[ニュース]

「ペロブスカイト太陽電池」実証実験が相次いでスタート

政府が予算を増額。2024年5月下旬から官民協議会を設置し普及促進へ
2024/05/31
(金)

日本が優位性をもつ「曲がる太陽電池」

 第7次エネルギー基本計画の策定(2024年)を目前にして、太陽光発電の次世代技術として日本発の「ペロブスカイト太陽電池」(表1)の動きが活発化している。この太陽電池は、発電材料をフィルムなどに塗布・印刷したもので「曲がる太陽電池」(図1)とも呼ばれている。
 ペロブスカイト太陽電池は、現在広く普及しているシリコン系太陽電池よりも製造工程が少なく、大量生産や低コスト化が見込めること、軽くて柔軟なため施工が容易、さらに多彩なスペースで太陽光発電が見込めることなど、多くの特徴をもつ。一方で耐久性に欠け大面積化が難しいといった課題も残っているが、発電効率の向上を目指す研究開発も進められている。
 日本は、この新技術において世界をリードしている。また、主な原料(結晶構造の材料)は、日本が世界シェア2位(1位はチリ)を占めているヨウ素(図2)で、経済安全保障の面からもメリットがある。ただし、中国をはじめ諸外国でも開発が急ピッチで進んでおり、今後はこれら諸外国との競争激化が予想される。

表1 ペロブスカイト太陽電池の主なプロフィール
出所 各種資料より編集部作成

図1 面積が世界最大のフレキシブルなフィルム型ペロブスカイト太陽電池モジュール(東芝製)

出所 NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)Webサイト、「面積世界最大のフィルム型ペロブスカイト太陽電池モジュールを開発」

図2 次世代太陽電池「ペロブスカイト太陽電池」の構造例

出所 資源エネルギー庁、再エネ「次世代太陽光(ペロブスカイト太陽電池)」

政府から648億円の開発予算、さらにFIT優遇も

 ペロブスカイト太陽電池は現在、中国製が過半を占める太陽電池市場におけるゲームチェンジャーとして大きな期待が寄せられている。日本政府は、2020年に具体化した「グリーンイノベーション(GI)基金」の中で、「次世代型太陽電池の開発プロジェクト」注1をスタートさせた。当初498億円の予算だったが、2023年に648億円に増額された注2
 また普及拡大に向け、生産拠点整備のためのサプライチェーン構築支援策も用意された。加えて、FIT(固定価格買取制度)において通常の太陽光発電よりも高く買い取るよう、経済産業省で調整が進められている。
 さらに経済産業省は、次世代型太陽電池の導入拡大および産業競争力強化を図るため、2024年5月下旬から、有識者、太陽電池メーカー、関係業界団体、自治体などから構成される「次世代型太陽電池の導入拡大及び産業競争力強化に向けた官民協議会」を開催することを発表した。

企業も早期実用化に向け実証実験を開始

 最近のペロブスカイト太陽電池に関する主な実証実験には、次のような例が相次いで発表されている。
 (1)積水化学工業は、2022年に東京都と共同開発を開始。翌年(2023年)にはフィルム型ペロブスカイト太陽電池を建物外壁に設置した実証実験を、さらに今年(2024年)4月には東京都北区の閉校となった学校プールに浮体型を設置して発電する実証実験を、エム・エムブリッジ、恒栄伝説と共同で進めている(図3)。
 (2)低照度でも発電できる技術を開発したリコージャパンでは、2023年に室内で実証実験を行ったほか、2024年からは東京都の馬込第三小学校(東京都大田区)や神奈川県の厚木市役所本庁舎(神奈川県厚木市)でも実証実験を開始している。
 (3)4月25日には、日揮ホールディングスとエネコートテクノロジーズが、北海道の苫小牧埠頭で本格的な実用化に向けた実証実験を開始したことを発表した(図4)。

図3 学校プールに設置された「浮体式ペロブスカイト太陽電池」

出所 積水化学工業株式会社 ニュース、2024年4月5日、「浮体式ペロブスカイト太陽電池の共同実証実験開始」

図4 北海道の苫小牧埠頭における実証実験設備の取付状況

出所 日揮ホールディングス株式会社 Press Release、2024年4月25日、
「北海道初となるペロブスカイト太陽電池の実証実験を本格的に開始」


注1:所轄は[NEDO]国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構。
注2資源エネルギー庁、「日本の再エネ拡大の切り札、ペロブスカイト太陽電池とは?(後編)」、2024年2月

参考サイト

経済産業省 資源エネルギー庁 スペシャルコンテンツ、2024年2月9日、
「日本の再エネ拡大の切り札、ペロブスカイト太陽電池とは?(前編)~今までの太陽電池とどう違う?」

同経済産業省 資源エネルギー庁 スペシャルコンテンツ、2024年2月9日、
「日本の再エネ拡大の切り札、ペロブスカイト太陽電池とは?(後編)~早期の社会実装を目指した取り組み」

NEDO、グリーンイノベーション基金事業概要等、「グリーンイノベーション基金事業概要」

NEDO、プロジェクト情報「次世代型太陽電池の開発」

積水化学工業株式会社 ニュース、2023年2月13日、「国内初、ペロブスカイト太陽電池を建物外壁に設置した実証実験開始」

積水化学工業株式会社 ニュース、2024年4月5日、「浮体式ペロブスカイト太陽電池の共同実証実験開始」

リコージャパン株式会社 ニュースリリース、2024年2月1日、「リコーとリコージャパン、ペロブスカイト太陽電池の実証実験を開始」

リコージャパン株式会社 ニュースリリース、2024年3月15日、「東京都でのペロブスカイト太陽電池の実装検証を開始」

日揮ホールディングス株式会社 Press Release、2024年4月25日、
「北海道初となるペロブスカイト太陽電池の実証実験を本格的に開始」

 

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