京セラコミュニケーションシステムと国立大学法人筑波大学は2017年7月26日、患者の皮膚の画像を深層学習で分析し、病名を判定して医師の診断を支援するシステムの実用化に向けて共同研究を始めたと発表した。皮膚疾患診断支援システムの業界標準となるものを開発することを目指すという。共同研究の期間は2017年3月~2018年3月の1年間。研究終了の3年後の実用化に向けてシステムの開発に取り組む予定。
システム開発の作業は京セラコミュニケーションシステムが担当する。同社は深層学習を利用して画像認識モデルを作成するクラウドサービス「Labellio」を開発し、公開しているが、今回のシステム開発ではLabellio開発で得た技術や知見を投入して新たなシステムを構築する。
画像認識、深層学習、病名判定など、主要な機能はインターネット上のGPU(Graphics Processing Unit)搭載サーバーに実装する。システムを利用する医師は、皮膚の画像を撮影してこのサーバーに送信することで、分析結果が得られる。
図 京セラコミュニケーションシステムと筑波大学が開発を目指すシステムの全体像
出所 京セラコミュニケーションシステム
深層学習で画像を分析し、病名を判定する画像認識モデルの開発には、筑波大学附属病院の皮膚科が協力する。同科は20年かけて収集した臨床画像データを保有しており、その数は2万枚以上になる。この画像データを画像認識モデルの教師データとして提供する。さらに、開発するシステムの精度の評価や、臨床現場でも使いやすさなどの評価でも協力する。
今回の研究ではまず、皮膚がん、皮膚腫瘍を判別する画像認識モデルの開発に取り組む。京セラコミュニケーションシステムによると、現時点で悪性黒色腫(メラノーマ)や基底細胞がんなど、14種類の皮膚がんや皮膚腫瘍を認識可能なところまで認識モデルの開発が進んでいるという。皮膚がんや皮膚腫瘍の判別がほぼ完全にできるようになったら、判別対象を皮膚病全体に広げる予定だ。
ほかの多くのがんと同じように、皮膚がんも早期発見と早期治療が完治のために最も重要な点となる。皮膚がんは人間の目に見える皮膚表面に病変が現れるものだが、多くの人がほくろやシミだと判断してしまい、医師の診断を受けようとしないことが多い。そして、病変が大きく広がった状態でようやく医師のもとを訪れることになるが、そのときはすでに病気が進行しており、長期間に渡る治療が必要、あるいはもう手遅れとということになってしまう。
そして、早期の段階で医師の診断を受けるときにも問題がある。皮膚がんなどの皮膚病は皮膚表面に現れている病変を見て診断することが多いのだが、医師の経験や技術によって診断の精度が大きく変わってしまう。つまり、経験が浅い医師では重大な疾患につながる病変を見逃すことが多いということだ。
京セラコミュニケーションシステムと筑波大学は、経験の浅い医師でも正確な診断ができるように支援するシステムを開発するために共同研究を開始した。また、皮膚科専門医がいない離島などの過疎地や、専用機器がない地域でも、今回開発するシステムを利用すれば、病変をデジタルカメラで写した画像を送信することで、遠隔地にいる専門医による正確な診断を受けられるようになるという利点もある。
京セラコミュニケーションシステムと筑波大学は、システム実用化後も改良を続け、2000種類以上の皮膚疾患を判別できるレベルまで精度を上げるとしている。