[標準化動向]

802.15.3c(無線PAN)の標準化動向(6):ミリ波無線PANの方式提案(CFP)、全会一致で発効へ

2007/03/20
(火)
SmartGridニューズレター編集部

無線PAN(Personal Area Network)の標準化を行う802.15.3WGでは、2005年5月に設立された802.15.3cタスク・グループ(TG3c)の活動が活発化してきた。このタスク・グループは、家庭におけるハイビジョンの非圧縮映像の配信などを実現する、60GHz帯のミリ波による2Gbps以上の高速WPANの標準化を目指している。今回は、 2007年1月にIEEE 802.15(WPAN)会議(Interim Meeting)の中で開催された、第11回TG3cミリ波WPANの活動についてレポートする。

IEEE 802.15.3c 第11回会合

IEEE 802.15ワーキング・グループの第46回会合は、2007年1月14日~18日、英国ロンドンで開催された。この中で、TG3cの第11回会合では、16日に4スロット、17日に3スロット、18日に4スロットの計11スロット、22時間の討議が行われ(1スロットは2時間の会議)、各スロットに約60名(うち投票資格者は30名前後)の出席があった。

ミリ波無線PANに関する方式提案の募集(CFP:Call For Proposals)要項、および関連ドキュメントの最終確認作業の後、ドキュメントごとに個別に投票による承認が行われた。CFPドキュメントは賛成33、反対、棄権0の満場一致で承認され、CFPが正式に発効した。

今回のCFP発効にあたり、CFI(Call for Intent:提案提出の事前届出)の再開が行われた。前回のCFI締め切り(2005年12月)からかなり時間が経過しているため、新規応募者への門戸開放を図った措置である。なお、CFI既登録者については再度届け出る必要はない。CFI届出の締め切りは2007年3月1日、CFP提案提出の締め切りは2007年5月7日となった。

今回の寄与文書28件のうち、7件は日本の情報通信研究機構(NICT)、またはNICTと連名の寄稿であった。

今回の討議内容

【1】CFPおよび関連ドキュメントの完成と承認

今回承認されたCFPおよび関連ドキュメントは、次のとおりである。

(1) TG3c提案募集要項(07/586r1)

(2) TG3c利用モデル書(06/055r21)

主に、各利用モデルにおけるMAC(Media Access Control、媒体アクセス制御)に関する要件項目、および用語の定義について最終確認を行った。とくに「デバイス・ディスカバリ」については解釈の不一致があり、入念な討議の結果「デバイス・ディスカバリ」と「オートマティック・デバイス・ディスカバリ」に区分された。

(3) TG3cシステム要求書(07/0583r0)

(4) TG3c選定基準書 (05/493r26)

応募者が提案書に記載すべき内容について規定した文書であるが、要求事項が多岐に渡っている。このため、各利用モデルと各チャネル・モデルの組み合わせを行うと、シミュレーションの量が膨大になるため、各要求項目の重要度クラス分けとシミュレーション・シナリオが討議され、シミュレーション項目のスリム化が行われた。また、MACに関してはシミュレーション方法は規定せず、スループット(実効速度)の解析結果を提案者に要求する内容になっている。

▽重要度Aクラスの項目
一般事項:干渉と被干渉耐力、製造性、拡張性 ほか
PHY(Physical Layer、物理層)プロトコル:PHY-SAP ペイロード・ビットレート、データ・スループット ほか
〔SAP:Service Access Point、サービス・アクセス点〕

▽シミュレーション・シナリオ
PHY:指定のPHYシミュレーション用チャネル・モデル・ゴールデンセット・プログラム(後述)を使用する。
MAC:UM1(利用モデル1:非圧縮HDストリーミング)、およびUM5(利用モデル5:ダウンロード・キオスク)の条件を指定。ビーコン・ペイロード長は100オクテットを指定。

(5) チャネル・モデル最終報告書(07/584r0)

報告事項:
▽PHY
・PER(パケット誤り率)平均90%時のBER(ビット誤り率)とEb/N0の対応グラフ
・PER平均90%時のBERと距離の対応グラフ
・同期ミスとSNR(Signal to Noise Ratio、S/N比)の対応関係
・パケット構成(プリアンブル長、PHYオーバーヘッド長 ほか)
〔Eb/N0:1ビット当たりのキャリア電力/雑音密度比〕

▽MAC
・UM1におけるスループット解析結果
・UM5におけるスループット解析結果
・ARQ方式とパケット・アグリゲーション(パケットの集約)のパラメータ(もしあれば)
・インターフレーム・スペース(IFS、フレーム間隔)、PHYモード、フレーム・サイズ ほか
〔ARQ:Automatic Repeat Request、自動再送要求〕

(6) チャネル・モデル MATLAB コード・プログラム(07/566r0)

インテルなどが提案したモデルと、NICTが提案したモデルを統合したチャネル・モデル・シミュレーション用プログラム。
〔MATLAB:MATrix LABoratory、数値解析ソフト。米国Math Works社が開発。〕

(7) PHYシミュレーション用チャネル・モデル・ゴールデンセット・プログラム(3種:07/580r1、07/581r1、07/582r1)

シミュレーションの軽減と、異なる提案方式の公正な比較を行うために、チャネル・モデルやアンテナのパラメータを固定したMATLABのプログラム。

【2】その他の発表

(1) High rate OFDM system for 60GHz WPAN(07/539r0)

フランス・テレコムから、OFDM方式によるの特性評価結果の報告があった。ECMA-368で標準化されているUWB(Ultra Wide Band)方式とのコンパチビリティを図っている。サブ・キャリア数1024本、16QAM変調、符号化率5/6で、約1GHzの帯域幅で2.4Gbpsを達成とのこと。
〔OFDM:Orthogonal Frequency Division Multiplexing、直交周波数分割多重〕
〔ECMA:European Computer Manufactures Association、欧州コンピュータ製造者協会、およびその規格名〕

(2) A/D converters for 60GHz radio(07/542r1)

IMEC社の60GHz用CMOS( Complementary Metal Oxide Semiconductor)のADコンバータ(アナログ・デジタル変換器)の紹介。90nm CMOSを用いて、4ビット、1.25GS/sで2.5mWの低消費電力を実現したという。

(3) Regulations Korean 60GHz unlicensed band (07/554r0)

韓国の法制化の最新事情の紹介。周波数帯は米国と同じ57〜64GHzで、送信電力規制が屋内利用と屋外利用で異なる。2007年1月に意見募集し、数ヶ月以内に決定とのこと。

計画スケジュール

従来どおり変更はない。次回の米国・オーランド会合(3月11~16日開催)で方式提案の一部を発表する。CFPの締め切りは、2007年5月会合(カナダ・モントリオール)の1週間前(5月7日)で、その5月会合で全応募提案が発表される。それを受け、2007年7月(米国・サンフランシスコ)に提案の絞り込みが実施され、標準化完了は2008年5月を予定している(表1)

表1
表1 802.15.3cの標準化作業スケジュール(変更後)

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関連リンク

文書資料のダウンロードについて
今回紹介した文書資料は、以下のURLからダウンロード可能。
http://www.802wirelessworld.com/index.jsp (要メンバー登録:無料)
http://www.ieee802.org/15/pub/TG3c.html (登録不要)

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