[標準化動向]

802.1/802.3の標準化動向(3):802.1agでNGN対応のイーサネットOAMを標準化へ

2006/09/25
(月)
SmartGridニューズレター編集部

今回は、IEEE802委員会の802.1WG(ブリッジ/VLAN/アーキテクチャ)のホット・トピックスとして、IEEE802.1ag イーサネットOAMを取り上げて紹介する。
802.1agイーサネットOAMは、イーサネットなどレイヤ2技術を用いた広域網において、運用、管理、保守の手段を提供するための方式を規定している。すなわち、802.1agは、広域イーサネット網にSONET並みの保守管理機能を実現する最新の規格で、2007年7月に標準化の完了が予定されている。最近では、NTTの次世代網(NGN)トライアル網において採用されるなど、大きな注目を集めている。

IEEE 802.1WGのホット・トピック

IEEE 802.1WGでは、現在、次の4つのエリアに分かれてブリッジやVLAN(Virtual LAN、仮想LAN)に関する標準化を進めている。

(1)インターワーキング(網接続)
網の相互接続に関する方式(スイッチとVLAN)

(2)セキュリティ
レイヤ2網内の暗号化通信方式

(3)AV(Audio Visual)ブリッジング
家庭内接続用途のマルチメディア対応スイッチング方式

(4)輻輳管理
レイヤ2網内の輻輳(網の混雑)を制御・緩和するための方式

上記の4つのエリアのうち、(2)に関しては、レイヤ2暗号化通信方式(MACSec)の本体規格であるIEEE 802.1AE〔Media Access Control (MAC) Security〕規格の標準化が本年(2006年)の6月に完了し、一段落がついた状況にある。

IEEE 802.1AEは、MACSecの基本的な概念やフレーム・フォーマットと暗号化アルゴリズム(演算処理手順)を規定している。デフォルト(かつ現在唯一の)の暗号化アルゴリズムとしては、GCM-AES-128(用語解説参照)が選定されている。

現在は、暗号化に必要となる認証鍵の交換プロトコル(Authenticated Key Agreement)の標準化が、IEEE802.1af〔Media Access Control (MAC) Key Security〕として進められている。IEEE 802.1afはドラフト0.5が発行済みであり、2006年内の標準化完了を予定している。

その他の(1)、(3)、(4)のエリアについては、現在も活発な標準化審議が進められている。(1)のインターワーキング・エリアにおいて、最も注目を集め、活発な議論が行われているのが、IEEE 802.1agとIEEE 802.1ah〔Provider Backbone Bridges、プロバイダ・バックボーン・ブリッジ〕の標準化プロジェクトである。

IEEE 802.1agとIEEE 802.1ahは、規定の内容はそれぞれ異なるものの、ともに次世代の広域イーサネットを実現するための方式である。

今回は「IEEE802.1ag イーサネットOAM」を取り上げて、標準の概要と標準化の状況を紹介する。

IEEE 802.1ag 「イーサネットOAM」

【1】OAMの目的

IEEE 802.1ag規格の正式名称は、「CFM」(Connectivity Fault Management、到達性管理)であるが、一般的には「イーサネットOAM」と呼ばれている。OAMとは”Operation Administration and Maintenance”の略であり、通信事業網における「運用、管理、保守」を意味している。すなわちIEEE 802.1agは、イーサネットなどレイヤ2技術を用いた広域網において、保守管理の手段を提供するための方式を規定している。

イーサネットは、1990年代の終わり頃から、従来の企業内LANだけでなく、広域網(公衆網)においても用いられるようになってきた。しかし、もともとLAN向けに規定されたイーサネットには、SONETやATMといった従来の広域網向け技術において活用されてきたループバック(相手にデータを送信して同じデータを戻してもらうこと)や経路探索、疎通性(相手との通信可能なこと)確認(Continuity Check)など、保守管理のための仕組みが備わっていない。

そこで、イーサネットでSONET(用語解説)やATM(用語解説)並みの保守管理機能を実現して、L2(レイヤ2)網の信頼性を高めるため、2004年からIEEE 802.1agタスク・フォースが設立され、イーサネットOAMの方式検討が開始された。IEEE 802.1agは、現在ドラフト7.0が発行されており、標準化完了は2007年7月の予定である。

なお、先頃発表されたNTTの次世代ネットワーク(NGN)の提供機能の一つである「次世代広域イーサ」では、QoS制御機能などに加えて、イーサネットOAMに対応することが明言されている〔参考文献(4)参照〕。残念ながら、具体的にどのようなOAM機能が使用されるかまでは現時点では明言されていないが、イーサネット・サービスの高信頼化、高付加価値化に貢献するものと期待される。

【2】IEEE 802.1agとITU-T Y.1731

イーサネットOAMについては、IEEE 802.1WGだけでなく、ITU-Tにおいても標準化が行われており、すでにITU-Tの方は、本年(2006年)の1月に、Y.1731勧告としてコンセント(合意)が完了している(Y.1731勧告:OAM functions and mechanisms for Ethernet based networks、イーサネット・ベースのネットワークに対するOAMの機能と仕組み)。

ITU-T Y.1731とIEEE 802.1agは密接に連携を取りながら標準化が進められてきた。表1にIEEE 802.1agとY.1731で規定される保守管理機能の比較を示す。

表1 IEEE 802.1agとY.1731のイーサネットOAM機能比較
表1 IEEE 802.1agとY.1731のイーサネットOAM機能比較 (クリックで拡大)

表1に示すように、IEEE 802.1agはイーサネットOAMの中でもベースとなるCC(監視ポイント間の到達性監視)、LB(ループバック試験機能)、LT(L2網内の経路探索機能)の3機能のみを規定している。

IEEE 802.1agは、これらの個々の保守管理機能の他に、基本的なフレーム・フォーマットや階層化管理の概念(後述)について規定している。Y.1731はIEEE 802.1agで規定されたフレーム・フォーマットや概念を使用して、CC、LB、LTの他に、通信事業において求められるさまざまな拡張機能を規定している。

図1に、IEEE 802.1agとITU-T Y.1731で使用されるOAMフレームのフレーム・フォーマットを示す。IEEE 802.1agとY.1731は、ともにこの共通フレーム・フォーマットを使用する。OAMフレームの機能を識別するための識別子OpCode(Operation Code)の0~31および64~255がIEEE 802.1用に確保されており、32~63がITU-T用に割り当てられている。このように、IEEE 802.1agとITU-T Y.1731は、それぞれ標準の範囲を分担しながら標準化を進めている。

図1 IEEE 802.1ag/ITU-T Y.1731OAMフレーム・フォーマット
図1 IEEE 802.1ag/ITU-T Y.1731OAMフレーム・フォーマット (クリックで拡大)

とは言うものの、IEEE 802.1agの標準化審議が進むにつれ、IEEE 802.1agをベースとしつつ、先に標準化が完了したY.1731とIEEE 802.1agは、仕様的な差異が生じつつある。Y.1731が将来、IEEE 802.1agの最終的な仕様と合わせるため、さらなる改訂を行うか、IEEE 802.1agがITU-Tの仕様に合わせる形で踏みとどまるかは、今後の議論にゆだねられている。

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