[オラクルのスマートグリッド戦略]

オラクルのスマートグリッド戦略≪後編≫

― 日本のスマートグリッドの展開に必須となるパッケージソフト ―
2013/10/01
(火)

クラウドからファームウェアをバージョンアップできるか?

─その場合、導入後にAMIシステム(ヘッドエンド)がバージョンアップされ、アダプタの機能もバージョンアップされたとき、例えばクラウドから、アダプタのファームウェアをバージョンアップすることは可能なのでしょうか。

ビル:現在、クラウドからファームウェアをバージョンアップできる機能は、まだ提供されていません。これには理由がありまして、例えば米国カリフォルニアを拠点とする大手電力会社PG&E(図2参照。スマートメーター600万台、ガスメーター500万台を導入)にシステムを導入していく過程で、600万台ものスマートメーターの構成がどうなっているかを理解するために非常に苦しみました。

図2 米国のPG&E(Pacific Gas and Electric)への導入事例

図2 米国のPG&E(Pacific Gas and Electric)への導入事例

同時に、何百万台も設置されているスマートメーターのファームウェアのバージョンに関する理解などにも苦しみました。

さらに、ファームウェアをアップデートするプロセスの理解も大変なものがありました。そのようなソリューションは当時はなかったのです。

そこでオラクルでは、1年程前になりますが、「Operational Device Management」というソフトを開発しました。これによって、遠隔からスマートメーターのコンフィグレーションの変更、あるいはバージョンアップの管理を詳細なレベルで、できるようになったのです。

このように、スマートメーターの環境は、すでに何世代にもわたって機器が導入されていることもあり、まだ環境整備の途中という面もあるのです。このため、クラウドからスマートメーターのファームウェアをバージョンアップできるようにすることは、これからの課題となっています。

日本の市場:スマートグリッドと電力の自由化が同時進行!

─日本の世帯数は約5,200万世帯と言われていますが、日本におけるスマートグリッド市場をどう見ているのでしょうか。

ビル:オラクルとしては、日本のスマートグリッド市場は大変ビジネスの可能性があると見ています。

現在、日本の市場にはこれまで見られなかったような、2つの大きな変化があります。

1つは、スマートグリッドをより積極的に導入するようになったことです。もう1つは、地域独占体制からさまざまな規制緩和が行われ、電力の自由化・送配電分離が行われようとしていることです。

このような2つの大きな動きが同時に起こるというのは、これまで世界に例がありません。

例えば、海外では90年代に電力の自由化が起こり、その後、スマートグリッドの導入が始まった例や、単にスマートグリッドのみ導入した後に電力業界の自由化が行われるというようなことはありましたが、2つが同時に行われることはなかったのです。

したがって、日本の電力会社の場合、従来の方法のように、ソリューションをカスタマイズしたり、システムインテグレータと共同で開発したりというように、電力会社が独自にソリューションを作り込んでいくと、市場の要請に追いつかなくなる可能性があります。そこで、現在の日本の電力会社は、スマートグリッドを構築するために、ワールドクラスのソリューションが必要になってきます。

そうすると、そのようなニーズに対応できるように、オラクルのようなソフトウェアベンダが開発したパッケージ・ソフトウェア・ソリューションが注目を集めるようになってきています。

このパッケージソフトは、図3に示すように、米国のPG&EやOncoreをはじめ、欧州のEDF(フランス)、Scottish&Southern(イギリス)、ENIやENEL(イタリア)をはじめアジアなど、すでに多くの国々で個別の要請に対応して開発されたもので、実証済みのソフトとなっています。

図3 世界の電力自由化・発送電分離された諸国へのオラクルソリューションの導入例

図3 世界の電力自由化・発送電分離された諸国へのオラクルソリューションの導入例

そのようなパッケージソフトを日本に持ち込むことによって、先ほど述べた日本の大きな2つの変化に対応するためのシステムコストを低減できるようになりますし、構築する工程の削減にも、ソリューションの品質向上にも、成功の確率が高くなると思います。

従来、ユーティリティソリューションとしてカスタム構築していたものから、「パッケージ化されたソフトウェアによるソリューションへの移行」は、米国では、すでに1990年代に起きた大きな変化でしたが、現在の日本は、ようやくそのような変化が起き始めている真っ最中です。

日本市場に大きな期待:すでにいくつかの電力会社にMDMを提案

─MDMについて、東京電力の入札では東芝が獲得しましたが、今後のオラクルの展開は?

ビル:確かに、オラクルは入札で採用されませんでしたが、東京電力のMDMについてパッケージソフトが採用されたことは大きな追い風であると見ています。

現在、ビジネス的に日本のいくつかの電力会社にオラクルのソリューションを提案し、検討していただいている最中であり、日本の市場に参加できることに大きな期待を抱いています。

(終わり)

日本オラクルが公益業界向けアプリ製品「Oracle Utilities」最新版を提供開始

「Oracle Utilities」は、電力・ガス・水道など公益業界向けに特化して、「料金」「顧客管理」「自動配信管理」「メーターデーター管理」「作業管理」など、配電から小売業務までを支援するアプリケーション製品。日本オラクルが2013年7月23日から提供を開始した最新版は、料金・顧客管理とメーターデータ管理の機能が、従来製品に比べて強化されている。米国では2013年4月にすでに販売が開始され、PG&EやBaltimore Gas and Electricに導入されている。

同社は、これら最新版の提供を通じて、電力、ガス、水道業界の事業を支えるITシステムの基盤の支援に積極的に参画することが見込まれる。

最新版で機能強化したアプリケーションは、以下の3製品。

図 オラクルのMDMソリューションの機能と製品の概要

図 オラクルのMDMソリューションの機能と製品の概要

  1. 「Oracle Utilities Customer Care and Billing 2.4」:公益事業の販売業務に必要な料金設定、マーケティング、販売、顧客サービス、契約管理、検針、請求管理、メーターおよび機器管理、保守・点検作業など各種機能を提供する顧客管理と料金アプリケーション。
  2. 「Oracle Meter Data Management 2.1」:スマートメーターが送信するさまざまなデータを検証・格納し、データを他のシステムと連携するアプリケーション(図参照)。
  3. 「Oracle Smart Grid Gateway」:データ収集および通信制御を行う装置であるヘッドエンド特有のデータ形式をメーター機器向けデータ形式に変換するアダプタを提供する製品。

各製品の機能強化の内容は、表のとおり。

表 各製品の主な強化機能

表 各製品の主な強化機能

◎Profile

ビル・デヴェロー(Bill Devereaux)

ビル・デヴェロー(Bill Devereaux)

オラクル・コーポレーション グローバル・ビジネス・ユニット
ユーティリティ業界向け戦略担当バイスプレジデント

米国フロリダ大学で産業システム工学を学んだ後、25年以上に渡ってユーティリティ業界に携わる。
アクセンチュアではユーティリティ業界担当パートナーとして大規模事業やITプログラムを実現させ、アウトソーシングサービスの構築と管理を担当。
2009年、Pacific Gas & Electricに入社、AMIプログラムの責任者として北米最大規模のAMI導入プロジェクトの導入、技術、オペレーションの統括にあたる。
2011年、業界戦略担当バイスプレジデントとしてオラクルのユーティリティ部門にて同社の戦略策定に尽力している。


▼ 注1
Head-End:複数のコンセントレータから家庭等の電力使用状況のデータを収集する装置。

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