、11ahは、今後、市場投入されていく技術であるため、インフラ事業者によってどの程度導入されていくかについては不透明な点もある。
したがって、短期的にはすでに電力事業者やガス事業者などで導入が決まっている、802.15.4およびWi-SUNベースの無線技術の市場導入のほうが先行して進むことが予想される。しかし、11ahの標準規格の策定が完了した後は、中長期的な視点において、IEEE 802.11(Wi-Fi)全体のスケールメリットを活かし、徐々にIoTやM2M向けの市場においても11ahの導入が進むものと予測される。
(終わり)
▼ 注7
日本では11個の1MHz幅のチャネル構成となっており、欧米のようにチャネルを束ねて使用する〔例えば、1MHz幅のチャネルを5個束ねて5MHz幅(=1MHz幅×5)のチャネルとして利用する〕ようなオプションはない。したがって、帯域が狭いため、伝送速度も制約されることになる。