[標準化動向]

【TTC会長賞受賞記念】NGN時代を支えるイーサネット(802.3ah)標準:その逆転のドラマ(1)

2008/08/05
(火)
SmartGridニューズレター編集部

日本の情報通信ネットワークの標準化機関であるTTC(情報通信技術委員会)は、毎年TTCの目指す標準化活動やその普及を図ることに貢献した技術者や研究者などの表彰を行っている。今回は、去る2008年6月24日に東京・芝公園にあるメルパルク東京で授賞式が行われ、21名(総務大臣表彰3名、TTC会長賞2名、功労賞16名)の方々が受賞された。ここでは、そのうち見事にTTC会長賞を受賞された日立電線(株)ネットワーク開発部 部長の瀬戸康一郎氏に、受賞の喜びと、受賞に至るご苦労話および標準化活動の重要性などをお聞きした。瀬戸氏の受賞理由は、NGN時代の光アクセス技術(FTTH)の基本ともなる光イーサネットの国際標準化(逆転のドラマ)への貢献であった。

NGN時代を支えるイーサネット(802.3ah)標準:その逆転のドラマ"

≪1≫FTTHの基礎となる歴史的な802.3ah(EFM)標準化のスタート

■ このたびは、これまでの17年間(1991年から)にわたる地道なイーサネット関連の国際標準化活動(IEEE 802.3)が高く評価されて、TTC(情報通信技術委員会)からTTC会長賞(※1)を受賞されましたこと、本当におめでとうございました。

※1 TTC会長賞:<表彰基準>TTCの目的である「情報通信ネットワークに係る標準を作成することにより、情報通信分野における標準化に貢献するとともに、その普及を図ること」に沿う事業の遂行に貢献された個人又は団体

TTC会長賞を受賞され日立電線(株)ネットワーク開発部 部長 瀬戸康一郎氏

瀬戸 ありがとうございます。正式には、『光アクセス網のポイントツーポイント光多重伝送方式』(IEEE 802.3ah:EFM)に関する標準化への貢献ということで表彰されました。

 

 

 

写真1(右):TTC会長賞を受賞された日立電線(株)ネットワーク開発部 部長 瀬戸康一郎氏

写真2(下):TTC会長の羽鳥光俊氏(右)から表彰状を授与される瀬戸康一郎氏(左)

TTC会長の羽鳥光俊氏(右)から表彰状を授与される瀬戸康一郎氏(左)


■ 当初(1980年初頭)、企業やキャンパスなど限定された構内網として標準化されたイーサネットが、その殻を破り広域的な光アクセス網(FTTH:Fiber To The Home)としても大きく普及し、さらにNGN時代を迎えてますますその役割が重視されるようになっていますね。今回の受賞の対象となったのは、イーサネットに関するどのような内容の標準化活動なのでしょうか?

瀬戸 具体的に申しますと、LANやMANの標準化を推進しているIEEE 802委員会では、今から7年前の2001年の10月に、802.3ahというタスク・グループが承認され、その標準化が開始され、2004年9月に完了しました(図1、表1)。この802.3ahに関する技術や方式は総称して、EFM(Ethernet in the First Mile)といわれましたが、このEFMとは「ユーザー宅から通信事業者までの最初の1マイル(1.6km)のアクセス網にイーサネットを適用する」ための規格(いわゆるFTTH)のことです。

私も、この802.3ahでEFMの標準化に正式なボーティング・メンバー(投票メンバー)として参加し、活動を展開しました。今回の受賞の対象は、以上のような標準化活動を評価いただいたものと思います。


図1 イーサネットの歴史(瀬戸氏資料による)(クリックで拡大)



表1 IEEE 802.3ah(EFM)標準化の歴史(クリックで拡大)


≪2≫「一心双方向」通信をめぐって米国案が大きくリード

■ それは、今日のNGNのサービス「光ネクスト」が、イーサネットをベースにした光通信サービス(FTTH)であるところからみると、歴史的にはたいへん先進的な標準化でしたね。
ところで、標準化は各国の技術の競合の場でもありますから、ドラマもあったでしょうね。

写真3 瀬戸康一郎氏
写真3 瀬戸康一郎氏

瀬戸 はい、とても大きなドラマがありました。その当時(2001年~2002年)、光イーサネットによるFTTHでは、100Mbpsと1Gbpsを一心の光ファイバで双方向通信を行う「一心双方向」という方式が、最有力となっていました。

ところが、「一心双方向」を実現する方法として、

(1)米国からは「上りも下りも同じ波長」で一心双方向通信をやりたい、そのほうが経済的に安くできるという提案

(2)日本からは、「上りと下りで異なる波長」で一心双方向通信をやる波長多重方式の提案

などがあり、主にこの2つの方式が標準化の俎上に上がっていまして、真っ向勝負となっていました。しかし、米国からの「上りと下りとも同じ波長」でやるほうが安くできるという提案のほうが支持が多くて、802.3ahのタスク・グループにおける標準化の流れは、大きくそちらに傾いていました。

■ それは、単純に考えますと米国の提案「上りも下りも同じ波長」で実現できれば、日本からの提案よりも経済的だと思いますが……。

瀬戸 そのとおりですね。ところが、もともと一心双方向で100Mbpsの伝送速度で通信することについては、その当時、すでに日本国内ではある程度実績がありましたし、NTTの研究所でもかなり調査研究をしていて、実際に「上りも下りも同じ波長でやるという方式(一心双方向の同波長方式)」(米国の提案)についても、すでにいろいろな試験を行ってきていたのです。

ところが、その試験結果はよくなかったのです。つまり、一心双方向の同波長方式(米国の提案方式)は、光の反射の影響やその他原因不明のトラブルがあり、あまりよい成果が得られなかったのです。当時、私も、このようなお話を聞いていましたし、一心双方向伝送に2波長多重方式を使用するのはある種の常識になっていたのです。そのような背景もあり、日本の標準化機関であるTTC(情報通信技術委員会)では2波長多重方式、すなわち上りと下りで波長が異なる方式(TS-1000)が標準化されました(TS-1000:光加入者インタフェース-100Mbps一心WDM方式-(第1版2002年5月23日制定。その後改訂)。

このように、その当時すでに日本では、802.3ahのタスク・グループで審議している内容「1波双方向がいいのか、2波双方向がいいのか」ということは、すでに決着がついていたのです。

■ さすが、光の先進国日本ならではのことですね。

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