ハイビジョン非圧縮映像のビデオ配信や
多様なアプリケーションに期待
802.15.3c規格のアプリケーションとして最も注目されているのは、ハイビジョン(HDTV)の非圧縮映像のビデオ・ストリーミング配信である。HDTVの非圧縮伝送には最低1.5Gbpsのスループットが必要とされ、最大でも1Gbps程度のUWBでは能力不足となる。ハイビジョン・テレビ、AV製品のインタフェースとして普及しつつあるHDMI(非圧縮デジタル映像・音声入出力インタフェース)端子の将来の無線化には、802.15.3c標準規格の採用が期待されている。
このほかにも、大容量ビデオ・コンテンツの高速ダウンロード、ワイヤレス・ギガビット・イーサ、パソコンの液晶モニタと本体間のケーブルレス化などの用途が考えられる。また、圧縮伝送の場合は異なるビデオ・コンテンツを大量に同時配信できるため、旅客機や新幹線内のビデオ・オン・デマンド(VOD)配信や、教室内の大勢の生徒へのe-ラーニング用VOD教材の配信など、幅広い応用が可能となるだろう。
技術開発の現状と普及への課題
マイクロ波帯を使用する無線LANでは、CMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor、相補型金属酸化物半導体)のLSIワンチップ化に伴う小型化、低消費電力化、低価格化や、MIMOなどの新技術による性能向上等に後押しされる形で、普及が加速している。ミリ波WPANを普及させるためには、これらと同様な要件をクリアする必要があるのに加え、ミリ波WPAN特有の懸案課題として、アンテナとその指向性制御技術の開発が挙げられる。
60GHz帯ミリ波部品については、従来はガリウム砒素(GaAs)などの化合物半導体が主流で集積度が低く、特定用途向けの高価なRF部品が一般的だった。しかし最近、SiGe(シリコン・ゲルマニウム)の60GHz MMIC(モノリシック・マイクロ波集積回路)の試作が複数社から発表されている。
また、ギガビット級の伝送容量を実現するには、変調方式にもよるが、より高速な論理ゲート処理とA/D、D/Aコンバータが必要であり、モデム部の高集積化、低消費電力化の障害となっている。ミリ波のアレイ・アンテナやアンテナ制御技術は車載用レーダーなどで一部先行しているようであるが、まだ普及していない。
これらの問題がすべて解決され、ミリ波WPAN製品が本格的に普及するのは、90nmプロセス以上を用いて60GHzワンチップCMOSの登場が期待できる2010年以降と予想される。それまでは CMOSとSiGe、化合物半導体を混載したマルチチップ・モジュールなどを使用し、アンテナ制御技術をそれほど必要としない半固定的なポイント・ツー・ポイント(1対1接続)のアプリケーションが先行すると思われる。