住友電気工業は2017年3月17日、カリフォルニア州サンディエゴでレドックスフロー電池を活用した系統安定の実証実験を開始したと発表した。新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)から委託を受け、アメリカの大手電力会社San Diego Gas and Electric社と共同で実施する。
図 実証実験に使用するレドックスフロー電池
出所 住友電気工業
今回の実証実験では電力系統の周波数調整、電圧調整、余剰電力吸収など、系統を安定させるためにレドックスフロー電池が有用であると実証することを目的としている。レドックスフロー電池はSan Diego Gas and Electric社の変電所内に設置し、信頼性や運用コストなどについての評価を受けた後、実証に移る。
実証では、系統運用機関からの指示を受けて、送電網を安定させるために電力を吸収/放出する。送電網を安定させる「アンシラリーサービス」に貢献できることを実証して、レドックスフロー電池の価値を高めることを狙っている。
今回の実証実験の背景には、カリフォルニア州が掲げる再生可能エネルギーに関する目標がある。カリフォルニア州は全供給電力のうち再生可能エネルギー由来の電力(大規模水力発電所によるものは除く)を2020年までに33%、2030年までに50%とする野心的な目標を掲げている。この目標はアメリカではハワイ州に次ぐ高い目標だという。
しかし、太陽光発電や風力発電は気候や時間によって出力が大きく変動する不安定な電源だ。実際、カリフォルニア州でも太陽光発電設備が増加し、太陽光発電設備の発電量のピーク(正午ごろ)と、電力需要のピーク(夜間)のずれが問題となり始めている。このピークのずれを示すのが下の図だ。この図は全体の電力消費量から、太陽光発電や風力発電による発電量を差し引いた「実質的な」電力需要を示すものだ。
図 カリフォルニア州における1日の実質的な電力需要の推移を示すグラフ
出所 California Independent System Operator
グラフを見ると、2013年、2014年は夜のピークに向けて上がっていくような曲線を描いているが、2015年から実質需要を示すカーブが朝から昼間にかけて下降する曲線を描くようになっている。電力需要がそれほど大きくない昼間に、太陽光や風力による発電量が上がっていることを示している。
下を向いた曲線は夕方から夜にかけて急激に上昇する。太陽光や風力による発電量は夜間になると大きく下がるが、電力需要がピークに達する時間帯は変わらないため、急激な上昇線を描く。この線グラフの形をアヒルに例えて「ダックカーブ」と呼ぶことも多い。
グラフを見ると2020年には14時、15時ごろの実質電力需要がゼロに近づいている。さらに太陽光発電や風力発電の導入が進み、発電量が増えると実質需要はマイナスとなり、供給過剰となってしまう。放置していると、大規模停電につながりかねない状態だ。
住友電気工業は、ダックカーブの解消にレドックスフロー電池が役立つと見ている。レドックスフロー電池は大規模蓄電施設を想定したもので、バナジウムなどのイオンの酸化還元反応を利用して充放電する蓄電池だ。設備本体は大きくなるものの、蓄電容量、最大出力、最大入力のどの値も大きいという特徴がある。つまり、大きな電力を貯めることができて、一瞬で大電力を放出も吸収もできるということだ。また、電解液が劣化しないため、事実上充放電サイクルの制限がなく、半永久的に利用できる点も大きな特徴だ。住友電気工業は今回の実証実験のために、蓄電容量が8MWhのレドックスフロー電池を用意した。
カリフォルニア州も、州法AB2514で、電力会社に電力を貯蔵する装置を導入することを義務付けている。さらに、州内の公益機関が協力して「蓄電池ロードマップ(Energy Storage Roadmap)」を策定している。
住友電気工業は今回の実証実験で、再生可能エネルギー由来の電力が増加したことによる系統の周波数の乱れ、電圧変動、余剰電力の発生といった課題を解決することと、蓄電池の費用対効果の向上を目指すとしている。
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住友電気工業