カーボンニュートラル/脱炭素
[ニュース]

東証、カーボン・クレジット取引市場を開設

市場参加者はすでに206社・団体へ
2023/10/20
(金)

再エネ・電力で、3,169円/トンの初値

 東京証券取引所は2023年10月11日、二酸化炭素(CO2)排出量を取引するカーボン・クレジット市場を開設した。今後は、証券や債券の売買と同様に、市場を通じたCO2排出の売買が可能となる。
 開設当日の10月11日は、合計3,689トンのCO2排出の売買が成立し、その量が最も多かったのは「再生可能エネルギー(電力。以下、再エネ)」の3,001トンで、1トンあたりの約定価格3,169円(セッション1:後述)。また、約定価格(取引価格)が最も高かったのは「森林」で、9,900円となった(CO2・1トンあたり/セッション1)。

Jクレジット、5種類が売買の対象

 カーボン・クレジットは、企業や自治体などが再エネの活用や省エネルギー機器導入、森林育成などによって減らしたCO2など温室効果ガスの削減量をクレジット(排出権)として発行し、それを企業などの間で売買する仕組み。排出削減を推進している企業・自治体は、より多くのクレジットを取得し、それを売買することで利益にできる。
 一方、クレジットを購入した企業・自治体は、目標とする排出量削減の達成などに活用できる(図参照)。

図 J-クレジット排出権売買の仕組みCDP:Carbon Disclosure Project、温室効果ガス排出量削減の取り組みなどを評価する世界有数の評価機関
SBT:Science Based Targets、パリ協定が求める水準と整合した、企業が設定する温室効果ガス排出削減目標
RE100:100% Renewable Electricity、事業活動によって生じる環境負荷を低減させるために設立された環境イニシアチブ。事業運営に必要なエネルギーを100%再エネで賄うことを目標とする
SHIFT事業:一般社団法人 温室効果ガス審査協会が行っている事業。意欲的なCO2排出削減目標を盛り込んだ事業などに補助金を交付する
ASSET事業:Advanced technologies promotion Subsidy Scheme with Emission reduction Targets、CO2排出量大幅削減事業設備補助事業。令和2(2020)年に新規募集を終了
出所 Jクレジット制度Webサイト「Jクレジット制度について」

 取引対象となるのは、日本政府(Japan)が認証している「J-クレジット」で、地球温暖化対策推進法(温対法)注1で義務化されている報告書に記載できるなど、さまざまなメリットがある。取引が行われるのは、
 (1)省エネ設備導入などによる「省エネルギー」
 (2)太陽光や風力などの「再エネ(電力)」
 (3)バイオマスなどの「再エネ(熱)」
 (4)森林育成などの「森林」
 (5)「地域版J-クレジット、J-VER注2(未移行)等」
の5分野。売買は11時30分の「セッション1」、15時の「セッション2」の2回に分けて行われ、その結果は当日の16時に公表される。
 市場参加者は10月18日時点で206社・団体注3。参加申請は、経済産業省で受け付け中だ。

民間による市場も開設

 2050年カーボンニュートラルに向けて、経済産業省はその具体的な方策の1つとして東京証券取引所に対し、2022年度にカーボン・クレジット市場の実証事業を委託していた。その知見を活かし、今回の市場開設に至っている。政府は「クレジット売買が、排出量削減と経済成長の両立につながる」と、市場の発展に期待している。
 カーボン・クレジットは、以前から民間主導でも行われており、東証で取引されるのは全体の4割程度とも言われ、その取引高をいかに増やしていくかが今後の課題となっている。
 また、このカーボン・クレジット市場開設に先がけた10月4日、民間のSBIホールディングスと脱炭素スタートアップのアスエネ株式会社(東京都港区)による合弁会社「Carbon EX」注4が同様の市場を開設しており、その動向も注目される。


注1:2050年カーボンニュートラルに向けて温対法の一部が改正され、令和3(2021)年6月2日公布、令和4(2022)年4月1日に施行された。
注2:J-VER:Japan Verified Emission Reduction、オフセット・クレジット制度。環境省の国内排出削減・吸収プロジェクトにより実現された温室効果ガス排出削減・吸収量を認証する制度。2013年にJ-クレジット制度に統合されている。
注3JPX日本取引所グループ「カーボン・クレジット市場」の市場参加者をクリック
注4https://carbonex.co.jp/

参考サイト

JPX日本取引所グループ「カーボン・クレジット市場」

JPX日本取引所グループ「市場参加者」※登録申込み等もここに記載

経済産業省「J-クレジット制度」

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