[特集]

Q&Aで学ぶデジタル放送(11):デジタル放送時代の法制度は?

2008/07/16
(水)
亀山 渉

このコーナーでは、最新のICT(情報通信技術)のキーワードをQ&A形式でわかりやすく解説していきます。
現在、地上デジタル放送から、BSデジタル放送、CSデジタル、CS110°デジタル放送に至るまで、さまざまなデジタル放送が利用でき、多彩な放送を受信できるようになりました。ここでは、これらのデジタル放送と、今までのアナログ放送やインターネットとの相違点から、デジタル放送時代の法制度までを解説していきます
今回は、「アナログ放送」時代と「デジタル放送」時代の法制度の違いについて説明します

Q&Aで学ぶ基礎技術:デジタル放送編(10)
Q11

Q11:デジタル放送時代の法制度は?

アナログ放送からデジタル放送になり、法制度はどのようになるのでしょうか?

A11

「Q.8:インターネット放送とデジタル放送との違いは?」で述べましたが、少なくとも技術的に見ると、通信・放送の違いはデジタル化によってほとんどなくなってきていると言えます(ここではコンピュータ分野も通信に含めて考えることにする)。しかし、法的には歴然とした違いがあります。

すなわち、通信の秘匿性(他人に対して情報が漏れることのないことを保証すること)と、放送の公共性(不特定多数に利害が及ぶこと)による区別です。

≪1≫各国の法制度による区分

[1]日本

通信はその形態から、必然的に1対1の情報交換です。交換される情報は、情報の発信者と受信者間でのみ意味があり、第三者が介在することはありません。これに対して、放送は1対多の情報交換となり、不特定多数の人が発信者(例:テレビ局)の情報を受信することが前提となっています。

このため、日本においては、

(1)「通信関連法」
(2)「放送関連法」

という2つの大きな枠組で法制度を定めています。この法制度では、

(1)電話とインターネットは「通信」
(2)ケーブル・テレビ(CATV)、地上波放送、衛星放送は「放送」

として区別されています。それでは、諸外国はどのようにして放送と通信を法的に扱っているのでしょうか(表1-4)。

表1-4 各国の通信と放送の領域(クリックで拡大)

[2]アメリカ

まず、アメリカは日本の法制度と近い形でこれらを扱っています。電話、インターネットは通信、ケーブル・テレビ、地上波放送、衛星放送は放送として扱われています。しかし、暗号化技術(あるいはスクランブル技術)を用いて番組を配信するサービスは通信として扱われており、この点が日本と異なっています。

[3]イギリス

イギリスでは、通信と放送に使われる設備はすべて通信の法律によって管理されていますが、その上に流れるサービスによって、通信と放送の区別をしています。具体的には、電話は通信、ケーブル・テレビ、地上波放送、衛星放送は放送として扱われています。そして、インターネットは基本的には通信とされていますが、インターネット放送は放送として扱われています。

[4]フランス

フランスでは、通信と放送という枠組ではなく、通信と視聴覚コミュニケーションという枠組で区別がなされています。具体的には、電話は通信、ケーブル・テレビ、地上波放送、衛星放送は視聴覚コミュニケーションとして扱われています。

インターネットに関しては議論中であり、インターネット放送は視聴覚コミュニケーションとして扱われていますが、その他の公共性のあるサービス、例えばBBS(Bulletin Board System、インターネット上の電子掲示板)やWebページなどはその扱いがいまだ定められていないようです。

[5]ドイツ

最後に、ドイツでは、通信と放送という基本的な枠組があるのは日本と共通ですが、通信と放送の融合的なサービスに関してはテレ・サービスとメディア・サービスという概念を設けています。

具体的には、電話は通信として扱われており、ケーブル・テレビ、地上波放送、衛星放送は、一般社会に与える影響の大きさに応じて(これを世論形成度と呼んでいる)メディア・サービスか放送に区別され、インターネットは、同様に一般社会に与える影響の大きさに応じて、テレ・サービスかメディア・サービスか放送のいずれかに区別されています。また、設備に関しては、イギリス同様に通信の法律によって管理されています。

≪2≫放送と通信の融合時代に必要となる法制度変革

[1]マルチキャストは通信か?放送か?

通信の秘匿性と放送の公共性は歴然たる区別であり、この枠組を崩すことは必ずしも得策ではないでしょう。しかし、デジタル化によって、日本で考えられているような通信と放送の区別が曖昧になっていくことは容易に想像できます。

例えば、インターネットを用いたマルチキャスト(特定の多数にデータを送信すること)によるコンテンツ配信は、通信として考えるべきでしょうか? それとも、放送として考えるべきでしょうか? 2006年の著作権法改正により、IPマルチキャストによる放送番組の同時再送信が認められました。しかし、まだまだ制約が多いのが実情です。

このようにして考えていくと、使用する媒体や装置によってそれらを区別して取り扱うというのは、デジタル時代にはあまりそぐわないように思えます。デジタル放送を配信できる媒体は、電波だけではないのです。

そこで考えられるのは、ドイツの例に見られるように、サービスの質によって通信と放送を区別するという方法です。ここでは、誰がどのような条件を考慮して区別するのかという問題が発生しますが、ドイツでは世論形成度といううまい尺度を利用していると言えるのではないでしょうか。

[2]通信法・放送法に代わるもの

いずれにしましても、技術的な区別はもはや存在しないのも同然です。通信と放送の融合ということが叫ばれて久しいですが、技術的にはデジタル化によって両者がすでに融合しているといっても過言ではない状況になっています。そうなると、これを法的にどのように取り扱うかが、次の重要な焦点となってくることは間違いありません。

2002年2月に、このことに関連した事項の報道がありました。日本政府のIT戦略本部では、従来の通信と放送の業種ごとの縦割体系から、ソフト(情報)とハード(設備)の横割体系に変える構想を検討中だというのです。具体的には、従来の通信法・放送法の代わりに、コンテンツ法・プラットフォーム法・ネットワーク法という3つの法的な枠組を設けるという構想です。

また、2007年には、総務省によって、電気通信事業法と放送法を融合させる「情報通信法(仮称)」構想が提出されています。

ここでは、通信と放送の区別なくコンテンツが流通する時代に合わせ、プラットフォームや伝送設備の区別とは別に、コンテンツの公開性や公共性によって、現行の放送とほぼ同じ「特別メディアサービス(仮称)」、現行放送の規制を緩めた「一般メディアサービス(仮称)」、Webなどに対する「オープンメディアコンテンツ(仮称)」に分けた法体系とすることが計画されています。

このように、日本の法制度には、通信と放送の融合時代に向けて、大きな変革が起こりつつあります。

※この「Q&Aで学ぶ基礎技術:デジタル放送編」は、著者の承諾を得て、好評発売中の「改訂版 デジタル放送教科書(上)」の第1章に最新情報を加えて一部修正し、転載したものです。ご了承ください。

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